キャポックちゃん さんの感想・評価
2.6
物語 : 2.0
作画 : 3.5
声優 : 3.0
音楽 : 3.0
キャラ : 1.5
状態:観終わった
演出力が不足し「いやラブコメ」に
【総合評価☆☆☆】
日常ミステリを原作とするアニメながら、日常の描写もミステリとしての結構も練り上げ不足で、褒められる出来ではない。
中高生を描いた初期作品でジュブナイル作家と見なされていた米澤穂信は、2014年に傑作『満願』を発表、日本ミステリ界の第一線に躍り出た。『〈小市民〉シリーズ』は、04年の『春期限定いちごタルト事件』に始まり、以後、『夏期-』(06)『秋期-』(09)『冬期-』(24)と続くもので、ジュブナイルから本格ミステリへの移行期に執筆されている。今回アニメの原作となった2作のうち、『春期』(アニメ第1~4話)がほぼ独立した短編を並べ、ラストで各編に挿入しておいた自転車盗難事件の帰結を描き統一感を醸したのに対して、ミステリ作家として成長した『夏期』(第6話~)になると、短編集を装った長編としての明確な結構を持つ。その結果、アニメは性格の異なる2つの作品を並べた形になり、全体的な構成をつかみにくい(少なくとも私は、途中で話の方向性が見えなくなり、視聴後に原作を読んで納得した)。タイトルを適宜インサートするなどして2部構成であることを明示した方が、視聴者に親切だったろう。
ミステリ作家としての米澤は、カーやクリスティなど不可思議な謎を鮮やかに解き明かして見せるタイプとは異なり、謎の解決よりもむしろ(『満願』第1話で市民を守って殉職した警官が実はひどく小心者だったことが、後に本質的な謎だと判明するように)“謎の認識”を重要視する。そうした作品を映像化する場合には、その状況が謎であることを視覚的に浮かび上がらせ視聴者に違和感を与える必要がある。同じく米澤の初期作品を原作とするアニメ『氷菓』(監督:武本康弘、2012年)のいくつかのエピソード、なかんづく「連峰は晴れているか」では、謎の認識に至る視覚表現が見事だった。しかし、本アニメでは、登場人物の内面描写が希薄なせいで、いちいち台詞で説明しなければ謎の謎たる所以が明らかにならない。核心となる謎と単なるうっかりミス(主人公の友人が隠しておくべき人名をつい明かしてしまう件など)が同じような語り口で並置され、そもそもどこがミステリなのか判然としないままストーリーが進行する。
春期パートにも夏期パートにも、重大な犯罪が1つ含まれているものの、よくよく考えると、関係者が多すぎるせいで実行はかなり難しく、リアリティに欠ける。かと言って、(どうやって美味しいココアを作ったかといった)日常の謎は、真相が明らかにされても「なるほど」と膝を打つほど鮮やかではない。原作小説では、語り手の内的独白を盛り込むことで、はぐらかすような展開を緩和するが、アニメの演出はそこまで手が込んでおらず、ミステリとしての一貫性が保てていない。
ミステリでなければ青春ラブコメとして楽しめるかと言うと、そうはいかない。何よりも、日常的な描写に厚みがないため、鍵となるキャラの心理がほとんど読み解けず、解決編であまりに非常識な行動をとっていたと知らされ、げんなりするだけ。「いやミス(読後に厭な気分になるミステリ)」と言うより「いやラブコメ」だ。
私が最も好きなエピソードは、「伯林あげぱんの謎」(第5話、原作は番外編『巴里マカロンの謎』収録)だが、「いやラブコメ」中の痛快編になっている。