ナルユキ さんの感想・評価
3.9
物語 : 3.0
作画 : 4.0
声優 : 4.5
音楽 : 4.0
キャラ : 4.0
状態:観終わった
もっとキャラの本能に忠実でエンタメ振りなシナリオを求む
前作レビューを「スーパースバルブラザーズ」なんてアホなタイトルにした理由は1期を観てスバルが「マリオ」、エミリアが「ピーチ姫」っぽいポジションにいるなーと思ったからなのだけど、調べてみると原作は全11章でもうプロットが完成済らしい……マリオは全8面だから3面足りないよ!
まあ流石にこの2期を観てもうエミリアをピーチ姫やメインヒロイン(笑)だとは思わない。前作で思わぬ人気爆発を見せたレムは満を持した彼女の代わりに鳴りを潜めることになる。それ自体に物申すことはなかったのだが──
【ココがひどい:レム睡眠(1)】
第1話の内容なので伏せずに書いてしまおう。
冒頭は1期終了直後、登場人物たちにほんの暇{いとま}も与えない始まり方だ。スバルは大勢の協力と自身が振るえる最大限の力で以て遂に魔女教からエミリアを守り通し、決別された彼女とも仲直りをしてより関係を深めることが出来た。ここまでが1期の内容であり、この続編ともなればAパートくらいは主人公とヒロインたちの平和な一時を描写しても良かった筈なのだが、いきなり1期のメインヒロインであったレムが脱落する。
魔女教の前にクルシュ陣営と共に討伐した『白鯨』が原因であり、彼の怪物には“魔女教大罪司教”暴食”担当ライ・バテンカイトスという飼い主がいたのだ。1期で倒したペテルギウスは“怠惰”担当を名乗っていた。つまり魔女教には「七つの大罪」になぞらえた強者が7人もいたのである。
白鯨を倒した強者たちを捕食することが目的であるライは“強欲”担当のレグルスと共に、白鯨の首を持ち帰るクルシュら撤退組を襲撃。白鯨戦で負傷し撤退組となったレムは大罪司教を2人も相手取ることになってしまった。
各々がペテルギウスと同等以上の力を持つのならレムが独りで勝てる道理は無い。風魔法と剣の使い手である王選候補の1人・クルシュも早々にやられてしまい「記憶」を、そしてレムは記憶に加えて「名前」までもライに喰われ、現状では手の施しようがない『眠り人』にされてしまう。
2人が襲われている頃のスバルはエミリアを救いにペテルギウスと対峙しており、惨状を知ったのは全ての戦いが終わった後であった。スバルは折れた剣で自らの喉を突き自殺。《死に戻り》を発動させてレムを守りに行こうとするが、無情にもセーブポイントはレムのやられた後に上書きされて手遅れだった。
名前を喰われたことで再び周囲から忘れられたまま眠り続ける“大切な人”へ唯1人涙を流しながら、スバルは自分たちの居場所であるロズワール邸へと彼女を送り届ける。
【ココがひどい:レム睡眠(2)】
1話から重く悲しい展開を叩きつける実にリゼロらしい始まり方であったが当然、否定的な反応も散見される。やはり「なぜ作者はこのような筋書きにしたのか」を考察した時、何かレムを退場させなければならない理由があったのではと推察し、そこから一部の心無い輩が「エミリアよりレムの方が意図せず人気が出てしまったので作者はレムを引っ込めたんだ」と邪推してしまったのだ。しかしこれは当たらずとも遠からずだと私も思う。
本当に人気差があり作者・長月達平氏が問題視しているのかは定かではないが、プロット上ではそこまで重要ではないキャラが2章、3章と描くにつれてスバルの心を支えた魅力あるヒロインにまで昇格した。『キャラクターが勝手に動く』現象を作者はレムで体感したのだと言う。
キャラに心が──生命が宿ったとも言える素晴らしい現象が起きたのだが、そんなレムはスバルを必要以上に好いてしまった様で彼の行くところレムあり、彼の困ること先ずレムが挑み──といったシナリオの“マンネリ化”が懸念されたのである。飽くまでも「タイムリープしかない少年がゼロから困難に挑む」話である本シリーズにおいて、レムというアドバンテージをスバルに与え続けることはシリーズの主題に反している。
そういうわけでやや強引に退場させられたレムであったが、私はむしろペテルギウスと同格の敵と2人同時に出くわしたのに命だけは助かっている、という所にご都合を感じてしまった。記憶と名前を奪われ存在を消されかかっている危篤状態ではあるが、どうせそのまま衰弱死なんていうつまらない結末にはしないと考えてしまうと、逆に人気の出たサブヒロインを殺さず「キープ」したのではないかという別の邪推が生まれてしまう。退場させるならエースや煉獄の様に一思いに殺ってしまう方が潔かったのではないだろうか。
【でもこの娘が可愛い?:強欲の魔女・エキドナ】
レムの代わりと言ってはなんだが、この2期ではまたスバルと親密になるヒロインが新登場する。それが七つの大罪“強欲”を背負う魔女・エキドナだ。『嫉妬の魔女』が忌み嫌われ、その容姿と瓜二つらしいエミリアが差別を受けている事情を鑑みると、スバルも視聴者も魔女と名乗る相手には自ずと警戒してしまうものだが、そんなイメージに反して彼女は可愛い一面をふんだんに見せてくる。
ぞんざいに扱われると慌てふためき、茶会をお開きにされるとわかりやすく落ち込む。逆に褒めたりすればそそくさとお茶の御代わりにクッキーまで用意しながら取り繕うわかりやすい照れ隠しをするチョロさまで“披露”してくれる。「ボクっ娘」なのも個人的に評価が高く、CVの坂本真綾さんの演技もエキドナというキャラにぴったりとはまっていた。
そんなエキドナが“強欲”と名乗る所以は決して満たされない「知識欲」にあり、生前も死後もその欲に従って貯めた知識量は膨大だ。彼女は知識を他者にひれらかしたい「お喋り」であり同時に未知の事柄に食いつく「好奇心旺盛」な性格でもある。スバルはエキドナに『魔女の茶会』へ招待されたことを皮切りに、彼女から情報提供や精神的助力({netabare}特に大兎に群がられ全身を食い殺されたショックで死に戻り後も発狂しかけていた所を無償で治癒してくれている{/netabare})を受けて今回の死のループへ立ち向かっていく。後にエキドナはスバルにより多くの知恵を貸せるようにある「契約」を持ちかけるのだが──
{netabare}そのキャラクター性で以て少しずつスバルと視聴者の猜疑心を取り除き「本当に味方なのかも……」と思わせてくれる中盤辺りで見せる本性が酷い。これまで見せた可愛らしい仕草は全てスバルの気を引くための演技であり、本来のエキドナは人の心が理解できず自らの知識欲のためなら他人の犠牲さえ厭わない────7人の魔女の中で(悪行を悪と認識した上で実行する点において)最も邪悪な魔女だったのである。
具体的にスバルと契約して何をするつもりだったのかはアニメの尺の関係か具体的には語られておらず、その点においてエキドナの腹黒さは伝わりづらい。だが1期の屋敷編でスバルを助けてくれたベアトリスを生み出したのは彼女であり、そのベアトに禁書庫の管理と架空の人物である“その人”の迎えを待つという無責任な契約を結ばせたこと、そして400年間放置し悪びれる様子もないことから十分に「人でなし」であることは理解できるだろう。
スバルからの信頼が崩れたことに気づかないままおよそ2分半、両手を広げて契約の意義について息継ぐ間もなく喋り続けるシーンは言い様のない異質さがあり、見る者聴く者全てを唖然とさせてしまう。{/netabare}
【でもココがひどい:問題の山積み】
エキドナとの契約に乗るか乗らないか──これは後のスバルの運命を左右する大きな分岐点でもあるのだが正直、相変わらず無能で無知なのだから契約して力を借りる方が良かったのでは?と思うくらいに今回の「死のループ」も難攻不落だ。あまりにも難しくやることも多すぎて、この前半クールでは全く解決の糸口すら見つからないのである。
{netabare}白鯨と同格の魔獣『大兎』の襲来が聖域に、1期序盤で撃退したものの驚異的な暗殺能力を持つエルザの襲撃がロズワール邸に、ほぼ同時期に訪れるためスバルだけでは手が足りない。エミリアは聖域の結界に囚われ身動きが取れず、残る面々も戦力としては心許ない(ラムやフレデリカは戦えるけどエルザには到底及ばない)。そして死に戻りの度に蓄積する『魔女の瘴気』は例によって聖域の守護者・ガーフィールが嗅ぎ取ってしまい疑念を膨らませた後に反徒化。情報収集のための自由行動すら阻まれるようになってしまう。{/netabare}
{netabare}1期後半から謎のフェードアウトをかましていたロズワール・L・メイザースは今回も傍観────と思いきや、実はエルザを操り大兎を呼び寄せる黒幕であることが自白に近い形で発覚。ロズワールはスバルに死に戻りの力があることを自身の未来を記してくれる魔本『叡知の書』で初めから知っており、彼の「覚悟を研ぐ」ため────仲間全員を(サテラに諭された後は自分を含めて)守ろうとするスバルに「エミリアのみ」を選択させるために今回の事件を仕組んでいたのだ(1期までは死に戻りをしている少年がスバルであるかどうか確かめていたらしい)。
『・・・お前、本当にどうかしてるぞ』
『そうとも。私はとっくにどうかしている。400年前にあの瞳に魅入られて以来、私はずっと、どうかしてきた』
『ナツキ・スバルくん、なぜ君はまだどうかしていない? どうかしていなくては挑めない境地に、孤独の道を行くのに、人の心は邪魔なだけだ。だから私が、君にそれを強いよう』
直接相対することは無いものの、王国の中でも最強とされる魔術師がエキドナを師事し、悪意ある未来のためにスバルやエリミアを使い潰そうとしている。それで2人の心が壊れるなら好都合だ。壊れて脱け殻となった2人はロズワールの良い操り人形となる。{/netabare}
『どうすりゃいい……どうすれば……どうすればどうすればどうすればどうすればどうすればどうすればどうすればどうすれば──!!』
完全にキャパオーバーである。1期後半、レムの激励によって「折れない心」を得られたスバルだが、そんな飛躍的な精神面の成長があっても知識や肉体はこれまでと一緒、現代高校生のままだ。絶対に折れないからこそ運命は──登場人物の悪意は遠慮無しに彼をサンドバックにしており、折れない心は「軋み」続けて悲鳴を上げる。スバル本人よりも見届ける視聴者の方が参ってしまいそうになる。
【でもココが熱い!:オレの、最高のユージン】
そんなスバルを救うのが意外や意外、{netabare}オットー{/netabare}である。
異世界転移をして来たスバルはこれまでの人間関係をリセットし、ほぼ全て「損得勘定」で新しく広げていった。レムが好いてくれるのも結果的に自分が彼女を救ったから、そして自分がエミリアを好きになったのも最初の世界線で彼女が自分を助けてくれたのが切欠だ。
とりわけこの損得勘定や「利害関係」の重要さを痛感したのが1期のクルシュ陣営・アナスタシア陣営との交渉であろう。頭ごなしに起こる未来をぶちまけても相手は訝しむだけで動かない。自分と相手の利害を一致させ、相手が負うリスクに見合ったリターンを必ず用意しなければならない。スバルはこれを文字通り“死に物狂い”で学んだのである。
{netabare}だからこそ何のお返しも用意できない状態──むしろガーフの口止め料の方が圧倒的価値があった時点──でなぜオットーが自分を助けてくれるのかがわからなくなっていた。スバルは思わず『お前が俺に手を貸す理由が見つからない』と言ってしまう。
それに対し、オットーはこう返す。
『友人を助けようとするってのはそんなにおかしなことですかね?』
オットーに全く打算は無いのかを考えたらそれは嘘になる。だが彼は「スバルと友達になること」を望み、それ以上は望まない。彼がスバルを助けた理由は後半クールで明かされる彼の半生にある様だ。不憫なことが多々あり、そんな状況を家族や「様々な生き物」が救ってくれたからこそ彼は他人に優しくなれる。誰かを助けることはずっと誰かに助けられてきた自身にとっての誉れであり、それ以上の見返りは要らないのだ。
“無条件の善意”の存在は確かに物語でもご都合主義なのかも知れないが、主人公が全くアテにしていない時に見せるからこそその存在を良い形でアピールしている。この2期前半クールの見どころの1つであることに間違いない。{/netabare}
{netabare}さらに最後の時間軸、度重なる問題に絶望しながら頭を抱えるスバルに対し、オットーはいつもの丁寧な口調を止めて彼を殴り付ける。
『友達の前でカッコつけるのなんてやめちまえよ、ナツキ・スバル!!』
オットーにはわかっていた。他の登場人物が「得体の知れないが出来る奴」「全然強くないが間や勘は良い奴」と徐々に評価を上げていく中で唯1人、スバルの本質を見抜いていく。
彼には力がない。知恵もない。けれど何かを知り、なんとかしなければならないと常に苦しんでいる。誰かが力を貸してあげなければいけないんだ。
オットー自身もこの異世界ではしがない商人──「弱者」の1人だ。だからこそ同じ弱者の心の叫びを聴き「強がり」という殻を剥いてみせる。レムという愛人が弱いスバルに強さと可能性を見出だしたように、オットーという友人は弱いスバルに“弱者の矜持”というものを必死で伝えようとしてくれるのだ。{/netabare}
【他キャラ評】
菜月昴{なつき すばる}
大体カナ表記だけど漢字ではこう書くのよね
さて、1期では中々、許容しがたい身勝手さと無様さを晒し続けてきた主人公であるが、そうなってしまった問題を乗り越えた後はやはり一皮、剥けている。ようやく呑み込みやすい──もとい観やすい主人公になれたのではないだろうか。
{netabare}普段の鬱陶しい程の馴れ馴れしさやふざけた態度も、それらが培われた現代世界での半生を『試練』という形で初めて描かれたことで納得が出来る。本物でないとはいえ、過去が詳細に描かれたなろう主人公は中々、珍しい。
常に枕詞に『あの人の息子』を付けられたスバルの環境と成長に従って露呈する凡才ぶりは当時の彼の「自己肯定感」を削るのに十分であり、だからこそ彼は「他者」に自分の価値を見出だしてもらう様になる。視聴者がウザいと感じたあの馴れ馴れしさは彼なりの「愛想の出し方」なのだ。今思えばその空回りっぷりを上手いこと表現してきた様に思える。{/netabare}
レグルス・コルニアス
CV:石田彰の時点で鬼滅好きの私としてはどういうポジションのキャラなのか手に取るようにわかる──ものの、本作放映時点ではどう攻略されるのか見当もつかない強敵だ。物理も魔法も効かず、腕を振って生じた鎌鼬{かまいたち}は人の手足を簡単に斬り飛ばし、一掴みの砂が全身を蜂の巣にする弾丸となる。加速系の能力なのかなとは考えつくもハッキリ書いてデタラメ過ぎる強さは現状、考察しても意味が薄い。
デタラメな強さ故に出てくる台詞は強欲というよりも「傲慢」だ。『僕の権利の侵害だよねそれ』などという台詞に対しては「どうしてそんな権利を逐一、保証して会話せにゃならんのだ」とツッコみたくなるものの口にしたが最期、石田ボイスで権利を主張されながら嬲り殺しにされるのだろう──ある種、ご褒美かな?(笑)
【総評】
前作から続く評価だが清濁併せ持つ──面白いが欠点も多い──作品だ。ただ最期まで観ると前半クールは1期の13~17話のような“溜め回”であることが判るので、そういった性質を持続させつつ本作の舞台である『聖域』の謎や7人の魔女たち、ロズワールやベアトリスの秘めた渇望といった驚きの新情報を織り交ぜていくことで前作の面白さも担保されていることを最終的には評価できるだろう。結局、話が長かったり{netabare}嫉妬の魔女が顕現して全てを呑み込んで終了する周回が始まる{/netabare}など、わけのわからない展開が入ったりするのだが(笑)
個人的な所感だが、やはり元は『小説家になろう』で連載していた作品だからかシナリオに関してはどうにも「素人臭さ」を感じてしまう。【レム睡眠】のくだりが良い例で、このリゼロという作品はスバルが主人公、エミリアがヒロインでお姫様だという図式が絶対に崩れない。もしそれを脅かす展開を描いてしまったら無理矢理にでも修正するという「作者の意図」が透けて見えてしまっている。
作者の描きたいものを書く。これが一番ではあるのだが「キャラが勝手に動いた」という現象はある種、脚本にブーストがかかっている状態なので、それに逆らわず上手く乗り流れるように物語を紡いで多くの読者&視聴者のニーズに応えるのが、エンタメ的には正しい一流の脚本なのではないだろうか。とにかくあのレムの即退場は本作のあらすじにも全然関わってこず唐突に感じられた。
『聖域編』の最終的な評価は後半クールのレビューへ持ち越します。
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