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「アリスとテレスのまぼろし工場(アニメ映画)」

総合得点
72.9
感想・評価
73
棚に入れた
212
ランキング
1091
★★★★☆ 3.9 (73)
物語
3.8
作画
4.4
声優
3.9
音楽
3.9
キャラ
3.7

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アリスとテレスのまぼろし工場の感想・評価はどうでしたか?

ネタバレ

nyaro さんの感想・評価

★★★★☆ 3.6
物語 : 3.5 作画 : 4.0 声優 : 3.5 音楽 : 3.0 キャラ : 4.0 状態:観終わった

ウエルメイドだけど綺麗に作りすぎて、行間が狭い気がします。

 機会があってノベライズ版読みました。多少映画では表現が分かりづらいところが補足される文章になっていました。しかし、残念ながら原作ではなくノベライズですのでほぼ映画の通りです。つまり大して変わりません。だったら、映画で表現しろよと言いたいです。

 映像よりも文章派の私としては、少し想像力を働かせられたかなと思いました。
 ただ、本当にノベライズ=映画です。つまり、映画の脚本で、思いついたことをいっぱいいっぱいに作ってしまっているという証拠でもあると思います。こぼれ落ちたものがないという言い方ができるかもしれません。
 岡田氏のスケール感の無さは、表現したいことが10倍あってそれを泣く泣く削ったように見えないことなんですよね。ウエルメイドではあると思いますが、視聴者の想像力の広がりを喚起しません。

 もしかしたら、いや、映画の脚本の段階でそんな作業はやったということかもしれませんが、だったら、それをノベライズしてほしいです。もっと難解になっても、設定が変わってもいいです。そう、富野由悠季氏くらい本編と乖離して構いません。

 ノベライズは置いておくにしても、映画本編において、もっと完全に好き勝手に作家性を出して、つじつまが合ってなくてもご都合主義でも、行間の方が広いくらいの映画を作ってもらえないかなと思います。岡田監督の映画は批評が無さすぎて、とりあえず褒めるしかない的な作品しかないのが問題です。ウエルメイドで72点から78点くらいの作品ばかりになってしまいそうです。テレビアニメならそれが高い評価に結びついたのでしょうけど、映画だとはっきり物足りないです。「マヨイガ」でできたのだから監督作品ならもっとできるはずです。「あの花」が足かせになって似たような発想しかできなくなっていないでしょうか。

 改めて本作映画をまとめると、変化、痛み、生きている実感が1991年以降希薄になった。その象徴が変化しない町です。つまり、バブル以降の失われた30年問題がベースにあります。

 そして、痛みを知り生きるという実感を得た人間がきえてゆくというのがポイントなのでしょう。ただ、この痛みが想像よりも恋愛重視だったのかなあという気がしなくはないです。五実の失恋とかなんとか、そういう表現とリンクはしてくれます。が、そうなると工場という意味がどんどん希薄になります。
 そして、どうせなら五実と正宗の間の恋心をもっと濃厚に描いても良かったと思います。この作品の演出では庇護者2人に見捨てられた子供の描き方でした。睦美の葛藤も睦美の母親と睦美の親子関係の描写が弱いので、五実との関係性の深さが足りないです。

 外部での睦美、正宗の時間も止まったわけですが、その意味が読みとりづらいです。2人の恋愛が近場で済ませたという意味で、幻側では上手くいって、現実ではサキが戻って別れるとか、割れ目の向こうに見える景色ですでに別れているとかならわかりますけど、ラストシーンでそこは否定されますよね。だとすると、現実世界の2人の苦しみは何の贖罪だったのでしょうか?そこが良くわかりませんでした。

 ラストシーンは読み取れないものがあるかとも思いましたが、想像の通りでした。つまり、視聴者を作品が上回っていない気がします。わかりやすくていいとも取れますけど。

 ノベライズを読んで一番感心したのは「獣臭い甘ったるい臭い」という表現がありました。これが、我々現実の人間の匂いの事だとわかると幻の世界の素性が分かります。それに生きているとはそう言うことだという意味でもいい表現でした。
 このレベルで幻工場にもう少し分厚い裏設定があることを読みとらせてくれれば、深さが増したのかなという気がします。


 いろいろ批判はしましたが、映像の方も改めて見直しましたが、面白い映画ではあると思います。3,4回目なので飽きるかなともおもいましたが、結構初めから面白かったです。なんどもいいますがウエルメイドな作品ではあります。もうちょっと作家性を出してもらえればなあと思います。





以下 2024年1月のレビューです。

変化を望め、人を愛せ、1991年を引きずるな、でしょうか。

 何日かかけて考察しましたが、話の構造としての仕掛けを全部読み解くのは無理だったのでわかったことをメモしておきます。テーマは「すずめの戸締り」と同様に、過ぎ去った時代を早く葬ってあげて変化して行こうよ、という話だったと思います。ただ、個人的な内面から湧き上がる変化したいという衝動を殺さないで、というメッセージは明確にあったと思います。

 そこが「アリストテレス」の意味で、哲学的な話というより「変化」を象徴しているのが「エネルゲイア」ということでしょう。

考察メモですが、ほどほどです。

{netabare} 現実世界では工場は爆発したが、幻の世界だと健在だった(祖父の見解。ボケた老人は真実を語るの法則)。つまり、最後の工場が普通に閉鎖された世界線と五美が帰った世界は違う世界である。

 睦実が最後に痛みを感じたことと、工場にあった絵は正宗が閉じ込められた結果上手くなった絵なので、最後の場面は幻の世界が現実になることが読み取れる。
 ただ、五美が帰った世界と幻の世界が連続つながって、幻の世界の未来が現実の世界になった…という読み取り方はできるが、それは多分設定上無理がある気がする。

 アリストテレスの哲学の内「エネルゲイア」がマンガの必殺ワザとして語られる。資料の形相を実現していないのがディミナスで実現したのがエネルゲイア(作中にでていました)である。形相が「変化を望むことで」資料=モノが本質へと生まれ変わる。
 また、イデア界=理想の世界というのはない、というのがアリストテレスなので、その点も暗示されている。

 ただ、変化を望みいなくなった人間はどうなったのかは不明だが、ひょっとしたら五美が帰ったあとの幻の世界にいるのかもしれないがそこは全くわからない。
 五美のインナースペースだったとするには、2005年から1991年に戻ったことに無理があるかも。神の存在を肯定するのはアリストテレス的ではないがそれを前提としないと、幻世界の存在そのものがよくわからない。

 睦実がなぜ五美を好きになりたくないと思ったかは読み取りずらい。いろいろ解釈できるが確定は出来ない。ただ、睦実の生い立ちが親で苦労したこと、ヤキモチ焼きであることが描かれるので愛情に関しての障害がありそう。わざわざ睦実をそう描いたのは元の世界の睦実が同じ性格だからだとは思います。

 罪が1つ減って五美のところは、考えれば何かあるかもしれませんが今のところ保留します。7つの大罪からの引用だとは思う。

 痛み、匂い、味などの五感はつまり生きている実感であり、現代のアナロジーでもある気がします。

 正宗の親たちの昔話が正宗のアナロジーだとすると、現実世界で何もせずに見伏に残った正宗は睦実と結婚して五美を生む。が、父親同様に心が死んでいる状態になっていたのかもしれない。
 つまり現実の世界では工場が爆発することで工場勤務の人は本来的な意味で死に、街の人の心は死んでいる状態だったという事かもしれません。
{/netabare}

 というような感じでした。

 で、テーマとしては変化しようとするのが人間である。1991年のバブル崩壊で止まってしまった時間を日本人は動かさないといけない、でしょう。消えた人たちがどうなったのかと、神の描かれ方がアリストテレスと矛盾するので、ちょっと読み取れませんでした。
 そして、陰のテーマとして母と子の愛着障害的なものが描かれていると思います。


 映画としての評価は、エンタメ性とテーマの深さがちょっと物足りないかも。ただ、考察は楽しませてもらったのでストーリーは当初2と思いましたが、3.5にします。SFというよりファンタジー的なスタイルなので理論展開云々はいいんですけど、物語としての組み立てが分かりずらい気がします。そのおかげで1回目の視聴では、最後の30分くらいがかなり退屈でした。

 作画は奇麗でしたが、もう見飽きた作画のスタイルなので3.5とします。




追記 なぜ岡田麿里監督の話は面白さに欠けるのか?

「さよならの朝…」「空の青さ…」と本作に共通するのは壮大さが無い事、キャラのバックグラウンドの説明不足な気がします。

 本作に関して壮大さを感じない理由は「工場」が理解できるとっかかりがないことです。一応神が云々などの説明はありますがよくわかりません。別に設定としてどういう理由で発生したとかそういうのが分からなくてもいいんです。何を意図しているのかがまるで分かりません。
 なので畏怖も理解も無くただそこにあるだけです。そういう存在として置いたのかもしれませんが、作品理解、テーマ性において効果を発揮できていない気がします。

 例えば新海誠氏であればの3部作を初め、巨大な塔、宇宙人のようなものは正体はわからなくても意図は分かります。だから、メッセージ性が浮き立ってきます。
「フリクリ」の工場の様な象徴としての工場はありますけど、その割には本作の工場には機能があります。

 一方で、バブル期の少年少女としては随分地味な感じでした。もちろんその後閉じ込められた結果気力を失くしたのだとは思います。計算上は20年近くになるのでしょうか?2005年に五美が来たみたいで、5歳として14歳までそだてば2013年。1991年から2013年で22年間でしょうか。

 で、彼らのバブル期の思惑が語られない、どんなマインドでいたのが閉じ込められてどう変わったかという描写がないので、彼らがまるで現代人の少年少女に見えてしまいます。それを狙ったのかもしれませんが、変化が出来ないのは彼らの責任ではないと思われます。もちろん少年少女が変化を望まなくなったのは、社会の責任だという意味だとは思います。その彼らが20年以上たって、なぜ急に恋愛を始めたのか。そこが五美と正宗の出会いということ?

 そう…キャラのバックボーンや性格が理解できるヒントが少ないので言動に心が動かされないというのもあるかもしれません。特に睦実は最後語ってましたが彼女の何に乗っかればいいのか。
 そもそも正宗が主役だったのに結末の主役がねじれてしまっていました。

 こうやって分解して行くと自分の「勝手な解釈」はできるのですが、これが行間なのか妄想なのかが全く理解できません。つまり映画から伝わってこないので、見ているときにポカーンとなってしまいます。

 なんでしょう。大きなことを描いているようで「パーソナル」な「現在」の問題にしか焦点が当たらないので、仕掛けとストーリーが遊離してしまっている感じです。メッセージを語るための必然性を世界観から感じないと言えばいいでしょうか。そのせいで「裏」「過去」を世界観やキャラから感じないから広がりも深みもないということでしょうか。

「さよならの…」「空の青さ…」本作の共通する不満点がこれですね。例えば「さよならの…」でイオルフの過去や未来に想いを馳せられたでしょうか?あの舞台になった国の歴史が妄想できたでしょうか?本作はそれと同じですね。
 文学というには意味がありすぎますし、その割に語り切れていないのか受け取り切れていないもどかしさを感じます。

投稿 : 2024/09/10
閲覧 : 490
サンキュー:

14

ネタバレ

フリ-クス さんの感想・評価

★★★★★ 4.5
物語 : 5.0 作画 : 5.0 声優 : 4.0 音楽 : 5.0 キャラ : 3.5 状態:観終わった

エネルとゲイアのしんおん工場

むかし、ちょっとした知り合いの女性のひとりに、
  わたし、性感帯は頭脳なんです
なんて大マジメに豪語する方がおられました。

早いハナシ、顔とか服装とか体型なんかの『視覚情報』は、
もちろんダイジなことなんだけれど『ナニなトリガー』にはなりえなくて、
コトバで知的にビンカンな部分をクスグられると、
  あはン
とかなんとか思っちゃうんだそうであります。

そういうのって東大とかNASAとかうろちょろしていたら、
しょっちゅうスイッチ入って大変じゃね?
とか思って聞いてみたところ、どうやらそういうことではないようでして。

彼女いわく、
ムズカしい言葉をたくさん知っているだとか、
特定の分野において膨大な知識量をもっているだとか、
そういうのは
  『記憶力がいい』
だけであって、頭脳をクスグられる要素ではないそうです。

つまるところ『知識』というのは『道具』なのであって、
その『使いよう』の部分、
さらにその使い方のスマートさあたりにエモっちゃうんだとか。
(ちなみに英語のsmartは『かしこい』って意味であります)

  まあ確かに、コンサルとか会計人とかでも、
  たいしたことないヤツに限って、
  やたらムズカしい言葉つかってマウントとろうとしますしね。

    で、結局『一般論』を言ってるだけで、話がなんにも進みませぬ。

  これがいわゆる『BIG4』クラスのコンサルになると、
  拙みたいなアタマ悪いヒトにもわかるよう、
  カンタンな日本語を駆使して
  (あいつら、MBAの論文とか原書で読めるんですよ?)
  具体的な課題とリスクをチュ-シュツしていきます。

    んで、カイギが終わるころには、はっきりした一本の道筋が。
    かっけぇ。

だからまあ、
彼女の言わんとすることは、なんとなくわかるようなわかんないような。
ただまあ、拙の知り合いの女性の中には
  オトコは大胸筋、三角筋、上腕二頭筋、以上!
という、かなりきっぱりしたヤツもいて、
そうなってくると、おっぱいフェチとの線引きがムズカしいのですが、
いずれにいたしましても、
フェティシズムの方向性というのはほんと人それぞれであります。


さて、本作『アリスとテレスのまぼろし工場』ですが、
大方の予想を裏切り、アリスさんもテレスくんも出てまいりません。
『アリスとテレス』というのは、
なんかアリストテレスみたい、なんてもんじゃなく、
そのまんまギリシャの哲学者、アリストテレスさんのことであります。

もともとは本作の監督・脚本家である岡田麿里さんが、
ひとりでちくちく書いて『行き詰っていた』小説なんだそうです。
(原題は『狼少女のアリスとテレス』だったそうですね)

ちなみに、そのタイトルについて岡田麿里さんは

 >子供の頃に哲学者のアリストテレスという名前を、
 >アリスとテレスという2人組の名前だと勘違いしていたことを思い出して。
 >自分なりに生きることについて
 >つきつめて考えていきたかったのもあって、
 >『狼少女のアリスとテレス』という仮タイトルで原稿を書き進めていました。
 (『ダ・ヴィンチ』2023年9月号インタビューより)

というように述べておられます。

決して、
勇猛なオオカミ少女が悪の組織に対し、
アリストテレスとかニーチェとかを論理兵器としてふりまわし
無双するお話ではありませぬ。

で、MAPPAの社長である大塚さんから、
  なんかオリジナル作品のカントクやってみませんか
というオファーがきたときに、
イチオ-こんなアイディアあるんですけど、と書きかけを見せたら、
やろうやろうというハナシになり。

で、映画化のため脚本のカタチで執筆を再開。
無事に完成した脚本のタイトルは『まぼろし工場』だったのですが、
周りのスタッフから
  いやいや、アリスとテレス、残した方がゼッタイいいっスよ
とかなんとか言われて本題になったのだとか。


そのタイトルの『難しそうさ』がアダになったのか、
あるいは広告・宣伝担当がズボラかましたのか、
はたまたこういう映画の需要そのものが国内に存在しないのか、
興行収入は、
リクープラインに遠く届かない二億円台半ばあたりで池ポチャ。

  これから配信等でどれだけ投資を回収できるか。
  ビジネス的にはそんな感じの、
  良作だけどマーケットがついてきてくれなかった数ある作品の一本です。



先に『良作』というコトバを使っちゃいましたが、
拙の個人的なおすすめ度は堂々のAランク。
Sにしてもいいぐらい、しっかりしたつくりの作品であります。

ただし、おすすめと言っても人を選ぶ作品でして、
誰にでも自信をもっておすすめできるテイストではありませぬ。

  ・二次元美少女との結婚を真剣に考えておられる方
  ・アニメを現実逃避や自己肯定のために日々鑑賞しておられる方
  ・いたずらに頭脳をクスグられると殴り返したくなる方

  あたりには、まったく、これっぽっちもオススメできません。

  美しい映像と濃密な脚本を心地よく楽しみながら、
  ふと自分のジンセ-と照らし合わせ、
  普段あまり深く考えないことに思索をあそばせるのもいいかしらん。

  というような方にうってつけの作品ではあるまいかと。


誤解なきよう申し上げておきますが、
アリストテレスさんの名前が入っているからと言って、
ギリシャ哲学みたく『難解なこと』を言ってる作品ではありません。

  もちろん『エヴァ』みたいに
    『どっちでもいいことを難解・イミシンに表現している作品』
  ということでもなく、どちらかというと
    『ダイジなことをシンプルに問いかけている作品』
  であると、わっちは思いんす。


んで、結局どういう作品なのかと言いますと、
キャッチコピーの『恋する衝動が世界を壊す』が全てを物語っています。
わかりやすくまとめると

  現実から乖離してしまい、
  成長も変化も未来すらも訪れることのない閉塞した田舎町における、
  衝動的な『恋』のモノガタリ。

みたいな感じですね。『愛』じゃなく『恋』であるところがミソ。
ここのところについて、
岡田麿里カントクはインタビューで

 >理性も利かなくなるし、突然強烈なパワーも湧いてきたりして。
 >そういう得体の知れない「恋の衝動」そのものを
 >アニメとしてビジュアル化できたとしたら、
 >これは他にはない作品になるんじゃないかと思ったんです。
  (『カナブン』2023年09月25日特集インタビューより)

というふうに語っておられます。


舞台は、見伏(みふせ)という架空の、
海と山に囲まれたイナカにある、製鉄所の企業城下町。
ある日、その製鉄所で巨大な爆発が起こります。
それ以来、見伏の町は、
誰も町の外へ出られず、季節も変わらず、ヒトが身体的な成長(老化)もしない、
爆発直前の時間軸に固定されたマチになってしまいます。

寝たきり老人は寝たきり老人のまま、妊婦は妊婦のまま、赤子は赤子のまま。
そんな、なんの変化も未来もない閉塞した環境で、
リアル世界に換算すると10年ちかくの月日が経過していきます。

そんな見伏の町で中学生三年生のまま時を過ごしていた菊入正宗は、
ある日、苦手にしていた同級生の佐上睦実に声を掛けられ、
製鉄所でオオカミ少女みたいな五実(正宗が命名)に引き合わされます。

正宗、睦実、五実。
この三人が交流を始めたことによって、
閉塞完結していたはずの町に少しずつ変化が生じていきます。

見伏の町がおかれた状況とはいったい何なのか、
閉ざされた時間はふたたび動き始めるのか、
そして三人に訪れる未来とはいったい……みたいなおハナシですね。

  ちなみに、
  『パラレルワールド』とか『世界線』みたく、
  またかよ的なオチではありません。

  そのへんに転がっているラノベとは一線を画しておりますので、
  安心してご鑑賞くださいませ。


もちろん、単純な『恋物語』などでは決してなく、
そのウラには『いまを生きる』ということに関しまして、
視聴者一人ひとりに問いかけていく『ウラ主題』みたいなものが走っております。

ここのところが岡田麿里脚本の真骨頂なのですが、
あまりにも物語の核心に触れちゃうため、ネタバレにしておきますね。
(視聴意思のある未視聴の方には、
 閲覧されることはあんまりおススメできませぬ)
{netabare}

作品中にちょろっとラジオから出てきて、
拙もレビュータイトルに使っている『エネルゲイア』というコトバですが、
ムズカしそうに聞こえるだけで、そんなにたいしたもんではありません。

ひらたく言っちゃうと『行為そのものが目的になっている』状態のことです。

もっとわかりやすく言うと『おさんぽ』ですね。
どこに・なにしに行くということもなく、
ただぷらぷらと歩くという『行為』そのものが『目的』になっている状態。

これに対して、徒歩通学みたく、
ガッコ-に行くというはっきりとした『目的』のために
歩くという『行為』をしている状態は『キネーシス』と呼ぶそす。

  変質してしまった見伏の町みたく、
  成長も変化もなくただ同じ毎日を繰り返しているのは、
    『生きる』という行為そのものが『目的』
  と言い換えることもでき、リッパな『エネルゲイア』さんですね。

  一方、リアル世界、
  いろいろ例外はあるにしても(ひょっとしたら例外の方が多い?)
  夢やミライに向かってがんばって生きている状態は、
    『生きる』という行為は未来へのプロセスに過ぎない
  という考え方から『キネーシス』に分類することができまする。

見伏の町は、是も非もなくエネルゲイア世界に取り込まれてしまいます。
だけど考えてみると、
世の中の多くの人は『現状維持』だの『不老不死』を望んでいるわけです。
ですからこの世界は人々の『思い』の総体がカタチを成したもの、
ちょっとコムツカしい言葉であらわすと
  『イデアの具現化』
みたいなもんじゃないかと思ってみたりみなかったり。

  で、こうなってくると若い方々を中心に、

    変化もミライも成長もない世界で、
    ただ『生きる』ことに幸せや意味なんてあるのかや?
    そんなんで『生きている』と言えるのかや?

  というギモンがわいてきます。
  わいてくるんですが、それは裏を返せば、

    変化やミライや成長がなければ、
    ヒトは生きていても幸せにはなれぬのかや?
    変化やミライや成長のためにヒトは生きておるのかや?

  というギモンにも繋がっちゃったりするわけです。
  
作品内でそれぞれの登場人物はそのギモンに対し、
いろいろすったもんだ(←死語?)した末に、
『ジブンのおかれた環境下における、ジブンなりの回答』
みたいなものにたどり着きます。

ただし、
それはこの作品によって示された、
限定された環境における限定された回答であり、選択肢なわけです。

拙たちゲンジツ世界の住人たちには、無限の選択肢があります。
ですから、この作品の結末は結末でおいといて、
ふと我が身に置き換えて考えてみると、

  で、ぬしはどうしたいんじゃ?
  どう生きたいと思うておって、
  実際のところ、どう生きておるのかや?

みたいなイタい問いかけにぶちあたってしまいます。

もちろん、それに対する答えは人それぞれなわけです。
ほんと人それぞれなんですが、
ここのところが本作品のウラ主題になっていたりもするわけです。

だからといって、
そういうことを考えるも考えないも視聴者の自由なんですが、
このあたり、いかにも岡田脚本らしい奥行きかと。
  しかし、
  さっきから賢狼がコムズカしい質問ばっかしてくるのはなぜか。

ちなみに『エネルゲイア』も『キネーシス』も、
アリストテレスさんがごちゃごちゃ言っているハナシです。
ですからこの作品につけられたタイトル、
 『アリスとテレスのまぼろし工場』
って、実はけっこう的を射ていたりもするんですよね。
{/netabare}


映像は、さすがMAPPAさんだけあって、かなりよきです。
静、動、いずれのシ-ンにもクリエイティビティが発揮されており、
その場の空気感みたいなものまでがビシビシ伝わってきます。

  先に紹介した岡田麿里カントクの言葉みたく、
    閉塞した世界をぶちこわす、
    わけのわかんない恋のパワー
  みたいなのも見事に表現されています。
  さらに、中間部からラストにかけての映像による迫力と説得力は、
  カネ払う価値が充分にあるとわっちは思いんす。
   {netabare}
  ちなみに『荒ぶる季節の乙女どもよ』でもやってましたが、
  トンネルを女性の胎道に見立てる演出、
  岡田カントク好きですよね。

  ただしこれ、
  女性カントクがやるから素直に受け止めてもらえるのであって、
  拙なんかがこういう比喩を使ったりすると
    フリさん……なんかあった?
  とかなんとか心配されてしまいそうでコワいです。
  ジェンダー差別、ダメ、ゼッタイ。
  {/netabare}

キャラは、拙的には、まあこんなもんかな、みたいな感じかと。
言ったりやったりしてることはわかるんですが、
感情移入して手に汗握る、ということはありませんでした。

正宗くんとかリアルで自分の身近にいたら
  あ~、なんかめんどくせぇなコイツ
とか思っちゃうかもです。
あとキスシーン、ごちゃごちゃしゃべりすぎ。黙ってせいよ。

ただし、そこは拙との相性とか私的なスキキライのおハナシで、
決して良し悪しのモンダイではありません。
キャラ造形そのものは、
一人ひとりが細部まできっちり練り込まれ、
しっかりと『人のカタチ』をいたしております。

  あと、オオカミ少女の五実は、
  狼ではなくニンゲンが面倒見ているんだから、
  もうちょいきちんとまともに育ててあげたんさいよ、と。
  {netabare}
  睦実のキモチはわからなくもないのですが、
  一応、ムスメなわけですしね。
  こういうの、世間では『ネグレクト』とか呼びます。あかんやつや。
   {/netabare}

役者さんのお芝居は、
アフレコを主戦場にしている方(=声優)ばかりのキャスティングで、
ハイレベルで安定しています。

オオカミ少女五実を演じる久野美咲さんについては、
岡田監督のあて書き(演者を先に想定して脚本をかくこと)だったそうです。
こういうキャラが好きかキライかは置いといて、
たしかに、このキャラ造形は久野さんにしかできないなあ、と。
(ちなみに『あて書き』って慣れてくるとラクです。てか、楽しいそす)

で、大変エラそうな言い方になってしまうのですが、

久野さんに限らず、
作品全体を通したお芝居の方向づけは、拙の好きな感じではなかったです。
これは役者の技量のモンダイではなく、
音監の明田川仁さんがカントクの意を組んで、
イト的にそっちの方向へ誘導していったものと思われます。
(仁さん、どんな方向にも誘導できますしね)

  なんというのか、
  『ヒトとしての葛藤』の前に『ヒトとしての弱さ』が出すぎちゃってる、
  というように感じちゃうんですよね。

  もちろん、そういう方向のお芝居が好きな方を否定はいたしません。

  いたしませんが、
  拙としては、ヒトが弱いのは『あたりまえ』だと思っているので、
  わざわざ前に出すことはないんじないかと感じるわけで……もごもご。


  そんななか、拙が個人的に気に入ったのは、
  上田麗奈さん(睦実)の、クライマックスにおけるお芝居です。
  {netabare}
  リアル世界に向かう列車の中で、五実に向けてのセリフ。
   「だから、せめてひとつくらい。私にちょうだい。
    正宗の心は、私がもらう。
    この世界が終わる最後の瞬間に、正宗が思い出すのは、私だよ」

  これ、すっごくムズカしいお芝居なんですよね。
  というのもコトバの奥に、
  いろんな感情が綾のように折り重なっているからなんです。

   ・まぼろし世界に五美が心を残さないようにとの、深い愛情と配慮。
   ・本能的な独占欲・オンナとしてのプライド。
   ・ミライに向けて進んでいける五実に対する羨望・嫉妬。
   ・五実を『心から愛しあった二人の娘』にしてあげたいという願望。
   ・自分はこの子と離れ、まぼろし世界で生きていくんだ、という決意。

  そういう、きれいだったり汚かったりムジュンしていたり、
  いろんな感情がぐちゃぐちゃに折り重なったセリフであるわけです。
  いやほんと、アリストテレスよりムズカしいかもです。

  このあたり、上田さん、すっごくいい処理をされています。
  そこにいたるまでの睦実とは、言葉の硬度がチガウ。
  既視聴者で、ここが突き刺さった方、けっこう多いんじゃないかしら。

  上田さんって、最近ゆるふわ系の役どころを控えめにして、
  重め・イタめのお芝居に挑戦される機会がおおいように感じるんですが、
  その心意気がビシビシ伝わってくる好演でした(←何様発言)。
   {/netabare}


音楽は、劇伴ふくめ、いい感じ。
作品世界に違和感なく自然に溶け込み、
映像や脚本のよさをうまくブ-ストさせています。

で、ラスト、中島みゆきさんの『心音(しんおん)』はナミダちょちょぎれ。

  アニメ映画への楽曲提供なんかしたことなかった中島さんに、
  岡田カントクがダメもとで制作を依頼。
  で、脚本を読んだ中島さんがびっくり仰天、
    逆に岡田カントク推しになる
  みたいな感じでジツゲンした奇跡のコラボレーションであります。

  作品世界の楽曲化、
  という点ではYOASOBIさんが超有名ですが、
  この曲は、それに勝るとも劣らない出来かと。

  拙がここまで駄文を並べてぐちゃぐちゃ書いてきたことが、
  この数分間の楽曲に全て凝縮されています。
  いやまいった。こんなん、拙のク〇レビューなんかいらないじゃん。
  {netabare}
    ちなみにラスト、
    成長した五実が工場跡で正宗の描いた絵を見つけることで、
    まぼろしだった見伏町が消失してしまったことが暗示されています。
    (だからこそ、正宗が現実世界に干渉できたわけで)

    オトナになった五実は、そのことをおだやかに受け止めます。

    これは悲劇なんかじゃない。
    それはほんとうに大切で、かけがえのない思い出だけれど、
    いつか消え去る『まぼろし』だったのだから。

    この、あるイミ残酷で、圧倒的で、抗いようのないゲンジツ。
    そして、ただ一人ミライへ進んだ五実が立ち去り、
    誰もいない『からっぽになった』工場が、静かに暮れていきます。

    ここに『心音』とか、
    いやもう、演出すごすぎ、完全にゲージュツですやん。
  {/netabare}


というような感じでありまして、
ホント興行的にはパッとしなかった本作なのですが、
見どころはけっこう満載なんじゃあるまいかと。

王道美少女が一人も出てこないので、
そっち系の方々にとっては『邪道』な作品であるのですが、
たまには邪の道を歩んでみるのも一興では。

  ひょっとしたら、

  ジブンでは気づいていなかった自分のセーカンタイが、
  いい感じにシゲキされるかもしれませんしね。
  (いや、コジン的なアレは知りませんけど)

投稿 : 2024/06/05
閲覧 : 124
サンキュー:

17

ネタバレ

shino さんの感想・評価

★★★★☆ 3.8
物語 : 3.5 作画 : 4.0 声優 : 4.0 音楽 : 3.5 キャラ : 4.0 状態:観終わった

心よ目を覚ませ

MAPPA制作。

街の象徴ともいえる製鉄所の大事故により、
そこでは誰も街の外へと出ることは出来ずに、
時も止まり、永遠の冬の世界に閉じ込められてしまう。

主人公、正宗は同級生である睦美を介し、
製鉄所の立入禁止区で、不思議な少女と出会う。

空間的にも時間的にも閉ざされた世界で、
成長もせず、ただ日常を生きる少年少女が描かれる。
かなり強引な物語展開、導入部であり、
先の読めない展開がここでは退屈に感じます。

ただ物語のまとめには好感が持てます。
一定以上の開放感があり、感動を覚える。
この終盤を描きたくて紡いだ物語なのでしょう。

{netabare}正宗は断片的に、現実世界に触れ、
子供の不在により、全く心を動かせない、
心を塞いだ自身とその家庭を見ている。

この世界がたとえまぼろしであろうとも、
泣くことも笑うことも自由に出来たことを思えば、
岡田麿里の描く世界では、生きることは、
心を自由に動かせることに他ならないのだろう。
変化とはおそらく可能性の追求である。{/netabare}

意味なんてたいして必要ない、
生き生きとした心の躍動こそが、
生への実感へと繋がるのです。

投稿 : 2024/04/06
閲覧 : 383
サンキュー:

25

あっきーさん さんの感想・評価

★★★★★ 4.7
物語 : 4.5 作画 : 5.0 声優 : 5.0 音楽 : 5.0 キャラ : 4.0 状態:観終わった

癖が強いがハマる人はとことんハマる力作

解説が少なく、最初は訳が分からないが、少しずつこの作品世界の全容が見えてくる。
そんな少し変わったストーリー構成をしている上に、監督のこだわりがとても色濃く出ているため、好き嫌いが結構分かれそうだと思った。
ただハマる人はとことんハマるような、監督さん方のこれを描きたいんだという魂を感じた。

投稿 : 2024/01/22
閲覧 : 130
サンキュー:

4

ネタバレ

まにわに さんの感想・評価

★★★★☆ 3.5
物語 : 4.0 作画 : 4.5 声優 : 3.0 音楽 : 3.0 キャラ : 3.0 状態:観終わった

オカだマリのだましえ工房

確定的なことをしないまま二転三転、何がしたいのかと思いながら、何がしたいのかという話を見ていた初見の前半。

{netabare}親のセックスを見てしまった、みたいな話。まあ、この場合はラブレターとか交換日記、もしくは厨二ノートを見てしまった、というほうが妥当か。
もしも両親の馴れ初めがイタかったら? 今は冷めているように見えるが、当時は厨二全開だったぐらいの状況。
親の若気の至りに失望し、子育て中もその名残りがあったと悟った時の絶望がよく表れている。

でもこれって、デキ婚であろうとなかろうと、早婚でも晩婚でも、誰にでも当てはまることなのではないか。
親がどういうつもりで自分を産んだのか。
夢があっても胡散臭いし、夢がないと辛気臭い。
もしかするとこれらは、どちらかしかなく、中間はないのかもしれない。
混在してても、一方を図と思えば、他方が地に見えるだまし絵のような。
それこそ、冬が一瞬にして夏になるような。{/netabare}

投稿 : 2024/01/18
閲覧 : 118
サンキュー:

2

さんの感想・評価

★★★★★ 4.4
物語 : 3.5 作画 : 5.0 声優 : 5.0 音楽 : 4.5 キャラ : 4.0 状態:観終わった

自分自身が学生の時にこの作品を観たらどう思うのかが知りたい

タイトル見てなんじゃ?哲学か?と思って見てみましたがどちらかというと詩学よりっぽいようなお話し

結論から言うとストーリーより見せ方が面白かったです
恐らくそっちを重視してる作りに思えました
作者の感性に直線手を触れるような感覚
心の有り様を視覚化したような描き方
魂の有り様は心。みたいな
ストーリーはなんだか色々と言いたい事と描きたい事をつぎはぎしてなんとか纏めたって感じ。まぁ映画だしね
ただ、声優さんも素敵だしMAPPAが作ってるだけあるなって作画
幅広い層に見てもらうためだとは思いますが色んな角度から見ても面白いように作ろうとしてふんわりしちゃった感が否めない
なので逆に評価が分かれそうな気もします。

自分自身が学生の頃に見たのなら自己啓発になって朝からやる気もりもりだったかな?
どう解釈してどう思うのか気になる

毎日毎日淡々とつまらん毎日に絶望して先々不安を抱えてるって人には特におすすめかも笑

投稿 : 2024/01/17
閲覧 : 67
サンキュー:

4

ネタバレ

nas さんの感想・評価

★★★★★ 4.2
物語 : 4.5 作画 : 4.0 声優 : 4.0 音楽 : 4.5 キャラ : 4.0 状態:観終わった

エンタメ感高い岡田麿里作品

これは良いわ。今年のベストアニメかもしれん。ここのところ岡田麿里作品にハマってなかったからスルーするつもりだったんだけど傑作と評判良いから見てみたら確かにそんな感じだわこれは、なんだろうな、今までで1番湿度高いのに爽やかさがある。世界設定もありそうであんまりないと言うか、結着の付け方がかなり好み。基本的には今までと同じ作風に乗ってるんだけどエンタメ感が1番高いのかな、極限状態だからかジメッとした要素が気持ちよくなってて作風にめちゃくちゃあった世界設定だったな

投稿 : 2023/11/18
閲覧 : 83
サンキュー:

5

ネタバレ

waon.n さんの感想・評価

★★★★★ 4.8
物語 : 5.0 作画 : 5.0 声優 : 5.0 音楽 : 4.0 キャラ : 5.0 状態:観終わった

【傑作】1,私の中のフィルター 2,美しく残酷な世界3,小説を読んで

【First】

 岡田磨里節炸裂って感じですね。
 本当に優秀な脚本家さん。監督としては映画化2作品目になります。
 監督との兼業になり2作目ということで、演出の仕方もより洗練されてました。『さよ朝』よりも一段上の表現力になっていると思います。

 どんな絵コンテ修正入れてるのか私気になります!

 まだ観てない方はとりあえずレビュー読む前に映画館へダッシュを推奨します。

【Synopsis】

 とある工場町その名を見伏町。そこには大きな製鉄所があり、かつてご神体でもあった山を切り崩しながら成り立っている町である時、爆発が起きた。
 その日から、町は人々は成長を止める。
 成長停止の原因は山の神様の怒りとされ、鎮まるまれば元に戻れるという希望が人々を正気に繋ぎとめていた。
 そんな先の見えない状態が何年も続いた頃。
 この停まった世界から抜け出したい主人公はある少女に出会う。
 その子は町で唯一成長しする。
 つまり外から来た少女だった。

【Review】

 レビュータイトルの私の中のフィルターについてそこから書いてみようと思います。

1、私の中のフィルター

●リアルの事件や災害がもたらしたもの

 9.11後に映画中で現代以降の戦争または紛争が描かれればアメリカ人にとっては9.11以前と以後において、フィルターが入るのと同じように。
 日本人には爆発事故があれば、3.11関東大震災からなる福島第一原発の事故というフィルターを通してみてしまう。
 いや、日本人という主語を大きくしなくても良い。私の中にはそのフィルターがしっかりと入っていて、映画の意図とは関係なくあってしまうものなのだろうと意識させられてしまった作品だった。

 これまで、アニメでは『バブル』『すずめの戸締り』など、そもそもモチーフとしてもしくは、メタファーとして、もしくはテーマとして入っているアニメを観てきましたが、言ってしまえば分かりやすく、そうつくってるんじゃないの? って意図を感じ取れていました。

 しかし、今回は少し違っていて岡田磨里さんだからそこを突くことはしてこないだろうと思っていたし、本当にそんな意図はない可能性の方が高い。
 なので、映画というコンテンツが発するモノではなく、私の中にあって、あってしかるべきものとして存在してしまっているから色眼鏡で見てしまっているのだと気づかされてしまった。
 じゃあどの辺で感じ取ったの? って話をしてみると、冒頭で工場が爆発するシーン。そして、製鉄所がどうなったのか、町がどうなったのかを見せつけられた時。
 時間が止まってしまった場所。
 海岸線。
 あの後、石巻市、名取市、などに行きあの日から止まってしまった風景を見た。もしあの時、時間を切り取って永劫続く日常として、生きていたらどうなのか…。想像してしまう。

 そしてそんな中にいるかもしれない、本作の主人公は外へと希望を観る。


●いくつかの作品でみられる閉塞感

 場所に囚われる。時間に囚われる。どちらも岡田さんの作人はしばしばこういったモチーフが顔を出します。
 『花咲くいろは』では旅館に。
 『あの花』ではめんまがいた秩父という町に。また、めんまがいた時代に。それ故に引きこもりになった。
 『空の青さを知る人よ』でも過去と現在、そこから脱出できない人を描いている。
 そんな中から逆境を乗り越え、成長し―――だったり、一歩踏み出す勇気を―――みたいな雰囲気でした。

 今回の作品にもその閉塞感は重苦しい鈍色の空模様として演出され、物語のテーマへ繋がっているように感じました。


2、美しく残酷な世界

●テーマ、テーゼはなんだったのだろうかと反芻してみる。

 【時は止まれども変化は止められず】
 【停滞の中での変化】

 全体的に不条理が街全体を覆っています。
 いつまでも雪が降り続きながら。

 事故は誰の身にも突然やってくる。
 言ってしまえば【不幸】が降ってくる。
 そこにちょっと待って! っていう感じで、時間だけががストップしてしまった。
 誰にでも、同じ毎日の繰り返しで飽き飽きだ。こんな退屈な毎日から抜け出したい。などと嘯く青春時代を過ごした記憶がある、もしくは観たことがあるんじゃないだろうか。
 そんな鬱屈とした毎日は子供と大人で大きく感覚が異なる。そしてそこを描いている点は面白かった。
 日々成長を続ける10~20代とこれから歳を取って肉体的には老化していく30~上の世代。現状を維持したい大人との意識の相違は次第に対立へ向かっていくような気さえしてくる。

 見ている時の私はどっちのスタンスだったのだろうか。
 …いや、どちらの気持ちも分かってしまうなというのが正直な感想で、子供の頃の感覚も思い出せるし、現状を鑑みるとこのまま長い間生きていけるということにも惹かれる。
 物語自体は子供からの視点で進んでいくけれど、佐上のようなキャラクターが大人目線での欲求をストレート表現してくれたので、深堀りをする手間を省く役割をしてくれたのは上手いなと思いました。キャラクターとしても強いし面白いアクセントになったのは間違いない。

 若者の変化は身体の変化だけではない、精神的な変化でこれは止めることができない。
 そんな主人公とヒロインの二人に岡田さんがぶつける悪意は二人の幸せになるはずだった未来。もうたどり着くことのできない未来を見せる。
 二人はそこですれ違う。
〈あれは、今の私達の未来じゃない。だからこの子も私たちの子供じゃない〉
 そう、停滞した場所に居続けるという選択はつまり、子供は作れない。だからあの子は生まれない。とてつもなくツライ現実。
 でも本能では自分の子供だと感じてしまう。
 強烈な不条理で私は震えた。

 岡田磨里さんの脚本にはキャラクターに対して容赦なく悪意をぶつけることができる力がある。これがとてつもない魅力で観ていてツラいけど観てしまう。
【心に傷をつけられる→痛い→好き→痛い→心に傷がついた】
 逆説的に痛いと感じたものはもしかしたら好きの裏返しなのでは? という問いにも聞こえてくるからまた面白い。
 どんなに否定しても、愛情の裏返しに見えてしまうから睦実っていうキャラクターはツラそうに見えてしまう。

 テーマに対して、テーゼはこっちなのかもしれないなと、こうやって振り返ってみて思う。


●変化しない活動記録

 元の時間の動きに戻った時の為に変化しないように記録を付けるっていうのも面白かった。
 変わってないと安心する人、変わってしまったのに同じことを書かなければと思ってしまう人、欺瞞だと最初から書かない人。それぞれだろう。
 主人公は書かなかった。でもなぜ書かなかったのか、書けなかったのか。変化したいという欲求があったから。
 書いてしまうことで枠にハマるではないけれど、そこに収まってしまう怖さみたいなものを感じていたのかもしれない。
 ――自伝小説家トーマス・ウルフの原稿は文章が多すぎた為、編集者のパーキンズが編集者として校正して文章を短くしたという話を本で読んだ。ウルフは全てを描写したかったがこれでも削っている、これ以上は減らせないと二人は格闘したという――文章に残すというのはそういうことなのかもしれない。規定されてしまうことと一体なのだろう。
 彼は絵を描くのが好きだ。これも一つの表現を規定している物差しではあるけれど、決められた文章を書くのと違う点がある。
 中動的であり、且つ能動的である、そして上手くなるという変化を感じることができる。
 それだけでなく、居なくなった父と自分を繋ぐものとしても機能している。
 これだけマクガフィンとして優秀なこれを趣味に選んだのはスゴイ。
 あそこは泣けちゃうポイントだったよ本当に…。

●一番印象に残っているシーン

 さて、この間を揺れ動くすっごい生々しく岡田磨里さんのいい意味で悪意を観て胸が痛くなったキャラがいる

 それは妊婦の後ろ姿だ。
 とにかく動きが重い。
 こうなる前は生まれてくる日を夢想しない日はなかっただろう。
 しかし、停滞した今ずっとお腹のなかにいて生きているのを感じ続けるしかない。生まれることを夢見続ける。

 「希望とは目覚めている人間が見る夢である」

 調べたら出てきたアリストテレスの名言らしいけれど、停滞したこの世界では、希望は残酷なだけなんだ。
 こんな皮肉の効いた話はないよ。

 停滞した世界はかくも残酷なものなのか…。
 仙波や園部が耐えられなくなるのも分かる。
 となると、あれは救済だったのか?

3【追記】小説を読んで

 映画の公開より先んじて出版されていたみたいで驚きました。
 ひび割れの描写がああなったのはイメージボードを作成した美術監督さんが素晴らしい仕事をしたんだなって改めて感じました。

 また、タイトルにある『アリスとテレス」ですが、本文でちゃんと書いてありました。
 印象に残っているシーンで書いた彼の名言が引用されていました。
 そうすると、じゃあなんでアリストテレスではなくアリスとテレスなのか…。
 恐らくは二つの世界、希望の世界と夢の世界が隔たれていることの隠喩なのではないか、などと考えました。

 映画では描かれていたのか確認できていなかったので、Blu-ray買ったら確認したいなと思っている事がひとつあって。
 それは、小説版では妊婦さんが現実の世界を観た時に、子供と仲良くしている自分を見るというもの。
 そして泣き崩れる。
 この涙をどっちと捉えるのか…。
 どっちとはつまり、現実でちゃんと産まれてくれたという事の安堵や顔を見れた嬉しさによるものなのか、それが今後自分にはおとずれる事がない事への絶望の涙なのか。
 もしくは、嬉しいって感情の後に、絶望の波が押し寄せてきたのかこの心情を想像しながら読んでいて非常に胸が苦しくなった。

 正宗の父の日記を読むシーンがあった。
 ここにアリストテレスの言葉が出てくるのだけれど、映画では分からなかったが、居なくなった大人の象徴として出てくる父は希望や可能性という言葉を使う。
 希望を見る資格のある少女を犠牲に―――
 大人からの懺悔のように聞こえる。
 そして、自分も変わりたかった、だけど無理だった。でも、正宗お前はちゃんと変わっている。
 それを認めてもらえて、褒めてもらえて嬉しくないはずがない。
 変わっていく決断をするには充分な動機となる。例え今の世界を犠牲にしても。
 反対の面からみると悪役の立ち回りかもしれない。でも彼の視点で物語が進展しているので、そうはならない。
 むしろ、世界の存続を願って行動する佐上は主人公だったのかもしれない。見終わってから考えて俯瞰した時にこの捻りは面白く感じる。

 変えられない大人達の懺悔をここに見た気がした。。。

【おわりに】

 物語の順序に合わせてレビューを書いていないので、読みづらそうだななんて思いつつ書いてみました。
 主人公とダブルヒロインの恋愛模様については敢えて書くこともないかなって思ってしまったので割愛しました。

 しかし、違う世界だとしても近親者での色恋を三角関係にしちゃうなんて本当に恐ろしいことを考えなさる(笑)

 映像がどうだとかっていうのもほとんどレビューしてないけれど、いやはや頑張ってらっしゃる。
 アニメであんなにエロいキスシーンを描いちゃったらもう…Blu-ray買います! ヘビロテだ(使い方違うし死語感ある)。

 現実とのリンクを断ち切れずに視聴をする事になってしまったけれど、そうではない人だって、自分の人生という経験値からくるフィルターも同じなわけで特別なことではないし、あるから良いとか悪いとかそういうものでもない。超自然的にただあるだけ。千利休リスペクトって感じ?(知らんけど)
 
 最後に副監督の平松さんだと思うんだけれど、鏡の構図はメチャクチャ面白かったし、不思議で不穏で何とも言えない演出でした。
 監督と副監督の意見交換がどういった形で進んでいったのか興味を引かれる部分がありますね。

 何やら小説版も出てるじゃないですか!
 先に読んでいたらどんな楽しみ方になっていただろうかな。
 もし先に小説読んだ方がレビューしていたら、レビュー読みに行きたいです。教えてもらえたら嬉しいです。

 終わりにが長い…ってことで終わります。
 では、よしなに。

投稿 : 2023/11/03
閲覧 : 106
サンキュー:

10

ネタバレ

101匹足利尊氏 さんの感想・評価

★★★★★ 4.2
物語 : 3.5 作画 : 4.5 声優 : 4.5 音楽 : 4.0 キャラ : 4.5 状態:観終わった

停滞のむきだし

1991年冬。製鉄所の爆発以来、外界から隔絶され、時の流れが止まった見伏(みふせ)市。
何年も中学3年生を繰り返している少年少女らの間で巻き起こる思春期の恋の衝動が、
停止した街の秩序を揺るがしていく劇場アニメ作品。

【物語 3.5点】
監督・脚本・岡田 麿里氏。
同氏の未完の小説『狼少女のアリスとテレス』を本作向けに再編し映像化。

見伏市は時間が停滞していることで安定しているが、最近は空にヒビ割れが多発。
製鉄所の煙から生成される“神機狼”で修復する頻度も高くなって来ている。
ヒビ割れを作り閉鎖世界の崩壊を招くのは人々の心の変化。
町は“自分確認票”などの掟により人々の異変を厳重に監視規制している。


本作もまた斜陽に向かう日本社会の停滞感を描き、次代に未来を託す、
近年トレンドの作品群の中では後発のタイミングでの公開。
が、既視感を上書きする勢いで、岡田麿里氏ならではのオブラートに包まない描写が鮮烈な印象を残す野心作。

大人たちの停滞を押し付ける同調圧力が、子供たちの心を蝕む。
(※核心的ネタバレ){netabare} 見伏の住民はまぼろし故に、{/netabare} 痛みを感じなくなった少年たちは生の実感を得るために危険な遊びに興じる。
時間の止まった町で成長し続ける異端の“狼少女”五実から香る生の匂い。
主人公・菊入 正宗と佐上 睦実、五実との間に吹き荒れる痛切な恋の衝動こそが生の実感を与え、世界を壊す暴力となる。

展開も概ね予想の範ちゅうで、シナリオ自体の衝撃で驚かせると言うより、
エッジの効いた表現で、鑑賞者の心にも傷痕を刻む感じ。

ただその傷痕はトラウマにはならず、むしろ停滞した社会の中でも価値を見出す希望や、
痛みを伴ってでも未来へ進む勇気といった、ポジティブな痛みとなって残る。
事前PVが醸す危険な印象や、作中私が喰らったダメージを思えば、やはりガード必須な岡田麿里作品ですが、
鑑賞後の後遺症は意外と残らない前向きな作品となっています。


【作画 4.5点】
アニメーション制作・MAPPA

背景美術にも積極的に作画を入れて登場人物の心情を反映する世界の潮流。
この最先端を走る海外アニメ映画などを観ていると、日本アニメはちょっと敵わないのではないか?と悲観してしまいますが、
本作の少年少女の恋心の痛みなどに呼応して裂ける空などを眺めていると、
MAPPAや『さよ朝』チームならばJAPANもまだまだ食らいついていけるのでは?と希望がわいて来ます。

“狼少女”五実の{netabare} おまる洗浄シーン{/netabare} など匂いを意識させる作画もまたオブラートに包まず、
痛覚と並ぶ生の実感を体現。

その他、冬と夏を活用した心情表現。
(※核心的ネタバレ){netabare} ずっと冬が続く見伏市のまぼろしは、裂け目から覗く現実世界の夏の盆祭りに魂を呼ばれるように霧散して行く。{/netabare}
(※核心的ネタバレ){netabare} 正宗と睦実のキスシーンの熱を表すように、裂け目から降り注ぐ夕立が雪を溶かす天候描写がエモ過ぎます。{/netabare}

正宗が描き続けている作中イラストの上達ぶりは、
停滞した町でも、人間は成長できる好例としてテーマ深化のスパイスとなる。


90年代で止まった街ということで、小物デザインも花柄ティノポットなどが当時を再現。
もっとも私は萌えアニメキャラの装備品たるブルマとは異なる、
リアルに存在した女子中学生の生々しいブルマの揺れ動きの再現カットに、
作中の中学生男子共と一緒に鼻の下を伸ばしていたわけですがw


【キャラ 4.0点】
主人公少年・菊入正宗と同級生・佐上睦実。身体は思春期、心を凍りつかせたままで大人になっていく同級生。
二人の間に心は幼気で無邪気なまま身体が成長していく奔放な五実が入っていくことで、
震源のトライアングルが活発化していくメインキャラ相関。
(※核心的ネタバレ){netabare} 外の現実世界では夫婦になる正宗と陸実の娘が五実。{/netabare}
五実は正宗と陸実にとって諦めていた未来を垣間見せる存在でもある。

停滞を強いる大人の同調圧力に対し、イラストを書き、自分確認票提出をサボって抵抗する正宗。
それでも停滞は少年の心を確実に蝕んで行く。
その苛立ちを自分確認票をペンで書き破ってぶつける描写が痛切でした。


心の変化を禁じている見伏市ですが、街を回すためのスキル習得には意外と寛容。
正宗たち中学生も運転免許を取得して老祖父の送迎などに車を活用。
終盤“合法的”な中学生によるカーアクションも実現し盛り上げに一役買う。
(これなら二次元世界でも学生の違法行為の取り締まりを叫ぶ真面目なネット警察諸君も、ぐぅの音も出まいw)
運転スキル習得のキャラ設定もまた停滞していても人間は成長できる一例を示す。


【声優 4.5点】
主人公・正宗役の榎木 淳弥さん。
陽気なボイスが特徴的な声優さんですが、本作では少年の葛藤をぶつける鬱モード。

ヒロイン・陸実役の上田 麗奈さん。
妖艶なボイスで、えのじゅんを挑発し、“謎の同級生”を構築。

そして“狼少女”五実役には、痛みにのたうつロリボイスに定評がある久野 美咲を指名。
“暴力的にピュアにして欲しい”との監督のディレクションに応える。

メインキャスト3人は実際にトライアングルを囲んで収録を行う異例の体制で、
コロナ禍で広がった分散収録の流れに一石を投じる。

この成果が一番出たのがやはり(※核心的ネタバレ){netabare} 正宗と陸実の濃厚キス現場を五実が目撃し心に激痛が走るシーン。{/netabare}
分散収録か否かなど聞いても分からない私ですが、
あのシーンからは同時収録ならではの生々しい三角関係が確かに伝わって来ました。
何より上田 麗奈さんの妙演がたまらなくエロティックでした。


正宗の失踪中の父・昭宗役に瀬戸 康史さん。
残された母・美里を見守ると称して恋心を打ち明けられない叔父・時宗役に林 遣都さん。
中堅俳優に年輪を刻んだ煮え切らない大人のトライアングルを託す。
俳優タレントの劇場アニメ起用への文句も多い私ですが、
このポジションへの俳優キャスティングには納得感がありました。

見伏市の体制側にカルト要素を注入した神官・佐上 衛役の佐藤 せつじさんも、
映画吹替経験も生かした明快な狂人ヒールぶりで機能していました。


【音楽 4.5点】
劇伴担当は横山 克氏。
音響彫刻シデロイホスの神秘的な金属音によるヒビ割れる空の演出強化。
退廃のバックグラウンドに響く高校生コーラスによる思春期の絶望表現。
未来の希望を象徴する海羽さんの歌声。
私は本作を横山氏が新機軸で、さらにもう一つ殻を突き破った作品としても記憶に留めたいです。

ED主題歌は中島 みゆきさんの「心音」
起用の一報を耳にした時は、歌手の世界観が強烈過ぎるのでは?との懸念もありましたが杞憂でした。
歌詞世界と作品のシンクロ率では本年のアニソンの中でも屈指だと思います。



【余談】長いひとり語りになるので読まなくても結構ですw

見伏市が停止した1991年は奇しくもバブル崩壊による不景気が始まった時期。
私にとって本作は“失われた30年”の日本社会の停滞から若者が受けた影響を否応なしに想起させられる。
作品そのものから感じる痛みより、私の内面に封印していた古傷が疼いてのたうち回った劇場鑑賞でもありました。

この30年変革も多々ありましたが、基本的にバブル後に日本が取った施策は変わらないことによる安定確保。
こうして停滞した社会というのは、極度に変化や異物を恐れる。
過剰なまでの無菌無臭の追求。公園の砂場にまで除菌した砂を敷き詰める狂気。
地毛の茶髪まで黒に染めさせる校則というのは今にして思えば事なかれ主義をこじらせた、とんでもない差別行為でした。

ゼロ年代。ロスジェネの若者たちの間で、布団を日向で干した匂いがするアロマがちょっとしたブームになった事も。
同時期に社会問題になったリストカット。理由は個々人により様々でしょうが、
本作みたいに停滞の中で、生の実感を渇望し痛みを求める少年たちを抽象化された物を直に喰らうと、
停滞は人の心を確実に殺すことを痛感します。


私の中学時代はブルマがハーフパンツに切り替わった時期。
同時に体育での水泳復活も協議されましたが、ここも事なかれの校長の強硬な反対により廃案に。
私にとって中学生のスクール水着女子というのは完全に二次元世界の幻想に過ぎません。

高校時代には修学旅行にて女子生徒たちが共同浴場を使用せず客室シャワーで入浴を済ませるという事案が問題視。
教師が裸の付き合いをする意義を説教したわけですが、
私は、中学時代に水泳など同性同士の着替えやボディーラインを見る機会すら徹底排除しておいて、
何を今更と呆れて聞いていました。

かと思えば恋愛禁止論をぶち上げて受験戦争に立ち向かうよう発破をかける先生方もおられて。


そんなこんなで大人になった我々の世代は、今の若者は草食系などと揶揄されたわけですが、
殺菌消毒された草ばかり食わせておいてそりゃないよ~と恨めしく思ったわけです。


本作は岡田麿里作品の中ではマイルドな部類かもしれませんが、
私の抱えた諸々のイタい思い出がむき出しにされてしまう辺り、やはり劇物に指定される作品なのだと思いますw

投稿 : 2023/10/14
閲覧 : 405
サンキュー:

27

みのるし さんの感想・評価

★★★★★ 5.0
物語 : 5.0 作画 : 5.0 声優 : 5.0 音楽 : 5.0 キャラ : 5.0 状態:観終わった

実際にそおゆうことありますからですね、まあそおゆうこともあるかなと。

10月の連休に見に行ってきたっすよ。娘と2人で。
いやこれはもうめちゃくちゃ面白かったですよ。
娘(30歳)もいやおもしろかったぜ~とゆうとりました。

前評判では賛否・評価が分かれるとか聞いてましたけど、ボクの印象ではそうかぁ~??です。誰が見てもおもしろいのでは??と思いましたですわ。

ハナシの感想を述べるといきなりネタバレになってしまうのでそもそもレビューを書くことはばかられるわけですが、とにかく映像表現が素晴らしかったですわ。

なるほどこうなるとぐずぐずとした説明みたいなんはない方がええなと思いますな。

なんかそおゆう見た人それぞれが感じ取ったアレでああこれはこおゆう話なんだなと思えばええのではないでしょうかね。

まあ読み解けばアリストテレスやユングやフロイトの言説に触れてああでもないこうでもないと考えを巡らせるのももちろん楽しいでしょうし。


そーはゆうてもそもそもアリスもテレスも出てこんし。
男の子は菊入政宗とかゆう名前だしなるほど菊正宗が好きなのか。そしたら友達に黄桜河童とか出てくるのかと思ったら出てこんし。

設定とかがなんつーかこう作者の心に刺さった棘みたいな断片的なかけらで構成されてる感じがあって、どことなし取り止めがない感じしましたけど、それはそおゆうハナシなのでその取り止めの無い不安定な感じがこのハナシ全体的に靄のようにかかっており、おそらくはそれがまたこの作品の魅力となっておるような気もするわけですよ。


とにかく工場が爆発してその町の人どうにかなっちゃうわけなんですが、その年が1991年(平成3年)なんですと。

これがまた1991年て実際にいろいろあった年であそうか岡田マリ的にもその年は刺さってるんだなと。

ロシアの崩壊とか湾岸戦争。ピナツボ火山の噴火もこの年ですわ。


さて主役の男の子女の子はその1991年では14歳ってことになってますが体はそのまんまで10年ぐらい経っちゃってるとゆうですね。なので中身はいい大人なわけですよ。それがブルマはいて体育やったりパンツ見せたりしたらそらもうおかしくなるってば(笑)。

そのほかぺろぺろもぶちゅーもありますんでそおゆうところはエロいちゃあエロかったかもですね。ま、たいしたことないですけど。

まあとにかくそおゆう設定なんで工場が爆発して町の人らがどうなったのかってことはなんとなーし気がついちゃうわけですけども、こっち側の世界とあっち側の世界の見せ方とゆうか表現の仕方が素晴らしく激しく唸りました。


こっち側とあっち側の境目の話って実際大事故があったりしたら耳にするやないすか。どう考えてもこの世のものではない力が働いたのではないかと思うような出来事をですね。

例えば1985年の日航機墜落事故。500人以上が犠牲になりましたが4人だけ生きてはりましたよね。

あと2012年の中央道笹子トンネル天井版落下事故。友人5人で乗っていたワゴン車で車はぺしゃんこになったけど女の人一人だけどおゆうわけか助かったとか。

実際にそおゆうことありますからですね、まあそおゆうこともあるかなと。


まあその辺は実はこのハナシの本筋からはズレるような感じもありますが、なんかまあラストシーン見てそんな風に思いました。


とりあえずネタバレなしでのレビューを心がけましたので実に取り留めのないレビューになりましたが、取り留めのないレビューを書くのはいつものこととゆうことでございます。


いやホントにおもしろかったんでみなさん是非見に行ってください。
ちなみにボクのレビューはあまり参考にはなりませんのよ。おほほほほ。

投稿 : 2023/10/11
閲覧 : 214
サンキュー:

12

ネタバレ

たわし(爆豪) さんの感想・評価

★★★★☆ 3.9
物語 : 4.0 作画 : 4.5 声優 : 3.0 音楽 : 4.5 キャラ : 3.5 状態:観終わった

SF好きとしては物足りない

原作、脚本も書いている岡田麿里監督の第二作目であり、恐らくは「さよならの朝に約束の花をかざろう」の流れからするともう一作を作ることで、「SF三部作」として完成するんじゃないだろうかと勝手に妄想しておりますが。。

本作「アリスとテレスのまぼろし工場」は、少女漫画より更に1960年代のSFちっくな作品であり、去年に批評した荒木哲郎監督の「バブル」と同じく、影響を受けたであろうはジェームズ・G・バラードの「結晶世界」でしょう。

今回も「さよならの朝に」同様、人の「感情」や「情念」が世界に影響をもたらす。。。そう「セカイ系」の典型的な作品ですが、今回もまたセカイを覆う「心機狼」なる煙によって「幻の世界」と「現実の世界」が二手に分かれて行き来をするという感じの内容になっています。

ただ、岡田真里さんはそこに少女漫画的な恋愛要素や幼少期の思い出を語りだすので、「自小説」の側面もあったりとSFでありながら他構造からなる複雑な内容になっています。

なので、岡田麿里さんの「思い出」(幼児期の体験や恋愛経験)に感情移入できる人は話にぐっと引き寄せられる内容になっていますが、新海誠監督の作品のように分かりやすい恋愛要素はないので、万人に受ける内容かと聞かれると微妙な気がします。

かと言って、SF的には結末が、もともと脚本の専門家だったというには少々お粗末だと感じました。

「現実」と「幻」というのは、グレアムバラードからすると「生」と「死」の世界であり、そこは共通感覚ですが、岡田真里さんはあくまで「アニメ脚本」として捉えるあまり結末がどうしても分かりやすく納得のいくものとして構成されていて、グレアムバラードような「幻こそ救い」であり「死」こそ「美しい」という感覚が、恐らくは彼女自身もわかっているはずなのに描けていません。

「死」は残酷だという固定概念ではなく、「終わってしまう世界」こそ儚く美しいという。。SFがもたらす「センスオブワンダー」がちょっと抜けてる気がします。

次回作こそSFとしても娯楽としても傑作ができることを期待しています。まだまだ伸び代がある監督だと思います。

投稿 : 2023/10/07
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7

ネタバレ

薄雪草 さんの感想・評価

★★★★★ 4.7
物語 : 4.5 作画 : 5.0 声優 : 5.0 音楽 : 5.0 キャラ : 4.0 状態:観終わった

昭和テイスト

いえ、作品の価値を蔑ろにするものではありません。
そんな悪い意味ではなく、ちょっと感じるところがあったからです。

わたしは、鑑賞から大きなインパクトを受けたので、本当のところはネタバレありで書きたいんです。

でも、ストーリーもキャラ相関も劇伴もEDも、ぜんぶ前情報なしで、劇場で感じていただきたいなと思います。

つまり、「すべてがすごく良かった」と申し上げたいんです。



一つだけ。
(もちろん、本作のストーリーには直接関わりのないことです)

作品に「神隠し」めいたシーンが演出されています。
私は、そのシーンに "横田めぐみさん" が思い浮かびました。

北朝鮮に拉致され、未だ帰国できないでいる彼女が拉致されたのは、中学1年生、わずか13歳です。

昭和52年11月15日。
あの日から、横田さんご家族の世界が一変し、時間も止まったままです。



世界を変えるのは、心の痛みが伴います。

命が存在することさえ危ぶまれる世界ならなおのこと。

だから、勇気を振り絞って、情動を昂ぶらせて、声を叫ばせて、未来に拘らなければなりません。

わたしは、国民が一つになる、ならねばならぬ痛みだと信じています。

本作に昭和テイストが感じられたのは、日本人拉致という国家を揺るがす大事件への怒りと、現状の閉塞感からだったのかもしれません。



作品と一体となるのが、中島みゆきさんのEDです。

目を閉じて、耳をそばだて、イメージの余韻に深く浸ることができるEDでした。

岡田磨里氏が思い切ってオファーし、中島みゆきさんが快諾されたという逸話付きです。
(なぜだか曲調がほんのり昭和テイスト気味に感じられたのはわたしだけ?)


また、本作は、全編にわたり、岡田氏200%の入れ込みとのこと。(さよ朝は100%だそうです)
なので、シナリオはもちろんのこと、声優さん、映像密度、陰影の表現性なども、何も言うことはありません。

ファンの方にはきっと満足できるクオリティーです。
そうでもない方には、いろいろな切り取り方やアプローチで楽しめると思います。

私は、おすすめです。

{netabare}


〜 余韻に想う 〜


戦わせるのは、母と娘とに錯綜する恋の落としどころ。
分かち合ったのは、未練を断ち切るために絞り出す愛の言霊。

求めていたのは、凍てついた時空を溶かすほどの熱いキス。
立ち向かったのは、まぼろしのままに身を伏せていく覚悟。

心の拠りどころをまぼろしの過去に求めた少女と、身の置きどころを未来へと送り出す少女の物語。

わたしはそう受け止めている。



閉塞に囲われ、虚言に支配された見伏(みふせ)の町。
曇天に覆われ、心音さえ弱まったさびれきった町。

時間は歩みを止め、空間は窓を閉ざしている。
心の痛みだけを塗りこめて。

正宗は父を失い、睦実は母を亡くした。
幼い女の子は名前もないままに、わだかまりだけが胸に取り残される。

亡失に縛られ、焦燥に取り憑かれた彼ら。
それでも、その心音は刻々と思春期に身を寄せていく。



睦実が「私には六つの罪があるから」と自嘲したことで、正宗が「お前よりも罪が一つ少ない」と言い立てた少女の名前。
それが五美(いつみ)だった。

正宗は、五美の生成りのままの幼さや、あどけない屈託のなさから、それを感じ取ったのかも知れない。

あるいは、睦実のあざとい挑発に憤りながら、同罪感に苛まれたせいなのかも知れない。

正宗と睦実の魂から欠け落ちてしまったものを、五美に見て取ったからかも知れない。

ただ一人だけ成長を続ける五美の生々しいそれを。



五美。
それは人間に備わっている五つの感性を言い表わしているように感じる。
見ること、聞くこと、嗅ぐこと、口にすること、全身を動かすことで爆発する魂の歓喜と衝動。

本音が語れない、本心を聞けない、美味しさを感じない、未来が見通せない、好きな気持ちにも触れられない。
これらの抑制された感情は、正宗と睦実の五感を否定するものだ。

この対比こそ、まぼろしの世界に蔓延った得体の知れない闇ルールの正体。
それを打ち破るのが、五美の真っ直ぐな魂に触れた正宗と睦実の恋への気づきである。

やがてそれは、五美を閉じ込めてしまった{netabare} 沙希 {/netabare}の気持ちを激しく揺さぶっていく。



沙希(五美)は、正宗と睦実を、恋に引き合わせるため、愛を高めてほしいがために、特異な仮想空間を創り出したのではないか。

時間を歪ませたのも、家族との絆を深く結びつけたかった、そのために何度でもやり直しをしたかったと捉えると、すんなりと納得できてしまう。

いいえ、本当は、正宗と睦実の本心が、そうしたかったし、そうなりたかったのかもとさえ思えてならない。

恋は、時代を勝ちぬく強さがなくてはならない。
愛は、未来を育んでいく粘りがなければならない。

その結晶が、五美を沙希として、現実へと送り出す二人の覚悟につながるのだ。
五美の名をいだいて、まぼろしの町に消えていくふたりを勇気づけるのだ。



生きていると、たまらなく嬉しいことや、逆に、どうにもならない気持ちに出くわすことがある。

沙希(五美)にとっては、盆祭りの屋台に見つけた "ハッカパイプ" がそのタイミングだった。
ここが、本作の入り口で、核心になっている。

神隠しは、あの花の "かくれんぼ" をモチーフにしているのだろう。
沙希は、心を隠し、体を隠し、現実の世界さえ隠して、自我のなかにエスケープしたのだ。

閉ざされた沙希の五感が、まぼろしの町を作り出し、からっぽの身体を成長させ、怪しげな神機狼を営ませている。
正宗と睦実に、五美を世話させ、裕子を消してでも、得たかった願いが、心の奥底に隠されてあるのだ。



本作には、母の姿が二人提示される。
ひとりは、まぼろしの世界に夫を亡くした正宗の母。
もうひとりは、現実の生活に子どもを失くした睦実である。

少年に恋した少女も提示される。
まぼろしに創り出した正宗に恋する五美。
その正宗に恋心をぶつける睦実と裕子である。

複雑に行き交う人の情念の着地点はどこなのだろう。
それは叶うことのなかった恋慕を、失恋として昇華した、ただ一人の少女の微笑みとして、終幕に見て取れる。



沙希と五美は、岡田麿里が創作した、岡田麿里その人のようにも見える。
子と親の生き方を問わずにはいられない彼女の一丁目一番地とも言えそうだ。

脚本家としての彼女のコンセプトは、歌い手としての中島みゆきに手渡される。
子どもが親にいだくセンシティブな感情は、成長するにつれて柔らかな記憶へと書き換えられる。

全ての旅の軌跡は、おぼろに色あせ、まぼろしのように昔日に霞づかせる。
しかし、まぼろしはまぼろしのままに薄れていっても、愛の心音は未来を鮮やかに色づけるのだ。

そう。
新しいスタートラインに向かい立つ者には、そのバトンが手渡されていくのだ。

時間の撚り糸は、クリエイターの意思によって束ねられ、その結びまで未知の光景を織り上げていくのだろう。

先人から引き継がれたDNAを温めながら、色なす未来への航路を見つけ、それを体現していく二人の女傑を思うと、たまらなくわたしは嬉しくなるのです。

(敬称は省略させていただきました)。
{/netabare}

投稿 : 2023/10/05
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18

ネタバレ

Tenjin さんの感想・評価

★★★★☆ 3.9
物語 : 4.0 作画 : 5.0 声優 : 3.5 音楽 : 3.5 キャラ : 3.5 状態:観終わった

世界観の説明が足らない

岡田さんがメインスタッフの作品は見たことがなくて、この映画の予備知識も入れずに見た。

思ったよりは見られたというか、苦手な部分はあまりなかった。単なる青春物語かと思ってたら、オカルト?要素が入ってきたのはちょっと驚いたが。

そのオカルト要素の説明がほとんどないのが分からなさの原因かな。一応、物語としては永遠に変わらない世界という問題も解決するし、主役二人の恋愛も収まるところに収まってめでたしめでたしではあるが、結局、しんきろうは何だったのかとかヒビは何だったのか、というあたりが解明されないままなので、スッキリしないところは残る。

キャラクターは全員役どころがはっきりしていて過不足ない使い方ができている。ボケてたおじいさんが電車を運転したりとか。千波くんと園部さんはぱっとしない見かけから予想される案の定な消され方で気の毒だけど。

ヒロインの睦美さんは情緒不安定すぎてそんなに好きになれなかった。いかにも女の子らしいとも言えるが。主人公の正宗くんは少しひねたところのある思春期少年という感じで割と普通のキャラかな。

個人的には佐上のお父さんが完全にピエロだけど好きかも。間違った認識で突っ走ってしまったけど、悪意はなさそうだし。

作品のテーマを考えるなら、生きることは色んな感情や出会いを経験することであり、それは時には痛みを伴うものでもあるけど、前に進もうという感じだと思うけど、それが何かと恋愛方面に帰結しがちなのが多少引っかかるところではある。そこにばかり焦点が当たるとスケールが小さな話になってしまうような気がして。まあ、若い人たちが中心の話だし、個人の好みなのかもしれないが。

投稿 : 2023/10/03
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3

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ゆん♪ さんの感想・評価

★★★★☆ 3.1
物語 : 3.0 作画 : 3.5 声優 : 3.0 音楽 : 3.0 キャラ : 3.0 状態:観終わった

廃工場のラストシーンが好き。

MAPPAさん、さすがの背景シーン。
工場群の描写は素敵でした。特にラストエンドロールの光が刻々と移って影が変化していくシーンが好き(いきなりラストから…^^;)

っていうか、冒頭工場の爆発シーンから、時間が止まった町の設定で、あ~この町の住人は死んじゃったのかなぁって思ったんだけど、いつみちゃんが出てきてむつみとそっくりとか言ったあたりから、もしやこの子はこの二人の…


キャラもみんな可愛かったんだけど、正宗のお父さんとおじさんが見分けつかなくて「あれ?父…?おじ?」ってなった(寝てたのかもw)

DJに憧れて焼失した少年が実は冒頭からずっと流れてるラジオのDJの人だったらいいなぁって思いました。

いつみが二人の子供ならこれは並行世界(平行?)の話なんだろうなぁ。


雰囲気映画…だったかもしれない。

もう一回観たらまた違う感想になるかな~。1回観て「?」の部分の答え合わせができるだろうから。

情報処理の追いつかない脳が辛い(><;)

投稿 : 2023/10/03
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7

ネタバレ

てとてと さんの感想・評価

★★★★★ 4.4
物語 : 4.5 作画 : 4.5 声優 : 4.5 音楽 : 4.5 キャラ : 4.0 状態:観終わった

未来が無くても愛は尊し、これぞセカイ系の神髄。マリー節濃厚な割には割と爽やかなラブコメだった

「さよならの朝に約束の花をかざろう」に続く、岡田麿里監督の二作目の劇場作品。
時間が停滞してる?閉鎖空間?の鉄工所都市を舞台に、閉塞感や情動抱えた主人公ヒロインのセカイ系ラブロマンスな感じ。

【良い点】
世界観が面白い。
過去作だと「ゼーガペイン」とか「グリッドマン」彷彿とするが、主人公たち以外の街の住人全員がセカイの仕組み理解しているケースは珍しい。
寂れた鉄工城下町の(多分)昭和~平成初期ぽい?郷愁と相まって、時が停滞している世界観に引き込まれた。
また、この世界観を出し惜しみすることなく、序盤から家族との会話劇などで丁寧に視聴者に開示、セカイの秘密に過度にのめり込むよりも、少年少女のドラマに注力していた。
この手の過去作と比較して、良くも悪くもドラマ重視。
次第に明かされるセカイの真相や、綻び破滅が近付いていく予感を丁寧に描写、ドラマを飽きさせなかった。

寂れた時の停滞した街を舞台に、中学生の行き場の無い鬱憤…からの、面倒くさそうでいて結構素直なラブコメが良かった。
ヒロインはかなりマリー節の効いた拗らせ女子な割に結構可愛く見える、これは世界観をドラマの舞台と割り切った作劇と、三角関係の一方の軸が幼女で対抗軸になっていない故に、ドロドロしそうでいて意外とドロドロを回避していた。
次第に明かされるセカイの真相を追う過程で、逃れられぬ儚い関係性と結末が提示されている故に、ドロドロするよりもセカイ系の真骨頂な美しいラブロマンスに昇華したのが上手い。
破滅が不可避な状況でなお強い絆で結ばれる少年少女、これぞセカイ系ラブコメの真骨頂。
ラスト、主人公ヒロインがどうなったかの過程は開示されないが、現実世界で成長した娘ちゃんが鉄工所跡を訪れるシーンの繊細な機微から、多くを語らずとも美しい物語だった良き余韻残した。

ヒロインが(実は実の娘?)に対して恋敵として容赦しない姿勢は流石はマリー作品。
娘ちゃんを現実世界に送り出すシーンでの「未来はあなたのもの、けれど彼は私が貰うッ!」はゾクゾクした。
マリー節炸裂の名場面だけど、セカイ系純愛ドラマとして美しい故に、ドロドロも綺麗に思える不思議。
例えセカイが滅びても愛は勝つ!これぞセカイ系ラブコメの神髄であり、本作は見事にそれを体現していた。

本作のテーマは複数あり、「ツァラトゥストラはかく語りき」をモチーフに宮崎駿作品「君たちはどう生きるか」以上にどう生きるかを問うて見せたり、
たとえ滅びが不可避でも生きるんだ的な意志も素晴らしい。
主人公ヒロインの選択は「放課後のプレアデス」の謎の少年や、近年だと「サニーボーイ」も少し彷彿、未来の有無に関わらず、選択する意志の尊さ感じる。

マリー作品の割に不快なキャラが少ない点も良い。
親との関係がそこそこ良好だったり(けど母娘の緊張感はやはり凄まじいが)ちゃんと愛はあるのでかなりマシな方。
何気にカルト教祖?も面白いキャラで憎めなかった。
悪役ではあるがセカイの仕組みを鑑みて維持を目指した男、主人公の父が「あいつが正しかった」と認めた通りだったり、主人公父との拗れた友情ドラマも良かった。
周囲のキャラが特異な世界観で精一杯生きる生き様を見せており、彼らの存在もセカイの魅力に貢献していた。

作画は寂れた工業都市と時間停滞したセカイの不気味さが伝わる良作画。
声優陣は久野美咲氏は流石のプロ幼女、上田麗奈氏のマリー節との相性の良さ。
他には教祖役の佐藤せつじ氏も良かった。ガノタ的にはターンAのジョセフしか知らないけれど、大塚芳忠氏を彷彿とさせた。

主題歌が中島みゆきソングで素晴らしい良曲。
きちんと作品の主題を表現して心に響く。主題歌はかくあるべし。

【悪い点】
セカイ系ロマンスが良かった一方、もう一方のどう生きるか方向での作劇がやや浅かった。
停滞を望まず変化する者は消滅する(エンジェルビーツの成仏を彷彿)、主人公も未来が無いセカイに絶望しながら成長ドラマとこれは良かったが、
そこからセカイ系ロマンスに持っていくのが矛盾を少し感じる。
丁寧に見ると心情の変化はちゃんと描かれているんだけど、背反するテーマを欲張り過ぎた感も。
尺不足なので、できればセカイ系ラブロマンスに絞ってほしかった。

主人公と娘ちゃんの交流とロマンスが今一つ。
感情表現が未熟な野生児的幼女では、三角ラブコメの一方の軸にはなりづらなった。
そこは過度にドロドロしない良い点でもある。

【総合評価】9~8点
マリー節でセカイ系をやればこうなると見せてくれた。完成度も高い。
賛否ありそうだけど自分は大好き、前作母子物よりも好みだった。
自分はセカイ系全般が大好きなので。
評価は「とても良い」

奇しくも同年の「君たちはどう生きるか」と重なる要素が多いけれど、本作の方がドラマやテーマが分かり易かった。

投稿 : 2023/09/28
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6

ネタバレ

さんの感想・評価

★★★★☆ 3.8
物語 : 4.0 作画 : 4.0 声優 : 4.0 音楽 : 3.0 キャラ : 4.0 状態:観終わった

私は現実を知りすぎてしまった

不気味の谷と呼ばれる現象がある。
人型のものが実写に近づいていくとある一点で好感度が極端に下がる現象なのだが、今回私がこの映画を見て感じたことの一つにその現象が絡んでいたのではないかと思う。
私が岡田麿里さんを知ったのはあの花のころだったと思うが、性に対する感情の発露の仕方が他に例を見なかったし、勢いのある展開にのめり込んだのだ。
あの花は今でも名作だと思っているが、あの花に引かれたのは、秩父が舞台だったことも起因していた。
秩父近隣に住む私にはそれなりに身近な場所であったため、親近感を感じずにはいられなかった。
あの花の聖地めぐりもしたし(といっても再確認の意味合いが強い場所ばかりだった)、秩父で行われた劇場イベントにも行った。
それから時は立ってちちてつ民から西武鉄道民へとジョブチェンジした私は、山登りが趣味の一つとなり方、奥多摩や秩父、丹沢を中心に各所を回るようになった。
それがここ数年アニメ視聴に影響を及ぼすようになっている。
日本とりわけ関東が舞台のものに対し、生で見た風景がちらつくようになったのだ。それを上手く昇華している作品ならばよいのだが、この作品においては完全に悪手となっていた。
生半可に知っている舞台・知識のために、解像度の高い描写が仇となり、物語どうこうの前に舞台の裏にあるものがちらついてしまう。
このアニメの評価は賛否あるようだが、おそらく私は視聴者にもなれていないと思う。かと言って関係者でもないのがもどかしい立ち位置だ。
感想を書いていてふと作中にも同じような描写があったなと思ったのだが、
{netabare}主人公がヒロインに対して寄せていた印象もまた似たようなものなのかもしれない。{/netabare}
このアニメの根幹はある種ユアストーリーと共通しているように思った。それが良いとか悪いとかでは無いが、私がアニメに対して求めているのは現実との共通点を見つける事では無く、知らない世界を見せてくれるファンタジーなのだと再認識する事となった。

投稿 : 2023/09/28
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9

ネタバレ

ひろたん さんの感想・評価

★★★★★ 4.3
物語 : 4.5 作画 : 5.0 声優 : 4.0 音楽 : 4.0 キャラ : 4.0 状態:観終わった

「メメント・モリ」+「ツァラトゥストラは如く語りき」

写実絵画がそのまま動いたような映像美は圧巻でした。
ファンタジー世界をとことん現実的に描いています。
それによって、今、見せられているのは、やはり現実なのではないか?
そう言う、なんとも言えない錯覚を覚えさせられました。
実は、これがとても重要な要素であることを物語の途中で気づくことになります。

ここから先は、ネタバレです。
まぁ、いつも通り作品を好き勝手に解釈しているだけなんですけどね・・・。


■『君たちはどう生きるか』
{netabare}
この作品と同時期に上映されている宮崎駿監督作品です。
どちらもこの世とあの世の狭間の世界を舞台に「生きる」ことについて描く作品です。
同じ年に同じテーマの作品が重なることってありますよね。
この2つの作品もそんな印象を受けました。
似ている、似ていないと言う問題ではありません。
私は、同時期に偶然にもテーマが重なると言うこと自体が面白いなと思うのです。
恐らく時代がこう言うテーマを欲しているのでは?と感じたりします。
シンクロニシティ(意味のある偶然の一致)と言うやつですね。
{/netabare}

■「生きる」と言うこと
{netabare}
もちろん、ただ心臓が動いていると言うことではありませんよね、人間の場合は。

そもそも「生きる」と言うことは、死ぬことが分かって初めて実感できるものです。
しかし、普通の人は、大きな病気、身近な人の死、大災害に直面しない限り、
なかなか死について考えることはしないのではないでしょうか?
それは、死は、一番身近な出来事のはずなのに、自分からは一番遠いと思うからです。
そもそも「死ぬ」体験なんてできませんし、その体験談を聞く機会もありません。
ですので、その逆の「生きる」ことについても漠然としていると言うことです。
つまり、「生きる」こと自体は当たり前のことすぎてよく分からないのです。

特にこの作品の登場人物のように子供なら、自分が死ぬことすら考えもしません。
正直な話、子供の頃に祖父母が亡くなった時に死を自分事のように考えたでしょうか?
確かに会えなくなったことに対してはとても悲しい思い出はあります。
しかし、自分が死ぬことを自分事のように考えたことはなかったと思います。
そんな子供に死を実感させ、だからこそ、今、どう生きるべきかを考えてもらいたい。
そのような時に、この世とあの世の狭間と言う世界観が丁度よいのではと思うのです。
なぜなら死後の世界を描いても、それはただの異世界転生です。
そこには実感はなく、「今を生きる」ことにつながってきませんから。
{/netabare}

■「メメント・モリ」
{netabare}
「死ぬ」ことを実感し、そのうえで「いかに生きるか」について考えたいと思います。
その時、ラテン語の「メメント・モリ」と言う言葉が思い浮かびます。
この言葉は、「自分がいつか必ず死ぬことを忘れるな」と言う意味です。
本来の意味は、だからこそ「今を楽しめ」と言うことなのだそうです。

しかし、その後、キリスト教により違った意味になったそうです。
それは、現世での楽しみは空虚でむなしいものであると・・・。

この作品は、逆にこの言葉の本来の意味を取り戻す物語になっていました。
それは、この後の「ツァラトゥストラは如く語りき」で考えてみたいと思います。

ちなみに、「メメント・モリ」と言う言葉の具体的な例としては、
スティーブ・ジョブズのスタンフォード大学でのスピーチが有名です。
気になった方は、ぜひチェックを。考えさせられます・・・。
{/netabare}

■「死ぬ」と言うこと
{netabare}
もちろん、ただ心臓が止まったことを言うことではありませんよね、人間の場合は。

人間にとっての「死」とは、「心が死んだ」ときのことも言います。
なぜなら、それは、「生きる」ことをあきらめた時だからです。
だから死んでいるのです。

もちろん生きている場合、つらくて悲しいことなんて、いっぱいあります。
でも、そんな心に入った「ひび」を放っておくとどんどん広がっていきます。
そして、やがては、本当に心が壊れてしまいます。
それは、生きていても、死んでいるのと同じです。
そうなる前に自分で心の「ひび」を修復しなければなりません。

しかし、一度、入った「ひび」は、修復はできても完全に直るわけではありません。
どんどんもろくなっていき、いずれ完全に壊れてしまうかもしれません。
しかし、それでも「ひび」を修復し続ける努力をしないといけないのです。
そんな努力をすることが「生きる」ことなのです。

この物語では、空にできた「ひび割れ」がそれを表現していました。
そして、その「ひび」がこの物語に登場する人々の「心」の状態を表していました。
{/netabare}

■「ツァラトゥストラは如く語りき」
{netabare}
今回の舞台は、製鉄所の事故により閉ざされてしまった地区です。
そして、同じ季節が繰り返す「永劫回帰」の世界です。
そこで人々は、「神」にすがって生きていました。
空にできた「ひび割れ」は、世界崩壊の原因になると信じていました。
それを「神」が直してくれるのだそうです。
そして、いずれもとの生活に戻るためには、「神」の救済が必要だと考えていました。
また、そのためには、自分たちは「変わる」ことはいけないことだと思っていました。
まるで人々は、それを「運命」だから仕方ないと受け入れているようです。
つまり、そう言った「固定概念」で縛られている人々の物語でした。

しかし、最後は、「ひび割れ」を直す「神」は止まってしまったのです。
そこで、人々は、ようやく、自分たちは「変わる」ことを選びました。
「神」に救済を求めるのではなく、自分たちでこの状況をなんとかしようと考えたのです。
つまり、自分たちの思いで「生きる」ことにしたのです。

実は、この物語は、ニーチェの「ツァラトゥストラは如く語りき」をなぞっています。

「永劫回帰」の世界で、「神」と言う「固定概念」にしばられて、
「いかに生きるべきか」と言う視点が固定されている人々に対して、
発想の転換を迫ったのがニーチェです。
最後は、「神は死んだ」とし、
自分たちが置かれた状況をそのまま受け入れるのではなく、
「自分たちで考え行動せよ」、それが「生きる」ことだと説きました。

これが、「ツァラトゥストラは如く語りき」です。
この物語の根幹は、そのままのように感じます。

ちなみに、ニーチェの言う「神」とはキリスト教のことです。
ニーチェは、結果的にキリスト教を否定したことになります。
これにより、キリスト教によって意味がずれてしまった「メメント・モリ」が、
その本来の意味を取り戻す結果につながることになりました。
なお、この物語は日本のお話なので、「神」はキリスト教ではなく架空のものです。
{/netabare}

■「生きる」ことについて岡田麿里さんらしい脚本で描く
{netabare}
この物語では、「いかに生きるか」を岡田さんらしい脚本で描こうとしていました。

それは、大きく2つありました。

1つ目は、「生き方」について描いています。

この地区の大人たちは、自分たちの置かれた境遇がどんなことであっても、
つまり、自分たちは消滅する「運命」であり、死ぬ「運命」だったとしても、
「神」にすがるのではなく、
自分たちの手でそれを少しでも先延ばしできるように努力します。

この物語で「神」と崇められていたものは、製鉄所の溶鉱炉でした。
物語では、それを「神機」と呼んでいました。
この神機が、空にできた「ひび割れ」を直していたのです。
今までは、その神機、つまり、溶鉱炉は、「神」の意志で自動的に動いていました。
そして、自分たちは、それをただ見ているだけだと言っていました。

しかし、その「神機」が動かなくなったのです。
つまり、「神は死んだ」と言う解釈です。
でも、このままだと「ひび割れ」が広がり、人々は、破滅してしまいます。
この時初めて、このままだと自分たちは死んでしまうと言うことに気づきました。
そこで、自分たちの手で、溶鉱炉を動かし、より長く生きられるようにしました。

死は避けられません。
しかし、その「神」が決めた「運命」に少しでも抗う決断を人々はしたのです。
終わりが決まっている人生を自分の意志でどう生きるか。
死ぬときに、どう生きてきたかと言えるような、そんな人生。
これこそ、「いかに生きるか」と言うことだったのではと思うのです。


2つ目は、人間の根源的な「生きる」意味である「愛」について描いています。

主人公の思春期の子供たちについては、恋愛にからめて物語を構築していました。
このあたりは、岡田さんの脚本の真骨頂です。

「人を好きなること」。
単純なことなのですが、でも、それを否定せず、その気持ちに、今、素直に従うこと。
それは、「今を生きる」ことに他なりません。
どうせ死ぬのなら人を好きになる意味はないのでは?
違います。
死ぬまで一緒にいたいと思うほど人を好きになることなのです。
それこそ、短い人生を「いかに生きるか」と言うことです。

それに、人を好きになると、そんな短い人生も楽しくなります。
これが、「メメント・モリ」の「今を楽しめ」にも通じてきます。
「人生」とは、「今」の連続であることを忘れてはいけないのです。

この物語では、主人公の男の子と二人のヒロインが登場します。
つまり、三角関係です。
岡田さんの脚本って感じですよね。

この二人のヒロインには、別々の役割を持たせています。
当然、三角関係なので一人の恋は成就し、一人は失恋します。

前者は、もともと主人公のことが好きなのに「運命」を悲観し、素直になれません。
しかし、自分に素直になり、主人公に「好き」と言うことができました。
心の「ひび割れ」がふさがれたのです。
そして、この後どんな運命が待っていようとも「生きる」ことの喜びを得たのです。
また、その「愛」の結晶として二人の子供も描かれていました。
命を次の世代に紡いでいくこともまた「生きる」と言うことなのです。
このあたりは、前作「さよ朝」でも色濃く出ていました。

一方、後者は、結果的に失恋することにより、心に「ひび」が入ります。
これがこの物語のクライマックスへの引き金となります。
しかし、結果的には、その失恋を乗り越え、心の「ひび割れ」はふさがれます。
そして、最後は、この恋愛の舞台となった、製鉄所(工場)に訪れます。
そこは、廃墟でした。
しかし、そこで、人々が生き、自分たちは恋愛したと言う証拠を見つけます。
人は、「生きる」ことによって、確かにそこに「生きた証」は残るのです。
それは「まぼろし」では、なかったのです。

このシーンは、ぱっと見は、廃工場をただ訪れるシーンでしかありません。
しかし、そこに廃工場が残っている理由を考えると脚本の緻密さが見えてくるのです。
なかなかだなと感心せざるを得ません。
{/netabare}

■まとめ

今回の作画は、とことん写実的でした。
この世ではありませんが、この世と見紛うほどの現実感があるこの物語の世界は、
「死」は、紙一重だと否応なしに実感させられます。
この作品は、このことを表現するために作画に一切の妥協はありませんでした。
さすがとしか言いようがありません。

物語のテーマは、「ツァラトゥストラは如く語りき」そのものです。
「神」を否定し、「いかに生きるか」を追求したことにより、
結果的に「メメント・モリ」の本来の意味を取り戻す物語が完成したのです。

では、その「いかに生きるか」とは、具体的には、どう言うことでしょうか?
説明がとても難しい問題です。
しかし、そこを岡田さんらしい脚本で、具体的に描いてみせたのがこの作品です。

その脚本とは、つまり、思春期の「恋心」を題材にしたことです。
この「恋心」と言う「心」は、諸刃の剣です。
壊れやすい、それこそ、心に「ひび」が入りやすいものです。
しかし、その反面、後先考えず突っ走れる部分もあり、ある意味最強の「心」です。
この物語では、思春期の子供たちがこの「恋心」と言う武器を手にとりました。
そして、どうにもできないと思っていた「運命」に、最後は、抗ったのです。
「運命」に抗う物語は、岡田さんの過去作品にも通ずるところがありますよね。

この作品は、ところどころ解釈が少し難しい部分がありました。
しかし、その1つ1つの要素を線でつないでいくと大きなテーマが見えてくるんです。
岡田さんの脚本って実は"隙"がまったく無いんですよね。
物語のすべての要素に必ず意味があって、そのすべてがつながっているんです。

岡田さんの脚本は、ファンタジーの形態をとっていますがきわめてドラマ的です。
ですので、最後にSFチックなド派手な終わり方はしません。
どちらかと言うと、地に足が付いたとても等身大な感じがする終わり方です。
それは、悪く言えば人間臭い、良く言えば人間味があるって感じでしょうか。
ですので、スカッと忘れられる作品ではなく、なんだか「もや」っと残ります。
でも、その「もや」は、決して悪いものではありません。
なぜなら、自分の中に何か残って、何かを考え続けている証拠なのだと思うからです。
ただ、このあたり、岡田さんの脚本の好き嫌いがわかれるところかもとも思いました。

今回、私は、この作品については、いろいろ考えながら観ることができました。
とても有意義な時間を過ごすことができたのでとても良かったと思います。

投稿 : 2023/09/22
閲覧 : 179
サンキュー:

21

フェイルン さんの感想・評価

★★★★★ 4.2
物語 : 4.0 作画 : 5.0 声優 : 4.0 音楽 : 4.0 キャラ : 4.0 状態:観終わった

アリスとテレスの意味

初見だとファンタジーな世界設定と現実との相関関係がやや難解で全ては理解しきれず。

少年少女の青春期にありそうな閉塞的でネガティブ気味な心理描写と恋愛描写を繊細に表現しているあたりに岡田麿里作品特有の物を感じ取れた。

世界観としては、スマホが見当たらず、田舎で取り残された閉鎖空間や廃墟に何処となく昭和末期あたりか平成初期あたりのレトロな美しさを感じた。
テーマは生きることやら恋愛に取れるが、他にもいわゆるセカイ系を意識した感じにも取れるので、本作で本来魅せたいテーマがごっちゃになっていて勿体ない。

なかなか万人に薦めにくい作品ではあるが、岡田麿里脚本作品だと、「あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。」や「空の青さを知る人よ」がやや本作に近い部分もある。その他、岡田麿里が脚本などで関わった作品が好きならば観る事をお薦めしたい。

あと、なんでタイトルが「アリスとテレス」かは、パンフレット内の岡田麿里のインタビューに書かれてますが、哲学者のアリストテレスに合わせてテーマについて哲学的に考えたいという思いから残しているのだとか。深く考察するほどの大きな意味は無いみたい。

投稿 : 2023/09/18
閲覧 : 128
サンキュー:

8

双真 さんの感想・評価

★★★★☆ 3.1
物語 : 2.5 作画 : 4.0 声優 : 3.0 音楽 : 3.5 キャラ : 2.5 状態:観終わった

★★★☆☆☆

おもしろくなかった。

一週間経てば内容を忘れそう・・・

投稿 : 2023/09/18
閲覧 : 76
サンキュー:

2

lumy さんの感想・評価

★★★★☆ 3.8
物語 : 4.0 作画 : 4.0 声優 : 4.0 音楽 : 3.5 キャラ : 3.5 状態:観終わった

ブラックな岡田磨里(濃厚)

原作小説は未読です。
岡田磨里作品はそれなりに見ていて、
一番高評価なのは、さよ朝の☆4.2でした。

さて、またすごいものをぶっこんできましたねw
これは評価が恐ろしく分かれる作品です。

テイストは、さよ朝やあの花みたいにホワイト(分かりやすい)
作風じゃなくて、凪のあすからやオルフェンズみたいに
ブラック(ドロドロ)の作風です。

なので、アニメを普通に見る程度の層には、
全く響かないでしょう。
さよ朝のレビューでも書いたのですが、ホワイトな磨里作品に
なるためには、P.A.WORKSやA-1Picturesみたいな大衆向けの
制作会社が必要です。

しかし、今回はMAPPAなので、ホワイトは期待できません。
むしろ、ゴリゴリのブラックですw

視聴中は、それはもうジェットコースターのようでした。
常に状況把握する感じです。
すずめの戸締りも近い感覚がありましたが、
こちらの方がさらに情報量が多く、
視聴の体感時間はあっという間でした。

でも、なんかところどころに印象に残るんですよね。
「ん?ちょっと待て、今どうなってる?」
「でも、すごい映像、演出、演技だ・・・」
みたいな感じですねw

SF的な設定はしっくりこないところもありますが、
そこはあまり考えない方がいいような気がしました。
こうして時間を置いて落ち着くと、
本作のヒロインはかなり(いろんな意味で)可愛いかもしれません。

しかしまあ、作品の印象の大部分は、
久野さんの演技に持っていかれましたね。
確かにあの役は、久野さんしかできない。
他の作品の演技もすごいですが、
本作の演技はずば抜けてると思います。

さて、ホワイトな磨里作品の筆頭である
幸腹グラフティでも見て、お口直しでもするか・・・w

投稿 : 2023/09/18
閲覧 : 230
サンキュー:

18

ネタバレ

タック二階堂 さんの感想・評価

★★★★★ 4.2
物語 : 3.5 作画 : 5.0 声優 : 4.5 音楽 : 4.0 キャラ : 4.0 状態:観終わった

欲張ったり!岡田マリー!

詳細は公式サイトでも見てください。

監督・脚本:岡田マリー。制作:MAPPAという超強力布陣で制作された劇場版オリジナル作品です。

いちおう本レビュー全体にネタバレ隠しをしていますが、念のために以下も隠します。未見の方は開かぬように。
{netabare}
と言いつつ、本編をボカしながら語りますね。

さすがの岡田マリーでも、タイムパラドックスを描くと無理が生じるんだなというのが観覧後の印象。

えっと、製鉄所の爆発事故で町の住民全員が死んだんですかこれ?
そんな災害級の事故じゃなかったっすよね?

でだ。みんな死んだ廃墟の町が、まぼろしとなって時間が止まった世界になったという解釈で合ってるんでしょうか? そんな死者の世界に、生者である主人公の娘・五実が幼少期に神隠しで迷い込み、ある程度、大人になったところで主人公たちの○十年後の世界へと戻されると。

いやいや、主人公と睦実、死んでないじゃん。

これを、あるアニメYouTuberは「爆発事故のとき、現実世界からコピーされたまぼろしの世界」と言及しました。まあ、パラレルワールドという話にしないと成立しないわけですけども。

で、だ。
ま、要するに五実は両親(主人公と睦実)の待つ現実世界へと戻るからこそ、貨物列車でトンネルに突っ込む睦実との別れのシーンが、まったく涙も感動もないわけ。それどころか、なんで五実は帰りたがらないの?という感想まである。

まあ、それは五実が主人公に恋をしてしまったから、という解釈であり、それに気づいた睦実が帰らせるために「主人公が死ぬ瞬間に思い出すのは私であり、あなたじゃない。主人公もそうだ」という、残酷な岡田マリー節となるわけなんですが…

「君の名は。」のようなタイムパラドクス要素の起点が、すべて恋愛という岡田マリー脚本らしい面があり、しかも神事といった要素も含んだり、追ってから逃げるといったカーチェイスありと、ずいぶんとまあ岡田マリーは欲張りましたね。

でも、それがことごとく消化不良。

なんだろう。どうしてもテーストが新海誠に影響を受けていると言わざるを得ないんですよね。んで、岡田マリーさんがお好きな「幽霊」的な話。「あの花」も「ここさけ」もそうでしたもんね。

睦実の義理の親である神主、非常に浮いてました。もっと、なんというか「エヴァ」のゲンドウみたいなキャラにして、陰謀渦巻く感じにしたほうが良かった気がしますね。なんか、ギャグ要員なんだもん、あれでは。

主人公の叔父。序盤からずっと主人公の理解者であり、このまま主人公たちの計画を手助けするもんだと思ったら、主人公の母親に恋慕し、この世界を守るために神機狼を復活させるように動きます。キャラの方向性が変わりすぎでしょ。

とまあ、期待が大きかっただけにハードルを超えるどころか、下をくぐってしまったという評価です。それもこれも、岡田マリーがやりたいことが強すぎて、詰め込みすぎた感じを受けました。そのくせ、なんだろう、脚本家としての顕示欲がでたのか、見せ場のシーンが冗長。何度か、眠くなるほど長々とまあ、やってんなぁというシーンがありましたね。キスシーンとかね。
{/netabare}

MAPPAの作画は素晴らしいの一言。ぶっちゃけ、新海作品と遜色ないレベルでした。駄作とまでは言いませんが、決して名作とは言えないかなぁ…

投稿 : 2023/09/17
閲覧 : 93
サンキュー:

4

シボ さんの感想・評価

★★★★★ 4.7
物語 : 4.5 作画 : 5.0 声優 : 5.0 音楽 : 4.5 キャラ : 4.5 状態:観終わった

むき出しの叫び声が心を揺さぶります。

公開二日目に中学生の娘と劇場に足を運びました。

岡田麿里作品ってことで期待高めでの視聴でしたけど、
キャラのむき出しの感情がぶつかる様に圧倒されました。

序盤、この不思議な世界での物語がいまいち理解しづらいって
所はありますけど、なんか抑圧された世界、感情が爆発したように
展開していく中盤以降は心が何度となく揺さぶられました。

やや距離間、生々しさが好き嫌いはあるかと思いますけど
等身大な若者たちは思春期爆発のキャラに感情移入出来るでしょうし
自分のような親世代も色々な方面から迫るものがあると思います。

なんかネタバレしちゃいそうなので、この辺で。

音楽は
EDの中島みゆき「心音」が、この独特な世界観の余韻に
たっぷりと浸らせてくれました。
「未来へ~~ 未来へ~~ 未来へ~~~
君だけで行け~~♪」
聴きごたえありすぎる歌声が頭の中をループしつつ
娘と終わった後しばらく席を立つことなくまったりとした
時間を過ごさせてもらいました。

台本に感銘を受けて丁寧に作り上げられたその楽曲、歌詞に
改めて中島みゆきって凄いんだな~って思いました。

面白かったら買おうと思ってたパンプレット。
・・もちろん買いました!
五実役は久野美咲さんにあて書きされたって話には、あのどうして
良いか分からない全身での叫びが印象的だったので納得でした。
綺麗にまとめられた冊子は
全体的に美しくて芸術的な作画カット満載で満足度高いです。

公開2日目にしては思った以上に劇場は空いてました。
岡田麿里監督(自分もここ数年で知ったニワカです)
とは言っても
ジブリや新海監督のようなメジャーではなく地味目な作品って
位置付けってこともあるのでしょうからしょうがないのかも
しれませんね。
ただ自分的には改めて岡田麿里好きだなって思えたし
満足度の高い作品でした。

投稿 : 2023/09/17
閲覧 : 489
サンキュー:

20

ネタバレ

けいP さんの感想・評価

★★★★★ 4.1
物語 : 3.5 作画 : 4.0 声優 : 4.0 音楽 : 4.0 キャラ : 5.0 状態:観終わった

もしサザエさんに出てくるキャラが年を取らない事に疑問を感じたら?

分かりにくい部分もあったけど何か印象に残る作品ですね。

例えるなら年を取らないサザエさんの世界にカツオと花沢さんの子供が紛れ込んできた。みたいな?

投稿 : 2023/09/17
閲覧 : 87
サンキュー:

9

ドウ さんの感想・評価

★★★★★ 4.1
物語 : 4.5 作画 : 4.0 声優 : 4.0 音楽 : 4.0 キャラ : 4.0 状態:観終わった

エンドロール中に思った、岡田麿里さんは最高だ。

自分が「特に」敬愛するアニメ映画作品の監督は原恵一さんなど何名かいるのですが、岡田麿里さんも入りそうです。
「入り“そう”」な理由は、まだアニメ映画監督というポジションに付いて期間も作品数も多いという訳ではない為ですが。
本作を観た後そんな事も思いながら、高揚感が湧きました。

同監督作品の映画『さよならの朝に約束の花をかざろう』も自分としては大満足でしたし。
監督以外も含め携わった作品を見れば、『おとぎストーリー天使のしっぽ』や『あの花』などかなりの部分で自分好みでした。
自分の趣味趣向や感性に合いやすいのかも分からないですが、本当に素晴らしい作品を生み出してくれる、大好きなクリエイターとなっております。

さて本作は、あまり子供向けという感じの作風ではないとは思いますが、たぶん年齢層的には中学生より先ぐらいから楽しめてくる内容なのかなと。
痛快というよりは人の感情が錯綜する感じですね。
あと視聴する際は、冒頭から前情報なしで観た方がオススメかもしれません。


意思が未来を繋ぐ、、
それは脈々と紡がれ確かにどこかにあった宝物。
・・・醜さや汚さが蔓延る世の中でも、その輝きを本作を観て再発見出来ました。
前向きで素晴らしく、幻想的で優しく愛おしい作品をありがとうございます。


ちなみに自分はイラスト系の物を色々収集する趣味が軽めにあるのですが、グッズで購入したポストカードのイラストはなかなかに俺得でした。

投稿 : 2023/09/16
閲覧 : 101
サンキュー:

13

ネタバレ

テナ さんの感想・評価

★★★★☆ 3.4
物語 : 3.5 作画 : 4.0 声優 : 3.0 音楽 : 3.0 キャラ : 3.5 状態:観終わった

隔離世界

この作品で最初に思ったのは「ゆゆゆ」の様な隔離世界が舞台の様だなぁ〜って感じてましたが、もっと似てるのは「SUNNY BOY」が近いかも?しれません。

そこは神により隔離された世界で何かをきっかけに空がヒビ割れます。
その先の世界にあるのは「現実」でそれを修復する為に工場が存在し工場が出す煙「神機狼」
狼の顔をした煙です。

その世界は現実世界から切り離された世界で現実世界と繋がると幻想世界が消滅してしまいます。
そして、そこに住む時間の人達も。

この閉ざされた時間の中では人が死ぬ事なければ産まれる事も無い世界でもあります。
時間は進みますが季節は永遠にその季節(冬)のまま。
イメージとしては現実世界の全ての時間の中で1部の時間を切り取りその時間と人々をコピーして永遠にその時間を繰り返すと言う方がイメージしやすいでしょうか?

勿論、隔離世界の彼らはコピーみたいなものなので現実世界の自分は何も知らずに生きているしその彼らは現実世界の時間を成長して暮らしてます。
作中では隔離世界の人々は幻と呼んでたかな?

で、この世界にはルールがあり。
変化すると消されてしまいます。
世界維持の為なのですが、神機狼が消しに来ます。

恋愛を失礼して傷を負った裕子
DJになりたいと夢を持った仙波

彼ら彼女らは消されてしまいました。
この世界は、1部の時間を切り取った世界でしかありません。
現実世界で、その時間に変化しなかった事を隔離世界で変化すれば消されてしまう。

人は生きていると、恋を実らせます、失恋もします。
夢を持つ事もあります。
けど、それを許してくれないのが隔離世界です。
だから、この世界には自分を確認する為の書類があります。
自分の考え方や好みが変わっていないかを調べる為に……消されないように。

窮屈な世界ですよね。

で、その隔離世界に数年前に迷い込んできた女の子、五実。
彼女は神の子として工場に監禁されていました。
その世話を任されたのがヒロインの睦美です。
そして、睦美により巻き込まれたのが主人公、政宗

この作品はラストが面白いです。
実は現実世界では政宗と睦美は結婚していて、その娘が五実でした。

しかし、隔離世界は不安定になり崩壊の危機を迎えていました。
五実が世界に残れば彼女が巻き込まれる事になる。
だから、政宗は彼女を現実世界に送り返す事を決意する。
五実は嫌がります。
それでも彼は彼女を帰すと言います

嫌がる五実を無理に帰す必要はあるのか……
私は凄くこの話を見て心が痛くなったのは現実世界の政宗と睦美を見た時でした。

盆祭りで欲しい商品を買って欲しいとグズる五実にダメだと言う母(睦美)は店の前から動かない娘を放置する事にします。
けど、実際は隣の屋台に隠れて様子を伺うつもりだったのですが……目を離した隙に、五実は神隠しで隔離世界へ……

父(政宗)は盆祭りで娘を探しているのです。
現実世界で五実が何年消失してたのか解りません。
幼い五実が隔離世界に来て、隔離世界の政宗に出会うまでにかなりの時間が流れてるし、彼女が現実世界に帰っても姿は戻らない事から同じくらいの時間が経っている?

そう考えたら、何年も何年も盆祭りに向かい娘を探してるのかな?
母(睦美)も玄関で蹲ってて凄く塞ぎ込んでて、見ていて心が痛かったです。

子供が行方不明になったら、親ってのは探し続けるんだろうなぁ〜
何年も何十年も自分が死ぬ日まで……
でも、理屈じゃなくてさ、例え周りから何と言われても探す事を諦められないよね
だって、何年何十年立とうと親が諦めたら本当に心からも居なくなっちゃう気がする。
そして帰って来ない気がするかも……


けど、そんな彼らの親心を考えると心が痛かったです。

で、五実の現実世界に帰りたくないってのは解るかな。
五実は自分の父と母が政宗と睦美だとは知らないし、彼女は睦美が大切な友達で、政宗が初恋の人なんだよね。
そんな大切な2人と別れるなんてしたくないよね……

でも、政宗達が五実を現実に決意するのには納得出来てしまう。
私でも絶対そうする。

だって、それが五実の生きる世界だから。
政宗は知っている、五実の両親が彼女を心配している事を。
2人が五実を大切にしてる事を。
帰してあげたいって思います。

そして、いつか消滅する世界に五実を残したら彼女はどうなる?
彼女は住む時間も世界も違う。
そんな彼女も消滅に巻き込む事になる。
仮に消滅して彼女のみ生き残り現実に帰れたとしても彼女は消滅した政宗と睦美の悲しみに耐えられるでしょうか?
政宗がそんな重荷を彼女に背負わせようと思うでしょうか?

彼女には無限の未来が広がっているのです。
睦美が言っていた事が全てです。
沢山の世界を見て経験する事が出来る人なんだから見て欲しいしと思います。

それでも、本人の意思が1番大切だと思う。
けど、それは同じだよ?
政宗や睦美だって本当は別れたくないよ。
悲しいし辛いよ。
本当は一緒に居たいよ。
だから、確かに五実の気持ちは通らなかったけど政宗の本当の気持ちに蓋をして泣き言も言わずに頑張ったんだと思います。

誰かを想う事は、自分の気持ちを押し付ける事じゃない……相手の幸せを考える事だと思います。

睦美の義理の父(佐上)がいい例で自分の欲望に忠実だった。
帰りたくない五実の気持ちを利用して隔離世界に閉じ込めようとした。
確かにコイツは五実の残りたい意思を優先させてくれる奴かもしれないし利害が一致したから五実はついて行ったのでしょうけど……

本当に相手を思いやってるのは、どちらでしょうか?



さて、物語全体として最初の神機狼の登場は迫力ありました。
前半見始めて、私は内容が少し難しいので少し後悔してしまいました。

けど、見すすめると物語に深みがあり中盤くらいからグイッと作品に引き込まれます。
物語のメッセージ的には「家族」もテーマになっていて、政宗と睦美、五実の親子エピソード。

他にも、政宗と政宗の父や、政宗の父(お爺ちゃん)と五実(孫)のエピソードなどもあります。

「生きる」もテーマになってます。

子供が大人になれない世界

夢を持てない、叶えられない世界

季節が動かない世界

何も変えられない変わらない世界

街の外に出られない世界

それでも、生きようとする人達。
真実を知って生きることに執着しなくなった人達
そんな世界でも守ろうとする人達

そんな世界で生きる意味とは?
実は、この作品は五実が現実世界に帰った後に隔離世界がどうなったかは描かれていません。
まだ、存在するのか消滅したのか……

最初、この隔離世界は痛みを感じなかったそうなんです。
けど、崩壊しそうな世界の中で五実を送り届けた後に睦美と政宗は痛み……痛覚が目覚めます。

痛みなんてない方がいいと思う。
怪我をした時、ケンカをした時、失恋した時、人は沢山の痛みを経験し抱えます
痛い、苦しい、辛い、泣きたい、時には死にたいなんて感じる事もあるかもしれまん。
痛みなんてなければ身体も心も傷つかない。

けど、生きているから痛みはあるんです。
それが生きると言う事なのかも知れません。
そう考えると、隔離世界に何か変化があったのかな?と思います。
もしかしたら、隔離世界は別の世界線として存在してるのかな?とも。

そして、その裏では政宗の叔父の時宗の様な、崩壊しそうなこんな世界でも守りたい……守りたい理由がある人達が頑張った結果なのではないでしょうか?

結構、後半は泣きそうになるシーンや考えさせられるエピソードもありました。
内容としては複雑ではありませんが視聴中は難しく感じるかもしれません。

後、隔離世界がつくられた理由とか、神様が何故作ったのかの明確な真実は明かされません。
推論なら作中にありましたが……答えではないので作品に答えが欲しいって人はもしかしたら合わないかも?しれません。
割と、神機狼とかも謎はありますし……
消えた人が現実世界でどうなったのかも謎だし。

けど、考えさせられる内容もありし、色々考えて自分なりの結論を出したりとか、友達や恋人と見て意見交換しながら感想言うのも楽しそうですので、是非見て欲しい映画かな、と思います。

投稿 : 2023/09/15
閲覧 : 109
サンキュー:

14

FJSDR37436 さんの感想・評価

★★★★☆ 3.9
物語 : 3.5 作画 : 4.5 声優 : 4.0 音楽 : 4.0 キャラ : 3.5 状態:観終わった

投稿 : 2024/09/23
閲覧 : 3

kakelu さんの感想・評価

★★★★☆ 3.3
物語 : 3.5 作画 : 3.5 声優 : 3.0 音楽 : 3.0 キャラ : 3.5 状態:観終わった

投稿 : 2024/09/23
閲覧 : 3

ルカルカ さんの感想・評価

★★★★★ 4.4
物語 : 5.0 作画 : 4.5 声優 : 4.5 音楽 : 4.0 キャラ : 4.0 状態:観終わった

投稿 : 2024/09/22
閲覧 : 2

Tamotamo さんの感想・評価

★★★★★ 4.5
物語 : 5.0 作画 : 5.0 声優 : 4.0 音楽 : 4.5 キャラ : 4.0 状態:観終わった

投稿 : 2024/09/15
閲覧 : 3

電光 さんの感想・評価

★★★☆☆ 2.3
物語 : 2.5 作画 : 4.0 声優 : 1.0 音楽 : 3.0 キャラ : 1.0 状態:観終わった

投稿 : 2024/08/25
閲覧 : 3
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アリスとテレスのまぼろし工場のストーリー・あらすじ

変化を禁じられた町で暮らす少年少女の恋する衝動が世界を壊す様を描いた長編アニメーション。原作となる同名小説を、監督を務める『さよならの朝に約束の花をかざろう』の岡田麿里が書き下ろし、「進撃の巨人」のMAPPAとタッグを組んだ。主人公の正宗を「呪術廻戦」の榎木淳弥、謎めく同級生の睦実を「鬼滅の刃」の上田麗奈、謎の少女、五実を「サマータイムレンダ」の久野美咲が担当する。(アニメ映画『アリスとテレスのまぼろし工場』のwikipedia・公式サイト等参照)

放送時期・公式基本情報

ジャンル
アニメ映画
放送時期
2023年9月15日

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