ナルユキ さんの感想・評価
3.5
物語 : 3.0
作画 : 3.5
声優 : 4.0
音楽 : 4.0
キャラ : 3.0
状態:観終わった
時代を逆行するダークファンタジー
タイトル通り「魔女」が存在する世界を描く本作は、ほぼ『美女と野獣』から着想を得たのだろうタイトル名や基本設定を先ず見せてくる。安直ではあるがそのストレートさが解りやすく古い人間ほど入りやすい導入だ。
故にストーリーに関しては序盤から“高が知れた”感覚を抱いてしまう。魔女に呪われてしまった「少女」の行動原理も至極単純だ。自分を呪った魔女に報復をするため、情報を掴んでは各地を訪れて魔女を裁く。それが目的の魔女とは別人であっても魔女という存在を許せない彼女の「復讐」であり、そんな彼女のバックにつく『魔響教団』の使命でもある。
【ココが面白い?:魔術が起こす惨事】
少し厄介なのが魔女とは別に『魔術師』という魔法が使える人間が相当数、いることだろう。主人公である2人組の1人・アシャフも凄腕の魔術師である。
性別・職業・ストーリー上の立場を問わず魔術師は魔術を使わない人間社会に混在しており、世間にも十分認知されている。魔術が使える女性=魔女というわけではなく、魔術師も普通に魔術や『禁具』という魔道具を悪用して事件を起こすのだ。
最初の街ではそんな犯罪魔術師を捕らえて警察に協力する魔女・イオーネが登場する。彼女はこういった奉仕活動を通じて、嘗て街に蔓延っていた魔女への偏見を見事に無くしており、現在では彼女を訝しむ{いぶか - }者の方が住民から石を投げられてしまう様になった。
──まあ読者&視聴者なら「何か裏があるんだろうな」と展開を読めるところだがその通りで、そんな街の評判がすこぶる善いイオーネを慕い集まった少女たちは集会{サバト}で四肢を切断され街に封じられた業火を解き放つための生贄にされるのである。
魔女の系譜は先祖代々、受け継がれている。魔女であるイオーナの祖母もまた魔女であったが、それ故に濡れ衣を着せられ火炙りの刑で殺された。自身も幾度もなく命を狙われ120余年、彼女の溜飲は現在の街の賛美だけでは決して下がることはない。
『理屈じゃないんだよ復讐って。──(中略)──顔の見えない復讐なんて虫ケラを殺すのと変わらない。親交を深め、君たちをよく知ったことで、復讐相手として血肉が通った……!』
『おかげでほら、君たちの苦しむ姿を見て────こんなにも胸がすく!!』
魔女は悪、全ての悪いことは魔女のせい。そんな世界だったからこそ、魔女は人を恨み、魔女は己のために、仲間や家族のために復讐しようとしている。
これは1人の魔女のたった1つの事件に過ぎない。他にも禁具を用いた大量虐殺、『死霊魔術』が起こすゾンビパニックに世界を斬り刻む『魔剣』の争奪戦etc.魔術により起こされる多種多様のグロテスクな事件がゴシックな世界とリズミカルな音楽で彩られ、ベタではあるものの本作ならではの「硬派」な世界観を感じさせてくれる。
【でもココがひどい:要領の悪さ】
魔術絡みの事件を解決するのが魔響教団であり主役であるアシャフとギドもそこに属しているのだが、2人の事件解決はあまりスマートではない。アシャフは冷静沈着であり、初対面が多いからこそ紳士的な振舞いを欠かさずスムーズに事を進めようとするのだが、それを相棒のギドが思いっきり足を引っ張り妨害するという構図になってしまっている。
ギドは黙っていれば金髪の美しい少女なのだが、そうとは思えないほど下品な言動や粗野な態度が多い。それもそのはず、彼女は……いや彼は元々男であり、魔女にかけられた呪いは「女体化」──元の姿と力を封じられ女の体を押しつけられるもの──なのである。そのせいか魔女への憎しみが人一倍強く、誰よりも魔女の手がかりを欲し魔女をこの手で裁こうとしている。私なら女体になったならなったであんなことやこんなことを!……余談なので割愛します
まあそんな単純な行動原理なので、最初の街ではイオーネが魔女だと教えてもらった途端に『このクサレ魔女がぁぁっ!!』と上空から飛びかかってぶん殴ろうとするのだが、軽く障壁で防がれ捕縛されるという醜態を晒してしまう。
上述した通り、表向きイオーネは奉仕活動を経て街の住民の絶大な支持を得ている。だからこそ彼女は魔女という立場を堂々と白日に晒しているわけだ。そんな公衆の面前で魔女に襲いかかれば住民全員を敵に回し任務がやりづらくなることなど本作が初見の視聴者でも容易に想像ができる。是非とも避けてほしい展開だったのだが見事に踏んでしまい、2人は一時撤退を余儀なくされてしまう。誰もがやれやれ、といった所感を抱く所になるだろう。
登場人物の頭が悪い=駄作と書くつもりはないが、本作は青年(成年)向け雑誌であるヤングマガジンで連載する漫画を原作としたアニメである(現在は休載中)。その主人公の1人がキッズアニメや少年マンガで見るような「単細胞」キャラというのは例え金髪美少女でもどうにも魅力に欠けており、普段は森川智之さん演じるアシャフの引き立て役にしかなっていない。
【ココもひどい:呪いを解いて、ワンパンマン】
呪いによって力を封じられているギドと、凄腕魔術師だが魔女相手には戦力外だと自嘲するアシャフ。2人が魔女に勝つにはギドにかけられた呪いを一時的に解いてギドの「本体」を起こすしかないのだが、その方法が奇抜でツッコミどころがやや大きい。
物語における伝承では魔女の呪いを解く方法は2つ、呪いをかけた魔女の気まぐれか王子様のキスしかないと言われている。しかし、そんな呪いにはもう1つだけ解く方法がある。「魔女との口づけ」だ。ギドが敵である魔女とキスをすることでアシャフの背負う棺桶から本来の身体が甦り、彼は魔女をも圧倒する存在として戦うことができる。
しかしまあ、見た目硬派でゴア表現たっぷりなダーク・ファンタジーが戦闘中、敵にキスを迫るというのは控えめに指摘してもシュールだろう。しかもギドの仮の身体は少女であり魔女も当然、女性である。作画はとても萌えやGLから彼方にある本作が、主人公らがバトルを制するために毎度「百合キス」を描写せざるを得ない──『ビビッドレッド・オペレーション』を笑う立場にないことだけは確かだ(笑)
呪いを解いたら解いたでギドの本当の身体である大男がどんな相手でも左の腹パン1発でKOしてしまい、実に呆気ない。膨大な魔力と極めた魔術で惨事を引き起こし並の魔術師を圧倒する魔女を、たった一撃で沈める主人公の得体の知れない強さを誇示したいのは解るが、せめて只のパンチとフィニッシュブローくらいは戦いの棋譜や演出などで区別をつけてほしいものだ。
【総評】
可もなく不可もなく、まあ観れないことはない、といった評価に落ち着く。結構辛辣なピックアップはしたが並の作品ならよくある欠点でもあるだろう。
魔術が存在する世界で、魔女の呪いで女体化された謎多き男・ギドと、その保護者でありつつ組織からの任務を遂行する相棒・アシャフ。2人の主人公が呪いをかけた張本人を探しながら旅をしている。序盤はそんな世界観を紐解くように1話1話、腰を据えたストーリーを描いており、新作でありながらどこか懐かしくも染み渡る。ド派手でわかりやすい最近の作品とは傾向が違うものの、15年くらい前の硬派な深夜アニメの雰囲気が備わっている。
{netabare}ただ1クール全体で観ると構成が若干、謎。基本はギドとアシャフが主人公のロードムービー仕立てなのだが、4・5話のアンデッド絡みの事件にはファノーラとヨハンという別の2人組に一任して手を引いてしまっており、この時点で1クール皆勤とはならない。そんなにこの2人のキャラが重要なのかと思えば確かにファノーラは魔女だったのでそうなのだが、以降はまたギドとアシャフの視点に戻り再登場しないし4人が接触する機会も描写されないので、序中盤に新キャラを出した意味が為されていないのである。恐らく原作通りの流れなのだがアニメ化の際にこの部分はギドとアシャフの別エピソードを持ってくるべきだったと思う。{/netabare}
作画は残念ながら腰砕け。序盤は高いクオリティを誇るも中盤からは明らかに息切れをし始める。終盤になると「先週のCパート」部分をAパートでわずかに描いてから続きを描く「使いまわし」も増えてしまい、制作会社に品質を保った1クール制作をする体力がついていないことがうかがえる。まあ制作は後に『ささやくように恋を唄う』を作画崩壊で作ってしまった横浜アニメーションラボなので納得と言えば納得か。
最近のアニメというよりは20年くらい前の『Witch Hunter ROBIN』などを彷彿とさせる作品だ。あの頃のアニメが好きな人にはたまらない魅力があるものの、現在は令和ゆえに今時のアニメオタクへのヒット率は芳しくない様子。私も2人の主人公の活躍があまりスマートではないように感じてしまい、色んな意味で最近のアニメの影響を受けてしまっているのかなとしみじみ思う。
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