ひっく さんの感想・評価
4.9
物語 : 5.0
作画 : 5.0
声優 : 4.5
音楽 : 5.0
キャラ : 5.0
状態:観終わった
バンドアニメは苦手だった
まず前提として今作は、バンドリを一切知らない僕のような門外漢でも、例えばぼっち・ざ・ろっく!やガールズバンドクライを観るのと全く同じように観られる独立したオリジナルアニメ作品であり、敷居が無いということを強調して伝えたい。
僕は基本的にバンドアニメは刺さらない。微妙な音楽観やバンド観・ロック観のズレ、ご都合感が気になったりして没入しきれないから。ぼっちざろっくもガールズバンドクライもBECKも完成度高くて驚いたけど、価値観の相違というノイズが混じってきてハマっている人のように物語に入り込むには至らなかった。
そんな僕の中でこの作品、MyGOは最も感動したバンドアニメになった。そして必ずしも描写がリアルかどうかが重要じゃないことも分かった。僕の中ではどうしても、バンドアニメ全般にある「こんなの現実にはまず起きないよ」というのが鼻についてしまう。そういう意味ではMyGOも他作品と比べてもリアルじゃない描写はある。でもそれがどうでもよくなるくらい、今作には「青春の蹉跌」というリアルがある。バンドメンバー間で生まれた、とても小さなスケールのささくれが解像度高く磨かれて光っている。最終的にストーリーが身近なスケールから離れないことも本当に良い。ぼざろやガルクラと比較した時、3作ともにリアリティを大切にしつつそれぞれが別々の箇所にご都合主義を配置しているのだけれど、MyGOはその中で唯一、社会的成功のためにご都合主義を使ってないというのが本当に重要なポイントだと思った。
{netabare} 10話、何なんだあれは。上手くいかない人間関係をギリギリ繋ぎ止める奇跡の演奏。一番消極的だった燈が思い立ち、1人でステージに立ち朗読を始める所からの日々の経過が綴られたシーンは本当に「現象」を追体験しているかのような特別感があった。最後の即興演奏に対して「即興でこれはできないでしょ」などとツッコむのは野暮です。(もしかしたら作中で描かれてなかっただけで、日ごろのセッションでルーティン的に合わせていたフレーズ構成や展開をあの場でやったのかもしれないじゃないか!などと考えるとより感動が増す){/netabare}
よくギスギスしたやばい鬱アニメとか言われるけれど、それは語弊があると思う。これはごく一般的な人間関係の摩擦を、一人一人の価値観の差を丁寧に描き分け高精度で伝えているが故にそう感じさせるのであって、けして突飛な話ではない。だからこそそれぞれのキャラの心の中に入ったかのような痛みを共有できる。人間ドラマの傑作です。