蒼い✨️ さんの感想・評価
4.4
物語 : 4.5
作画 : 4.0
声優 : 5.0
音楽 : 4.0
キャラ : 4.5
状態:観終わった
名作。
【概要】
アニメーション制作:シンエイ動画
1986年3月15日に公開された97分間の劇場アニメ。
原作は、藤子不二雄が『月刊コロコロコミック』
にて連載していた「大長編ドラえもんシリーズ」作品。
監督は、芝山努。
【あらすじ】
のび太はスネ夫にラジコンで動くロボットの模型を自慢されて羨ましくなり、
ドラえもんに巨大ロボットを強請(ねだ)るが、そんな高いもの買えるか!
とばかりに呆れられて、暑さとのび太にうんざりしたドラえもんは
どこでもドアでどこかに涼みに行ってしまった。
のび太が、どこでもドアで追いかけるとそこは氷に覆われた北極。
ボーリングの球みたいな青い物体を発見したのび太。
球は信号音を発信して、巨大な機械の部品が空中に現れて落下。
どこでもドアで自宅にそれを持ち帰ると、続けて庭に部品が降ってきた。
形状から巨大ロボットの足のパーツと気付いたのび太。
青い球は信号を送って部品を集める装置だとのび太は断定。
ドラえもんが北極から帰ってくると、こんなの知らないと言う。
持ち主不明の巨大ロボットを組み立てて乗り回したいのび太は、
ドラえもんと相談をして、無人の鏡の中の世界でロボットを完成して、
操縦をすることに。しずかを誘ってドラえもんと3人で、
ロボットを楽しむのび太。サンダクロスと名付けられたロボットは、
超高層ビルを一撃で粉砕する破壊光線を発射して、
恐ろしい兵器を作ってしまったことに恐怖する3人。
そして同じころ、このロボットの持ち主の少女リルルが北極に現れ、
青い球が発する電波を追って、のび太たちが住む街に急行。
のび太と接触したリルル。のび太はロボットを返すことにしたのだった。
リルルが地球侵略の工作員ロボットであり、
のび太とのやりとりが地球規模の大事件に繋がっていくことを知る由もなかった。
【感想】
大長編ドラえもんの第7作目。
ヒロインのリルルの存在が大きく「ドラえもん」のファンの間でも特に人気が高い本作品は、
ロボットが支配者となるように神に定められて人間は下等なゴミであるとの選民思想を持つ、
惑星メカトピアの鉄人兵団が、労働力として人間を家畜奴隷にすることを名目にして、
地球へガチの侵略戦争を仕掛けたのを、のび太やドラえもん等のいつものメンバーで立ち向かう話。
ひみつ道具で子供(のび太)の夢を叶えては、調子に乗って用い方を誤って、
そのしっぺ返しを食らって教訓を示すのが「ドラえもん」の黄金パターンではありますが、
今作では昭和50年代のガンダムやマクロスを代表としたロボットアニメブームに準じた、
かっこいい巨大ロボットに乗って侵略者と戦う少年の夢みたいなものをベースに、
藤子先生の価値観、いわば社会学で物語が作られていったもの。
普段のドラえもんが1話完結の日常話に収束されているのに対して、
今作は地球規模での鉄人兵団の猛攻でNYなど先進国の都市が破壊されていくのですが、
アニメの「うる星やつら」と違って次の話では無かったことにしない作風であり、
それでいながら、ドラえもんの大原則である、何が起こっても、
「身の回りの世界にはほとんど影響を残さない」を遵守するうえで利用されたのが、
地球を左右反転してコピーして、それでいながら生物が存在しない、「鏡面世界」
やりたい放題なにをやっても誰にも迷惑がかからず現実世界に影響を及ぼさない、
戦いの舞台に鉄人兵団を誘導して、偽物の世界で暴れまわってもらおうというアイデアで、
いつもの児童誌向けの藤子先生からスケールアップで、
地球規模で侵略を開始した鉄人兵団の大規模な軍事行動を描写可能にしたのですが、
それ以外にも、親や社会に束縛されないしがらみのない自由な世界を楽しむ、
のび太たちの姿が描かれているのも子供の夢を表現したものと言えるでしょうか。
やったことがロボット遊びや高級な肉でのバーベキューでお腹いっぱいにする程度ですので、
子供の想像力の限界みたいなもので微笑ましいものではありましたが、いざ戦いとなると、
コピーされた世界とは言えども、(鉄人兵団の手で)いくら壊しても平気と言い切るのは、
藤子先生の言葉をキャラの口を借りての説明でありますが、
法律が存在しない世界なら、何をやっても罪に問われない危険な考えと思うべきでしょうか。
もっとも人間の犠牲者を出さない目的のためには、必要な作戦ではありますが。
さて、今回の敵である鉄人兵団とは、地球とは別の惑星で進化した人間の科学者が、
人間の醜さに絶望して、人間どころか文明を築いた生物が存在しない惑星に移り住んで、
人の過ちを繰り返さない清く正しい心を持ったロボットの天国が生まれることを願って、
始祖となる2体のロボットを製造したのですが、科学者の死後の3万年の間のAIの学習で、
人間の歴史を模倣したような階級社会や戦争を経て、ロボットからは神とされている科学者が嫌った、
人間に似た(もしくはそれ以上に歪んだ)存在になって地球を侵略しようとしているとの皮肉なオチ。
競争による文明の発展が人類社会の本質であり、それには他者を傷つけてまで優位性を確保する、
戦争などの流血の歴史が伴ってきた。人類には自浄作用がなく、
対立して噛み合うこと無くいつまでも争い続ける存在。それは武力に限ったことではないですが。
争いのない社会の実現を出来るのは神様しかいませんよ…との諦観。締め切りが執筆作業の中、
他に解決の方法が思いつかなかったとの藤子先生の自嘲の文章が残っていまして、
それがあの切ないエンディングに繋がっています。
世界は美しくあって欲しいとの願いの実現は、力やより大きな力に飲み込まれて、
対話に依る解決は現実には殆ど不可能だからこそ、裏技みたいな解決方法になってしまいましたね。
しずかの優しい心に触れて人工知能が学習したものの、故郷であるメカトピアをも裏切れず、
逆に祖国からは裏切り者とされたリルルが選んだ選択。
世界はどうしようもないけど優しい心が守られる世界を望んでの、
世界の殉教者としてのリルルの姿は、大きなテーマ性を持った作品であるとは思いました。
子供が完全に理解するのにはちょっと難しいとは思いますけどね。
子供の興味を引くにはガンダムのモビルスーツに似ててドラえもんらしからぬデザインの、
ザンダクロス(ジュド)が大きく役に立ちましたが、物語の主役はリルルとしずかになってましたね。
最後にのび太が見たリルルは生まれ変わりか幻かは意見が分かれるところですが、
原作では一瞬の幻だと思うのですが、アニメだと後で空を飛んでる姿がありますので、
そこは人を思う心が救われる世界で子供の残る物語にしたかったのかもしれませんね。
これにて感想を終わります。
読んで下さいまして、ありがとうございました。
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