nyaro さんの感想・評価
4.7
物語 : 4.5
作画 : 5.0
声優 : 5.0
音楽 : 4.0
キャラ : 5.0
状態:観終わった
映画として破綻寸前ですが、それゆえ奇跡の名作となった気がします。
24年9月再々レビュー。数度のレビューがゴチャゴチャしているのでまとめます。
後期の宮崎作品の最大の欠点は、描きたいものを描くためにストーリー性を無視していることではないか、と思います。それが一番悪い方に出たのが「ポニョ」でした。
本作においては、ストーリー性、テーマ性、エンタメ性などのバランスがかろうじて取れており、ただ破綻直前の危うさに幻惑される感じがあります。それゆえ非常に独特で他に類がない名作となっています。ただ、ストーリーの理解が簡単なようで難しい作品です。
冒頭の夫妻の車はベンツとかアウディに見えます。上場企業の部長クラスという感じでしょうか。この2人は食欲に負けてブタになります。そして、彼らが迷い込んだのが、バブルのテーマパークの廃墟であり欲望のナレの果てと読み取れます。
ここにカオナシを当てはめると、やはり欲望とそれに負けなかった千尋の「まともさ」が見えてきます。神々も娯楽として湯屋を利用しています。まあ、ソープランドだという説もあるし公式でもある程度認めているそうなので、そういう意味もあるでしょう。やはり欲望を開放する場所となっています。
ですので、メインのテーマは食欲であり性欲、金銭欲の話です。それは読み取れます。が、白竜と魔女の話が入るのでややこしくなります。
ボンと呼ばれる赤ん坊は、甘やかされた象徴でした。この子は旅をすることで成長、人間性を獲得します。それが千尋と重なるのかなと。親から離れて厳しいですが、自立する経験をしたことで名を得ます。名を得るとはアイデンティティの確立のことでしょう。ただ、その成長とは何か?がわかりづらいんですよね。もともと、親が謎の中華料理みたいのを食べているとき拒否します。その時点である程度まともな子に描かれています。そしてかなり初期でカオナシに優しい態度をとります。
釜爺や先輩の女子から礼儀や社会性について怒られていますので、そこは未成熟ではありました。では、その成長物語なんでしょうか。そこがカオナシの話とずれてくるんですよね。
これは白竜と湯バアバの系統の話になると思いますので、特に白竜についてはどんな存在かですよね。一応、千に対してルールの指導的な役割は果たしますし、どうも昔おぼれた川の神であることが示唆されます。ですが、そこに寓意が感じられないというか、何をいいたいのかわかりません。
湯バアバと魔女の分裂から人間の善悪の2面性はあるかもしれません。欲望にとらわれた湯バアバもしかしセルフルール(つまり社会のルール)には縛られていますので、労働と成長の一つの要素にはなっていますけど。神々は面白い描写ですけど、要するにサラリーマンですよね。両親の問題も欲望のほかに、ルールを破ったことも大きな要素になっています。
そう、こうやって考えると白竜が圧倒的に浮きます。浮きますが描かれているのは、宮崎駿氏が描きたかったのは白竜なんだろうな、と思います。「ハウル」のカルシファーとか重要だけどよくわからないものでしょう。
(追記 ちょっと思い出したのが、途中でケガレ神?あの湯屋にデロデロの汚さで来た神は、千尋によって「汚れを落とす」=「射精」とも取れるメタファーがありました。あの表情のアップはすっきりした賢者タイムですよね?宮崎駿氏だとも見えます。
環境問題ともとれますが、金を置いてゆくのでどちらかと言えば、やはり風俗の話が見て取れます。その後、その様子を見ていたカオナシも金満家(偽)として、風俗店で豪遊して千尋に向かって汚いもの(吐しゃ物=射精)を発射しようとしますので。
これと対比すると、白竜は純愛…ともとれますが、やはり無理やり虫を吐き出されたシーンがあります。つまり童貞喪失?竜は川であると同時に男性のメタファだと考えると、白竜はお店の店員で本当は千尋に手を出すとひどい目に合うはずで、実際あいました。つまり、純愛であり、千尋が足抜けするために協力したお店の店員という感じでしょうか。ルールにこだわるのもこの辺の業界のしきたりのように見えます)
欲望、社会のルールと成長。そういう要素は感じられますが、じゃあ、ストーリーは?という感じでした。それでいて、なぜか一貫性があって「物語」はあるように感じてしまうのが不思議な作品でした。
別の話ですが、この作品の宮崎駿氏にとっての重要な点はヒロインが可愛くない、いわゆるラナとかナウシカの顔から脱したことでしょう。美少女を風俗に置きたくないのかもしれませんが、リアリティ、つまり当時の社会のアナロジーにしたかった意図は感じられます。
宮崎アニメだとポニョと本作は敢えて美少女から脱した作品で、その意味は大きいでしょう。ここで初めて氏は社会の現実を見たのかもしれません。
で、この作品の評価は再視聴するごとに落ちます。理由はストーリーの出来が悪いからです。ですので映画としての出来の評価は下げたくなります。宮崎ブランドの底上げが大きかったということでしょう。
ただし、中に含まれている今まで気が付かなかったメッセージに気が付くのが宮崎作品のすごいところで、その点での評価は見るたびに上がります。
ですので本作は、ストーリーは4.5ですが、非常に満足度が高い映画という評価になります。
私としては、本作と魔女の宅急便が少女の成長物語として対になっている感じです。ナウシカ、もののけ姫の自然と文明の系統、そして風立ちぬ、君たちはどう生きるかの私小説系統など、テーマ性が明確な系統だった作品がのちに残る作品かなと。その点で「紅のブタ」も私小説系統なんですけどファンタジー色というよりイタリア的な描きかたがノイズだったかなあという気がします。
トトロは自然系統ですけど文明批判が足りず。ハウルとラピュタはファンタジーすぎて何が言いたいのか良くわかりません。ポニョは論外…という評価でしょうか。