薄雪草 さんの感想・評価
4.3
物語 : 4.0
作画 : 4.0
声優 : 4.5
音楽 : 4.5
キャラ : 4.5
状態:観終わった
日本の未来は明るい、ぞ!
と思わせるくらい青春のコク味にあふれた作品でした。
にしても "負けヒロイン" なる造語には思わず "負けそう" になりましたが、なかなか言いえて妙だと思います。
さて、コク味は主観的評価ではなく、客観的評価(Wiki参照)。
つまり、"負けイン" というのは、とにかく分母が、何億人、何十億回と、相当にデカい絶対的共通項を持っている "ビッグワード" ってなわけ。
お化けみたいにすそ野が広い、世界制覇しかねないポテンシャルを秘めたコク味がある作品なんですね(笑)。
仮に、恋を勝負ごとと捉えれば、想い人が微笑んでくれたら勝ち、そうでなければ負けとして受け入れざるを得ないでしょう。
それでもポジティブであろうとするバイタリティがーあれば、その負けっぷりからのリターンや、リボーンへのモチベーションにつながっていきます。
「私というヒロインは、私だけに与えられたポジション。」
そんな三河武士ヒロインたちのあけすけに痛快な物語です。
ついでに言うと、マイナーもマイナーな東三河(ひがしみかわ)の世界デビューですっ!?
~
恋愛や結婚を、トーナメント勝ちっぱなしみたいな人は、恋愛体験が人生に一度きりってことですよね。(初恋→初告白→初交際→初恋人→初配偶者みたいな。)
相手とのマッチングに不安がないなら、前途洋々、順風満帆のスタートを切ったということでたいへん喜ばしいことです。
でも、人生は長い・・、何が起こるか分からない・・、初めての大失恋に、身も心も打ちのめされちゃうかも知れない・・・。
そんなときに有効なワクチンはどこにある?というときに、本作の良さがようやく見直されるというわけ、かな。うん・・きっとそう。
ところで、一度でも "好いた、惚れた" を自覚してる人で、まんま失恋やフラれた体験があるのなら、誰もが今すぐに "負けイン(負けボク)" の役どころに感情移入できそうですし、思い出したくもないわ!なわけですね。
そのロールモデルが、八奈見杏菜、焼塩檸檬、小鞠知花という、ちょっとくどめのキャラが体現してくれているんですね。
逆に、恋愛経験が一度もない人も世の中にはいらっしゃるわけで、その代表者のポジションが温水くん。
恋愛の "勝敗" など、われ関せずで、負けインたちの狼狽も当て擦りも、てんから理解不能なのは仕方のない役回りです。
でも、そんな温水くんの存在があるから、負けインが負けインでなくなり、気持ちが少しずつ救われてフラットになれるんですね。
だから、恋愛経験がない人、モブにも扱われそうな人にも、きちんとスポットライトを当てているのが本作の出色なところです。
そんなわけで、わたしは、彼を "等身大の失恋ヤングケアラー" って呼んでおこうと思います。
とは言え、そういう温水くんの視点に立つと「多すぎる!」というセリフになるのでしょう、ええ、本心でしょう、きっと。
それはそれで、面倒な嘆息のようにも、素直な憧れのようにも、どちらにも解釈できそうですが、本作の場合だと「いや、少なすぎるでしょ?キミ!」とズバズバとやり込められるのがオチのような気がします。
でも、そこは負けインたちの微妙な乙女心(というかソロバン勘定?)が働いていた感が汲み取れて、温水くんへのアプローチは何とも可笑しかったです。
さすがにラノベ世代ならではのユーモア変換と言うべきか、ハイティーンにして処世術に長けているというか、Z世代おそるべし、というところです。
~
雄々しく告白して、散々な思いをして、強がったり、逃げ出したり、コラえたりする負けっぷり。
これらのすべてが、自己承認欲求としてのパフォーマンス、ナチュラルな自己表現と言っていいような気が私はしています。
そんな彼女らにいいように絡まれ、巻き込まれ、弄ばれる温水くんが、むしろ偉ぶらない、勝ち誇らない、気取らなさすぎる性格で、その結果ちょっぴり残念な唐変木に見えちゃっています。
でも、それはそれで、いちばんの強みで、持ち味、隠し味なのでしょう。
彼は、どことなく昭和の大スター、フーテンの寅さんを彷彿とさせる風合いを醸していて、しかもヒロインではなく "負けヒロイン" に翻弄されるという奇特な役回りではありますが、まぁ、車寅次郎の別バージョンとも言えそうなポジションなんですね。
そういうほかには見当たらないディテールなのも、"令和版、青春リアル恋バナ的キャスティングボード" のベーシックデザインの一つなのかも知れません。
よく研究してるなぁと感心します。
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というわけで、遠い昔にマケインだった人も、少し前までマケインの人も、今わにマケインになりかけそうな人も、いつかは勝ちヒロインを(もちろんヒーローも)夢見て、ともどもに共感し、一緒に泣き笑いできるストーリーでした。
"負けイン" なんて誰が言う?
そんなの過去のことじゃん!
そういう熱量がグングン伝わってきて、負けインだった日々を肯定できる気持ちにさせてくれます。
そんな感じで、とってもいい視点と、よく練られたクオリティーだったと思います。
日本の未来も、まだまだ捨てたもんじゃない、ですね。
あ、そうそう、最近観たアニメにも同じような感慨があります。
たしか、魔王を倒して、大切な人を失ってから物語が始まるという珍しいパターンだったような・・・。
その主人公も "負けイン" になるのかな?