ナルユキ さんの感想・評価
2.3
物語 : 1.0
作画 : 2.5
声優 : 3.5
音楽 : 3.5
キャラ : 1.0
状態:途中で断念した
ハイスピー……ド……?
アニメ史上、恐らく初めての『かわいい女の子+カーレース』アニメ。何事も「初めて」というのは失敗も多く、先達もいないのでこんな簡単なことにも気づかないのかと思ってしまう様なミスをしてしまいがちである。例えば藤真拓哉デザインの美少女キャラを活躍させるのに競技中はフルフェイスヘルメットを被せなきゃいけないのでその可愛い顔を全く見せられない……とか(笑)
なので、まあ多少はそんな失念も考慮しつつ温かい目で本作を見守るつもりでいたのだが──
【ココがつまらない:レース演出】
この作品は未来のF1を題材にした作品だ。近未来の日本では新しいクリーンエネルギーを利用した時速500kmを超えるマシンによるレースが大流行している。そんな世界なのはわかるものの、フル3DCGで描かれているせいもあってかなり癖が強い。誰が主人公なのかもわからないままレースシーンが1話丸々と描かれるのだが、それがひたすら退屈だ。
ホログラムで映し出されるレースクイーン2人が毎度、走るコースの特徴を紹介し、レース界に『キング』や『クイーン』と呼ばれる圧倒的な選手がいるのはわかるのだが、2人を把握する前に次々と色々なレーサーを出してきて全員がフルフェイスを被っているため、顔が一切記憶に残らない。
キャラクターの名前も顔もよくわからないままレースが始まる。レースドライバーはその半数が「AI」であり、そんな中で人間がレーサーになる意味はあるのか、など色々と疑問が浮かぶものの、次々とキャラが出ては消えていく。ソシャゲ原作アニメのようなキャラの出し方は明らかに魅せ方が悪い。
CGも低品質である。プレステ3くらいの質感の車の描写だけでもきついのだが、車ではなく「背景」を動かしているようなスゥーっとしたレースの描写が本当につまらない。駆け引きなどもあるのだが、その駆け引きを「実況」と「解説」でスポーツニュースの様に淡々と流している。BGMも全く使われない。
解説は若干、性格が悪く無能。実況が『後続に蓋をする形になっています』と表現するとビジネスマナー講習の如く『形ではなく完全に蓋ですね』と訂正してくる。そんなツッコミをするくらいなら実況されたことを観客に“解”りやすく“説”明する。それが解説の優先する仕事ではないのだろうか。
それ以外のキャラクターはほとんど描写されずに車体ばかりが映されるため、どういう感情でキャラが操縦しているのかが全くわからない。そもそもキャラが記憶に残っていないのに車体だけ映されても、誰がキングで誰がクイーンなのかもわからない。
カメラワークも本当に最悪で、ただ面白味もなく車体を映したり、カメラの上下を反転した映像などを多用するものの、それが絵としての面白さに一切なっていない。
本作には『リボルバースト』と呼ばれる加速システムがあり、そのシステムを使うには条件や回数制限がある。このリボルバーストの使いどころがレースの勝敗を分けるらしいのだが、それが観ていて一切伝わらない。
淡々とF1のようなレースが展開されるもののスピード感もなく、アニメーションとしての面白味もなく、そもそも誰が主人公なのかもわからないレースシーンを見せられて面白いわけがない。最悪な第1話だと私も評せざるを得ない。
【ココもつまらない:主人公のデビュー戦】
肝心の主人公は第1話終盤にようやく登場し、とくに何もしないまま第2話へ続く。2話はレースゲーマーから本物のレーサーとなった輪堂凛{りんどう りん}のデビュー戦を描くのだが、これも第1話と同様20分以上は低クオリティなレースシーンであるため評価は下落する一方である。
レーシングカーにもサポートAIが搭載されているのだが、そのAIがレースにどのくらい作用するのかもよくわからず凛とつまらない漫才をしている様にしか見えない。AIなのに『頑張ってください』と精神論を飛ばしてきたのにはクスッときたが、それくらいだ。レーサーの半分がAIというレースで人間とAIの実力差がどれくらいなのかもよくわからない。とにかく説明不足である。
{netabare}台詞回しも意味不明だ。凛はデビュー戦で最下位⇒周回遅れになってしまう。『デビュー戦でビリは嫌だ!』と凛は叫びながら、自分を周回遅れにしたトップ陣をリボルバーストを使って抜き返してしまう。
周回遅れの車体はコースを空けなければならず、ましてや加速して追い抜くことはルール違反だ。これなら単に凛の人物像を描写するエピソードでしか無いのだが、周りの反応が意味不明なのである。
『あのヤロー……キングを抜きやがった!』
周回遅れでトップを走る2台を抜き返したことに周りのキャラが驚いている、果たしてこの意味が解る人はいるのだろうか?
ルールではやってはいけない行為であり、トップレーサーたちも周回遅れに気を遣う必要もない、ましてやゴール寸前でリボルバーストも使い切っており、そんな状態で周回遅れの最下位が後ろから迫ってきても気を配る必要など無いはずだ。
それなのに抜き返した凛に対してルール違反ではあるものの「とんだ逸材だ!」と褒める。あまりにも脚本が意味不明すぎて頭が痛くなってしまった。
周回遅れでもキングと呼ばれる不動のトップを抜いた主人公はすごい!と言いたいのはわかるものの、所詮は周回遅れ。タイヤの摩耗具合も加速のタイミングも技術的な駆け引きの状態もまるで違う。そんな凛をクイーンが注目しだすのだがその理由がわからず、作品の世界観やキャラの感情に観ている側が蚊帳の外に置かれてしまう。{/netabare}
【でもココがすごい?:美味そうなもんじゃ焼き】
そんな虚無かつ意味不明なレースを2話連続でお届けしたかと思えば第3・4話は日常回。レース界No.2であるクイーンが凛たちに接触し、もんじゃ焼きを食べる。もんじゃ焼きの作画のクオリティがレースよりも気合が入っているように見えるほど、レースよりもまだ日常回の方が見れてしまう。
{netabare}ただクイーンが凛に接触した理由がルール違反だと知らずにリボルバーストを使ってキングと自分を抜いたからという理由なのが厄介だ、納得できない。
クイーンがシミュレーションで凛に勝負を挑んでくる。
『まぐれでもなんでもいいわ!キングを抜いた走りを見せなさい!』
その走りは周回遅れのルール違反だ(苦笑)
ルール違反や周回遅れというのをとりあえず置いておくとしても、誰が誰を抜いたり逃げきるなどといった問題は結局リボルバーストによる加速のタイミングでしかなく、キャラが熱く焚き付けるほど各レーサーに技量の違いがあるとは思えない。{/netabare}
この3話と4話でやっていることがほぼ同じだ。3話ではクイーンと知らずにもんじゃ焼きを食べ、4話ではキングと知らずにもんじゃを食べる。謎にもんじゃをアピールするアニメとしてムダに記憶には残るかもしれない。
【ココがすごい!:第5話】
なんと第5話で一気にレースの描写が改善する。とくにスピード感に関して、1話から4話までのレースは背景が動いているようにしか見えなかったのだが、5話からはきちんと車が高速で走っていることを感じさせる。
きちんとハンドルを握るキャラを映し、そのハンドル操作で車が動いていることを感じさせ、闇雲にアップやルーズを多用するのではなく、きちんとレースというものを意識したカメラアングルになっている。
コースも27か所ものコーナーがある特徴がある故、オーバーテイクやクラッシュの描写もふんだんに取り入れられており、退屈で目を離してしまう1~2話とは真逆に視聴者を釘づけにする。BGMや挿入歌もあり長尺のレースを盛り上げる。
この第5話、とんで第9話はベテランのアニメーターである麻宮騎亜氏が参加していることが大きく、ベテランだからこその絵コンテの素晴らしさを感じさせるものだ。しかし彼が参加していない回は軒並み死んでいる。この5話や9話のクオリティが作品全体にあれば──無理なら例え竜頭蛇尾になろうが第1話にあればまた評価が異なっていたことだろう。
【総評】
6話(9話のみ作画チェックで視聴)で断念。
『頭文字D』や『サイバーフォーミュラ』など有名なカーレース作品を押さえていない私だが、それらと比べるのが失礼な程に本作のレースシーンの品質が悪すぎることならよくわかる。25年以上の隔たりで以て上回る筈の映像技術も手法がフル3DCGでは全く良点にならず、そもそもCGのクオリティも低い。
第5話などはしっかり描けているものの、それ以外のレースシーンの描写はカメラワークや演出など見せ方が大雑把で「スピード」が全く出ていないように見えるのが致命的だ。走るマシン全てが速いから、カメラが車体を追っているから感じる錯覚ではあるのだが、もっと流れる景色の輪郭を溶かしたりパースペクティブ(遠近法)で各車の立ち位置を激しく入れ替えなければ視覚的に面白いレースシーンにはならないと素人ながら思う。
ストーリー構成も致命的だ。ろくに世界観もキャラクターも紹介せずに淡白な実況解説に丸投げした盛り上がりに欠けるレースを垂れ流し、多くの視聴者を失ったことを感じさせる最低の第1話、{netabare}満を持して主人公を登場させたと思ったら全然そんなことのない大敗を飾りつつ、光るものは「ルール違反を犯してトップレーサーを追い抜いた」というスポーツマンシップの欠片もない要素しか見せられなかった意味不明の第2話{/netabare}と続き、日常回や日常シーンになると「もんじゃ焼き」要素を何度も何度も押しつけてくる。もんじゃ焼きの作画だけ妙にクオリティが高く、主要キャラがレースをしている時よりもんじゃを食べている時の方が表情が豊かなのにもイラッときてしまった。
{netabare}そんな中でも一応、主人公である凛は一人前のレーサーとして成長し、徐々に順位を上げてトップレーサーたちに肉薄していく────そこで思いっきし話の腰を折りにくるのが視聴における最大の難点であり、5話で4位を取り表彰台まであとわずかと思ったら6話のダイジェストで最下位、7~8話でニューマシンに適応して見事2位を取ったらしいのに9話はメカニックのじいさんのセッティングミスでエンストから復帰できずにリタイア──と、最終話まで凛に1位を取らせないぞという嫌がらせのような負のご都合主義を感じてしまう。どうせ2期は望めないのだから1度首位にして追われる側のプレッシャーなども脚本に盛り込めば良かったのに……{/netabare}
いかにも美少女で釣ってアニメオタクにモータースポーツを布教したいという魂胆見え見えの作品である。そんな初めての試みだからこそ脚本面にはある程度目を瞑るつもりで視聴したが、想像以上に酷い出来映えだ。レース用語やポイント等も全く解説してくれず(『なんか抜かれたんですけど!?』に対する答えが『そういうもんなのよ』)、カーレーシングに興味を持つ切欠にも単に蘊蓄{うんちく}を得て見聞を広げるのにも使えない失敗作である。
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