ナノトリノ さんの感想・評価
3.8
物語 : 4.0
作画 : 4.0
声優 : 3.0
音楽 : 4.0
キャラ : 4.0
状態:観終わった
3年後にしてラピスリを思う
正式な略称は「ラピライ」です。
放送は20年の夏、
この文章は24年1月、放送から3年半後の回顧録です。
非常~に長ったらしいので畳みます。
1行にまとめると
不思議なほどキャラ名が覚えやすかったアイドルアニメ、です
{netabare}
アニメの他にもライブパフォーマンスコミカライズノベライズソシャゲと、かなり広範にメディアミックス展開したプロジェクトでしたがアニメしか見ていません。本丸と目されたソシャゲのリリースがかなりの難産のうえ短命に終わったという印象です。
ですがアニメは好きでした。
何が素晴らしいって、登場人物の名前が一種異様なまでに覚えやすかったのです。
他のアイドルもの/ソシャゲアニメの例にもれず本作も多くの女の子が出てきます。3年後の今となってはさすがに数えるほどしか覚えていませんが、放送当時にはメインの20人+伝説の5人の合計24人もの名前をわずか1クールの放送期間内にすべて把握出来ました。こんなことは後にも先にも本作だけです。
いったい何がそうさせたのか。多少強引に考察してみました。
第一に名前が短く表記ゆれがないことです。
主役ティアラはウェールランドの第二王女で、ティアラ・ヴィクトリア・レクス・ウェールランドなんていう長~い本名ですが身分を隠して学園に通っていることもあり、もっぱらティアラとだけ呼ばれています。
これに限らず学園には貴族の子も平民の子もいますがいずれも家名を一切名乗りません。すべてファーストネームのみで呼び合います。
さらには二つ名やあだ名といった別称がほぼありません。例外はメアリーベリー →メア、ラトゥーラ →ララ、ティアラ →ティア等のごく親しい間柄のみで用いられた短縮型の愛称くらいでしょうか。
日本の女の子の物語だと苗字呼び・名前呼び・あだ名呼びと使い分けたり変化させることによって距離感を表現したりしますが、相当うまくやらないとどれひとつ記憶に残らないなんて事になりかねません。
また、二つ名で属性を付与してしまうのはわかり易く強力なのですが、やはり本名がかなり覚えづらくなると考えます。
加えておそらく意識的にだと思いますが、話しかける時に頻繁に相手の名前を入れてくるのです。省略できそうなところでも敢えて、という感じ。この子の名前何ていうんだっけと思った瞬間には会話の中にその名前が出てきます。
カタカナ数文字の名前のみの呼称で頻繁に呼び合うことで耳に染み込ませ、エンドロールにちらりと見えるキャスト一覧で目でも覚えやすかった。発音が目で見えるのは有利です。漢字の難読苗字や中華名はこの点で不利です。
第二にユニット編成がうまかった。
20人を5・4・3・3・3・2の6ユニットに分けていました。この人数編成が絶妙。
私的な感覚としてアニメの女の子グループの最適人数は4人だと考えています。これが5を超えると途端に全体像がぼやけてくる。頭の中の画面から見切れる子が発生してしまうのです。4人だと2+2のダブルペア編成が組めて余りが出ないのも大きい。
ゆえに20人を4人編成の5ユニットに等分割しても不思議ではない。(一例として22年放送の『CUE!』では16人を4人×4に組んでいました)ですがこれはアイドルアニメです。アイドルはセンターを作ると安定する。奇数の方が相性いいのです。
その最少人数である3人編成を3組作っています。センター+両翼の構成です。菩薩=如来=菩薩フォーメイション。ビジュアル的にも把握しやすい。
一組だけの4人編成のユニットは登場時3人組の王+従者+道化から、後に縁で結ばれた食客を加えた構成で明確なセンターが設定されています。
やはり一組だけ存在する2人ペアのユニットは学園最強+伝説の生き残りという強属性(ただし怠惰)を持たせて差別化を図っています。
そして問題の5人編成。ここに露出が最も多い主役組を持ってきた。センターはもちろん主役のティアラです。見栄えが華やかになる代償として端にライトが当たりにくくなることを露出の多さでカバーしています。
内部的には2+2+1構造になっていて1人余りそうなところも別の3人ユニットの1+2の片割れと精神的ペアを組ませることで2・2・(1+1)・2で安定させています。
第三にクラス分けの設定が活きていた。
本作の学園には学年という概念が無く、クラス分けは年齢にかかわらずユニットごとにその実力に応じて三段階にされています。下から順にラピス(青)、ルージュ(赤)、ノワール(黒)で、実力を付ければユニット単位で昇級できるというものです。
先ほどのユニットの項で3人編成が3組いましたが、初期には青/赤/黒にキレイに割り振られていました。属性もふわふわ・三姉妹・ガチ勢と被りがありません。そのパフォーマンス強度もクラス序列にきちんと倣ったものになっていたと思います。
4人組は強キャラ(ただしポンコツ寄り)設定で黒、
2人組も強キャラですがゆえあって怠惰設定で赤止まり、
主人公5人組は最弱スタートですので青、ラピスです。
制服や体操着が青赤黒に色分けされており、ひと目見ただけで誰がどの程度の実力者なのかわかるのが大きい。これが全員同じ制服だと相当把握しにくくなると考えます。
そして最大の要因が丁寧なシナリオです。
1話で既に15人もクレジットされていますが出だしはゆっくり。あくまでも主人公チーム5人と学園の紹介のみに重点を置いています。
2話でも同様。他のメンバーは顔見せ程度で「今は覚える必要がない」といった扱いです。
そして2話の最後にアイドルアニメとしての真骨頂ライブパフォーマンス(1)を最強ユニットの黒ガチ勢3人組がド派手に見せつけて物語の方向性を提示。
3話になると動きます。バンプボールと呼ばれる魔術ドッヂボールの授業でユニット同士が対戦します。黒4ポンコツ・赤2ペア・青3ふわふわといったチームがチーム内の関係性や実力差を見せながら主人公チームと戦います。赤2チームが実力充分ながら内紛で優勝争いから脱落したり、実力では格下の主人公チームが機転と友情パワーで大善戦したりします。黒4と組んだ青3ふわふわチームはここで優勝を収め後に赤に昇格します。最後に全員まとめて湯気光薄目のお風呂とサービスシーンも抜かり有りません。
4話はまるまる東方からの留学生である三姉妹ユニットお当番回。姉妹の絆を丁寧に描いてラストに三姉妹ライブ(2)。
5話は一通り紹介の終わったポンコツ4・三姉妹・ふわふわ3の合同野外活動を見せつつ、主人公チームVS赤2ペアがインドアで魔術ボードゲーム対決の二軸展開。ラストは赤2ペアのライブ(3)。
6話は5話の続き。ポンコツ4とふわふわ3チームを掘り下げるコミカルお化け屋敷回。ライブ(4)はこの回でメンバーを加え4人編成の完全体になった黒4ポンコツ。
7話の前半でふわふわチームの初ライブ(5)。これで主人公チーム以外5ユニットのライブが一巡しました。
ここから8話にかけて伝説の5人組の話を絡めつつ本格的に主人公たちが動き出します。8話終盤に満を持してライブ(6)。からの急転直下。
うまく文章化できてませんがとにかく丁寧でした。各話大人数を絡めながらも重心がクッキリしてるので誰が誰やらわからなくなることがなかった。
アイドルアニメの華であるライブパフォーマンスもここまでの8話で6回と充分魅せてくれました。
さらに付け加えるならば世界観や小ネタが良かった。
一例として1話冒頭でティアラがマームケステルの街にやって来る時の乗合馬車。ここで乗り合わせたモブと思しき人たちが、のちのお話で街の住人としてたびたび出てきます。
馬車でイチャついてたカップルが後に別れて振られた男が酔いつぶれていたかと思えばさらに後の話ではよりを戻してイチャイチャしてたりといったことがティアラたちの背景で描かれていました。
特に本筋とかかわってくるというわけではないのですが、確かにマームケステルという街がここにあるという実感を持たらしてくれます。
こういった小ネタは周回視聴するときの楽しみにもなりえます。
加えてもうひとつ小ネタ。東方から留学してきた三姉妹は例によって和風な名前なのですが、誰が誰だっけ…と思う間もなく、髪飾りが楓なのがカエデ、椿なのがツバキ、なんか白い花なのがナデシコと極めてわかりやすい。
ついでにいうなら主人公ティアラの髪飾りはティアラでこれも何気にインパクトは強く、しかも最終盤には物語の根幹にかかわってくるキーアイテムになっていました。
さらにさらに付け加えるならば声優陣を若手で固めていたのがいい方に転がった、かもしれない。
どういうことかというと、ソシャゲ/アイドルアニメにありがちな事なのですが一遍に大人数が出てくると脳が名前以外の、見えてる聞こえてる部分で識別し始めることがよくあるのです。
わかり易いのが髪色/髪型、これは識別子として一番強い。ゆえに名前覚えずに「赤」とか「ドリル」で覚えてしまう。同様に取ってつけたようなツンデレやお嬢様設定だと「ツンデレ」「お嬢」で認識してしまいがち。
これは声にも当てはまり、「有名な声」で固めてたりするとキャラ名よりも声優名で識別認識してしまうことがあります。本作にも別格扱いの伝説ユニット・レイには当代の売れっ子声優を当てていて「ざーさん・ナンジョルノ・すみぺ・あやねる」と覚えたとしても不思議ではない。
本作はアニメ化以前にライブパフォーマンスも行っており、拘束時間が長くとれる関係からか若手の、こういうと失礼ですが無名の声優さんを多く起用しています。いずれも綺麗な声で発声も演技も充分な水準でしたが声だけ聞いても誰だかはわからない。そしてわからないからこそ声優名で認識してしまうというノイズが入らなかった。ゆえにキャラ名が覚えやすい一助になった、のかもしれません。
長くなってしまいました。まとめると
短く表記ゆれの無い名前で頻繁に呼び合い
絶妙にユニット分け/クラス分けした上で個性を持たせ
丁寧なシナリオでユニットごとの掘り下げを行った
だから異常なまでに名前が覚えやすく
20人もの大所帯ながら各キャラに愛着が持てた
てとこでしょうか。まとまってないな
{/netabare}
華となるライブシーンは実に美麗なうえに楽曲も良く
力を入れたプロジェクトだったのだろうなとうかがえます。
ウラハラに放送当時も大人気というほどにはハネることもなく
続編などはもはや望むべくもないのでしょうが
実に良いアニメだったということは今に至っても感じる作品です。
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