ネムりん さんの感想・評価
4.2
物語 : 4.5
作画 : 4.0
声優 : 4.0
音楽 : 4.5
キャラ : 4.0
状態:観終わった
「僕はただ好きなものを好きなままでいたい」
□最終回・総評
▩物語4.0点→4.5点
音楽4.0点→4.5点
物語の個人的評価は今期1位の作品でした(視聴断念を除く32作品中)。
続編はproject No.9初の映画化。
ちなみに相変わらず評価低めですが、私はあにこれの点数評価は全く参考にしていません。レビューを読んでも中身に客観性がないので参考にならないですw
まことくんの母親のトラウマが父親によるものと考えた人がいると思いますが 、父親が最初からまことの理解者であったこと、母親に転校の事実を伝えていなかったこと、母親と同居している事実から母方の祖父に連絡を取っていたことが判明した時点で祖父が該当人物と特定できますが、結果は違っても疑問を持つことが必要だと思います(理由は多角的な視点を持てるからです)。
まことのセリフで「男の子として生きたいのか、女の子として生きたいのかやっとわかったんだ。どっちでもないって。僕は僕のままで生きたい」と父親のセリフで 「みんなと色々話したんだろうな。傷ついても嫌な思いをしてもきっと頑張ったんだよ。大丈夫だよまことは、僕たちが思っていたよりずっと大丈夫だ」
この言葉が作品の全てを物語っていて、自分らしく生きるとは何か、価値観が変わるとは何を意味するのか、受け取ったメッセージから視聴者が考えることが大切です。
ありのままの自分を受け入れて客観的に自分を見れるかどうか、母親が修学旅行の映像に映っていたまことの笑顔を見て何を感じ取ったのかを性の多様性や普遍性の観点から理解することに作品の意図があります。
なぜなら作品のタイトルの蒼井咲目線、主人公の心境が変化した理由を当事者である相手側の視点から物語を説明しているからです(基本は主人公視点ですが、主人公の心の機微を二人称視点で補足している。第3話のまことの靴を追いかけていた時の咲のセリフや第10話の観覧車の中でまことに向けられた竜二のセリフなどが該当します)。
語り手と聞き手を含めた広い視野で状況説明することで、視聴者に理解させる構成になっているからです。
日本はLGBTQの割合が先進国の中ではトップクラスに多い国と言われますが、国や企業、学校レベルで取り組みが遅れているため性的少数者に対する偏見や差別が根強く残り、生きづらさを感じている人が多いのが現状です。
それに対し脚本家の方が第10話の冒頭付近でメッセージとして込めた竜二と咲、二人の会話の中の竜二の「まことが女装と知っても、オレがまことを好きと知っても"えっ"てならなかっただろ?」 の問いに対し、咲の「"えっ"て何ですか?」です(→タイトルの回収。前述した「おとこのこ」の意味を考えてください)。
つまり世間に対する価値観が変われば、物事の価値基準(自分自身の判断軸)は変えられることが本作品の伝えたかったことだと思います。
言い換えると、当たり前ではないものが当たり前になる世間一般の「共通認識を持つ」ことが重要です。
価値観が変わるとは疑問が生じ別の見解が得られた時、経験や情報がアップデートされて新たな視点を持つ時です。
当たり前ではないことや社会のルールに縛られないことは固定観念を覆す時に必要で、課題解決の役割を果たしたり新たな問題の発見につながり「気づきを与える」といった点で、我々受け手側の価値観を変える本質を捉えた建設的な作品内容でした。
音楽は橋本由香利さん。
「3月のライオン」、「輪るピングドラム 」、「とらドラ!」など数多くの有名作品を手がけている方ですが、音楽の評価4.5点付けたのは特に劇伴が良かったからです。
X(旧Twitter)などを見ると、感動したり共感を覚えた人はかなり多い作品ですが、音楽の影響は非常に大きかったと思います。
キャラクターによって音源を使い分けていて、まことは「ピアノ」、竜二は「アコースティックギター」、咲ちゃんは「木管楽器」。
繊細な感情の持ち主のまことはシーンに合わせ、より心情に寄り添う場面では音数を抑えめにして曲のテンポを落としたり、感情が高まる場面では木管楽器との合奏でメロディーにアレンジを加え、編曲による感情表現が多彩で、優しい竜二はアコギによるナチュラルで暖かな曲が特徴。
第9話の映画館でまことの手を握った後、別れを切り出すシーンの曲がとても印象的でした。
咲は第3話のまことの靴を見つけて走り出すシーンのクラリネットを主音源とする、切なさと疾走感を表現したテーマ性のある曲が魅力的で、どれも心に響く素敵な楽曲でした。
※追記
個人的MVPはメイドまこちゃんでした(^-^)
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□第11話まで
修学旅行のパートはとても重要でした。
修学旅行のイベントで何を表現したかったのか?まことくんの母親に何を伝えようとしていたのか?第2話の内容と類似性があるのはなぜか?その時母親はどのような反応をしたのか?羽川さんが心を開いてくれたのはどのような状況だったのか?
修学旅行の思い出は情報媒体に記録して誰でも閲覧できるわけです。
ここまで言って分からないようでしたら理解力ゼロですね。
それからまことくんの父親がエンディングで彼の肩に触れたシーンに違和感を覚えた人はかなり洞察力がある人だと思います。
要するに与えられた情報から自分で考えないと評価できない作品です。
次回最終回なので原作の最後まではほぼ間違いなく行かないです。
補足の意味を込めて個人的意見を書かせてもらうと、まず「トランスジェンダー」という言葉は1つの言葉を指す用語ではなく、いくつかの意味を持つ言葉の総称のことです。
すなわちトランスジェンダーの中には様々な考えを持つ人がいて、例えば男性と女性の両方の認識がある人やどちらの要素も持たない人、中間の認識を持つ人や性自認が流動的な人がいます。
したがってまことくんが女の子になりたいとは思ってないから、性自認が男性だからと言ってトランスジェンダーではないと言い切れないです。
実はこの考え方が重要でタイトルの「先輩はおとこのこ」、誰目線から見たタイトルか考えるともちろんヒロインの蒼井咲目線です。
「男の子」ではなく、「男の娘」でもなく、「おとこのこ」です。
なぜひらがな表記なのか。
第6話のまことのバスケ部の入部で悩んでいた時の咲のセリフで「どっちかじゃないと駄目なんですか 」のシーンが丁寧に描写されていたのは、そのセリフが彼の価値観を変えるきっかけとなった重要な言葉だからです。
つまり性の多様性の観点から男性または女性のいずれかに当てはめる必要がないことを示唆しています。
よって性自認が男性または女性のいずれにも当てはまらない「Xジェンダー」(トランスの意味は社会的性を"超える"なので、トランスジェンダーの中に含まれる)という考え方が出てきます。
分かりやすく言うと、性別欄「その他」の人たちのことです。
前提の話をしますが、学校側がまことくんを女装姿で受け入れているのはLGBTQに該当すると判断しているから。単なる可愛いものが好きの延長で女装したり、女装趣味がある人を受け入れているわけではありません。
ちなみに現状は男の子になりたいのか女の子になりたいのか悩んでいるので「Q:クエスチョニング」です。
このことからまことくんの母親が男の子は男らしくしなさいといった固定観念を持つステレオタイプの人間に対し、彼は先入観や偏見にとらわれないありのままの自分を受け入れる自己認識に変わります。
それが「自分らしさ」につながるわけですが、母親が持つ固定観念を変えるには何が必要なのか、まことが抱える普通ではないものを普通にするのは作中どの部分を指していたのか、まことや竜二、咲たち登場人物の価値観を変えるにはどのようにすればよかったのか、ここまで言及して理解することが必要な作品と言えます。
12話以降(続編を含む)その部分が明示されるはずですが、表面上で物事を考えるのではなく、本質部分(ジェンダーレスや価値基準)を前後関係と合わせて理解に努めることが必要です。
続編について。
完結しないと話が綺麗にまとまらない作品なので続編はあると思います。
「ぱいのこ」は「第5回アニメ化してほしいマンガランキング」1位の作品ですが、 前回第4回の1位が「僕ヤバ」、第3回の1位が「古見さんは、コミュ症です。」でいずれも2期があるのと、監督が柳伸亮さんで「弱キャラ友崎くん2ndステージ」で実績があることから続編の可能性が高いと思います。
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□第9話
▩作画3.5点→4.0点
父親が気付けなかった膝の傷を見つけて手を差し伸べてくれたまことと竜二の優しさが何よりも心嬉しくて、一人で見たプラネタリウムより3人で見る星空がずっと輝いて見えた(冒頭で触れていたオリオン座の「3つ星」が3人の関係を示している)。
暗闇(星空)の中に「特別」を見つけることができた咲。
コントラストな演出が良すぎて思わず感動してしまった(デフォルメ表現はいらなかった)・・・
同じく「家族」がテーマで約15年前の「CLANNAD AFTER STORY」以来(?)。
3人とも自責思考を持っていて共感が持てるから感情移入できるのでしょうね。面白い。
ちなみに合間に入る「るろうに剣心」のCM演出は同じアニプレックスだし狙ってやってると思う。
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□第4話
咲の祖母のセリフから咲は父親が海外に単身赴任していて、母親が不在のため家庭環境に問題のある子と分かりましたが、今回の内容は心理学用語で「見捨てられ不安」の話をしていました。
小さい時に親の愛情を受けずに育った子供や大人が抱く、愛着不形成から生じる過度な人間関係への執着心のことで、本来特別な存在である両親がいないため自分にとっての特別がない状況で、まこと先輩に向けられた咲の感情が「孤独感からくる共感相手」としての好きなのか、「異性として恋愛対象」から生じる好きなのか気持ちの整理がつかず、葛藤するシーンが描かれていました。
"くじら"、"お母さん"、"あれ?"、"特別"、伏線らしきキーワードが複数出てきましたが、咲の明るい性格が特別を求める空虚感からきていて、まことと竜二のやり取りから無意識に自分の意見を周りに同調させていたことが分かります。
心理学では同調行動(又は同調効果)と呼ばれ、集団にいることで安心を得ようとする心理状態の表れです。
規範または情報に対し効率的な選択ができる一方で、自分の意見や個性を持たないのが問題点です。
これに対し「特別」は何かを考えた時に、他人から与えられるものなのか、それとも自分自身が決めることなのかを選択することが必要です。
まことくんと母親の話に繋がりますが、「一人の人間が何か問題を抱えた時に、どのようにして向き合い解決していくか」を描いている作品なので、咲やまことが発言や行動に主体性を持つことが今後の焦点になります。
それからまことくんがパーティーの件で謝罪していた初めて表情が描かれた羽川さんですが、羽川さん視点から見た相手に対し心を開くシーンの演出でした(パーティーの時点では表面上でしかまことを見ていなかった)。
心を開くこと。
すなわち「ありのままの自分を表現する」ことが主体性を持つことになるので、この点に着目してみると5話以降、作品内容により理解が深まります。
・ワンピースドレスについて(3話補足)
まこと先輩が咲のワンピース(=ドレス、正しくはワンピースドレス)を着用できたのは男女兼用ユニセックスモデルのワンピースドレスだからでしょ。
原宿で買い物していたので、ラフォーレ原宿などユニセックスブランドを取り扱っているアパレルショップが周辺に複数店舗あるけど、近くの表参道や竹下通りでフェミニン男子がワンピースドレス着て普通に道を歩いてるじゃん。
しかも本編で大きめのサイズと説明してくれてるし、レーヨンやポリエステルなどの伸縮性素材でフリーサイズモデルであれば細身の男子高校生が着れないことはないでしょう。
ユニクロもユニセックスデザインを取り入れてる時代にファッションに対する知識が昭和かよw
普段はレビューが間違っていても既読スルーですが、テーマが特殊なのでくだらないレビューを見つけた時はツッコミを入れると警告したはずですが...
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□第3話
序盤のピーク回「王子様とお姫様」のタイトル話で締め、期待通りの展開でした。
EDの入りが良くて音楽の評価を上げました。意外に音楽は良かったりする・・・(音楽+0.5点)。
評価は前半パート80点、後半パート95点。
前半パートの出来が悪いという意味ではなく、30分枠で表現するには前半8割の完成度で問題ないという意味です。
全て表現しようとすると尺の都合上、1話に収まらないので取捨選択する必要があり、脚本としては後半重視の演出で満点に近い評価。
ちなみに後半パート5点減点したのは最後のダンスシーンの止め絵は原作準拠ですが、アニメーションなので少し動きを入れた方がより風情を感じると思ったから。
ほぼイメージ通りの作画で、デフォルメを重要な部分でカットし適切な表現ができていると思います。
1話と3話のジャンプのシーンが昼と夜、制服と正装、告白する側とされる側が対になっていて、始まりと終わりの絵になる演出が素晴らしかった(周りの反応はなぜか皆無ですが・・・)。
後半パートに出てきた咲の"先輩の「特別」"のセリフは、本作品にとって1話冒頭の告白シーンに繋がる重要なキーワードになり、物語を展開させる3話で強調表現されていました。
テーマに連続性があり構成がしっかりしているので4話以降も期待ができそうです。
原作16話で3話分使っているので残り9話で原作100話全てを描くのはほぼ無理なので、間違いなく原作カットが入ると思います。
3話まで見た限りだと脚本が優秀で、残りのピーク回(おそらく3回)を中心に的確な映像表現をしてくれると思います。
「好きなものを好きなままでいたい」気持ちを音声と映像を使って能動的に自己表現できるかです。
それから蒼井咲ちゃんが予想以上にスパイスになっていて求心力があります。
シリアスとコミカルの使い分けができていて、好感が持てるキャラクター。
この娘の存在は大きい・・・(キャラ+0.5点)
声優さんの好演に感謝です。
そして、
次回「後輩はおんなのこ」に続く。
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点数はアニメ初見と原作評価によるもの。
取り扱っているテーマが特殊で、私が書いておいた方が良さそうなのでレビューします。
LINEマンガに掲載されてる既刊8巻、全100話で構成される主人公の"男の娘"・花岡まことを中心に男女3人の人間模様と繊細な心理描写が描かれる「先輩はおとこのこ」、通称「ぱいのこ」。
閲覧数1億9400万Views(他比較だと2023年最も売れた漫画「ブルーロック」が1700万Views、最近アニメ化された「怪獣8号」が150万Viewsなので、10倍、100倍の世界です)、「第5回アニメ化してほしいマンガランキング」1位、「次にくるマンガ大賞2021」Webマンガ部門の3位で、私を含む読者からはかなり注目されている作品です。
「LINEマンガ 2021年間ランキング(女性編)」では3位になり、数字が示すように作品の作りが丁寧で女子受けしやすい内容。
今期「のこ」がつく作品が多数あるなかではダークホース的位置付け。
生物学的性と性自認の不一致に対し、強い違和感や嫌悪感を持つ「性同一性障害」ではなく、身体的性と性の認識は一致しないが心と身体の性別の一致を望まない「トランスジェンダー」が題材。
したがって、男女の性差をなくす考えの「ジェンダーレス」が作品内容の中心で、広義の意味で捉えれば社会的性差をなくす考えの「ジェンダーフリー」の概念も含まれます。
つまり"ネガティブな感情を持つ"のではなく、"ポジティブな考えに変えていく"お話です。
ジャンルは「男だけど可愛いものが大好き」な"男の娘"・花岡まことくん("まことちゃん"・楳図かずおではないです)とまことに恋をする後輩女子の咲ちゃん、まことに対し複雑な感情を抱いてしまう幼馴染の竜二の3人による涙あり、笑いあり、感動ありの青春ラブコメ。
設定は母親が望まない形で育ってしまったまことが、家庭では心配をかけないため男の子の姿で生活しますが、高校では理解のある父親の手引きで、女の子の姿で学生生活を送ります。
一見設定がおかしく見えますが、トランスジェンダーの学生を受け入れている学校が実際にあって、トランスジェンダー向けのジェンダーレス制服を採用するケースが増えてるそうです。
女子がスカートではなくスラックスを選択して、男子がスカートを選択することが可能で、女子がスラックスを着用するのは他アニメで見られるように前例がありますが、男子がスカートを着用するのはほとんど実例がないのが現状です。
そのため社会的認知度が低く、世間の風当たりは当然に強くなります。
まことくんも当初は周囲から冷淡な目で見られますが、咲と竜二に支えられてクラスメイトや部活動の部員から次第に理解されるようになります。
いわば男女の区別をなくすユニセックスデザインを広く認知させるための先駆的モデルとなるのが本作品の主人公です。
サステナブル(持続可能)な取り組みですが、周囲の心理的なハードルを下げ「偏見をなくす」ことが格差社会において重要な考え方になるので、私は原作を(高く)評価しています。
似ている作品として他人の心が読める超能力少女が周囲から虐げられ、同級生や研究会のメンバーの出会いを通じて徐々に感情を取り戻す話の「琴浦さん」がありますが、序盤だけ見ると優れている作品内容ですが、後半日常パート過多で個人的評価を落としました。
「ぱいのこ」も日常パートが多い作品で、不要なものを削除し本質部分を外さずに中身を描けるかで評価が変わってくると思います。
高い評価ができる素材は持っている作品なので、制作会社と脚本家の腕次第です。
性的マイノリティであるLGBTがグローバルスタンダードになりつつある昨今、至って真面目な内容になるので、見た目が気持ち悪いとか設定がキツイとかこれに類する小学生以下レベルのくだらないレビューを見つけた時は容赦なくツッコミを入れます。
もちろんレビュー更新や新規投稿してくれると思うので、どんなコメントが来るか楽しみですね。
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