蒼い✨️ さんの感想・評価
5.0
物語 : 5.0
作画 : 5.0
声優 : 5.0
音楽 : 5.0
キャラ : 5.0
状態:観終わった
まごうことなき“青春の価値”の第二楽章。
【概要】
アニメーション制作:京都アニメーション
2019年4月19日に公開された100分間の劇場版アニメ。
原作は、宝島社文庫から刊行されている武田綾乃による小説。
監督は、石原立也。
【あらすじ】
かつては京都府でも高い実力で知られていた北宇治高校吹奏楽部は、
ここ10年ほどは低迷していたが、かつての名指導者の息子の滝昇が新顧問に就任。
単なるスローガンではなく本気の目標としての「全国大会出場」のもとに、
弱小校の馴れ合いの空気が一掃されて、一切の甘えと妥協を許さないスパルタ指導で、
最初は反発が大きかったが部の意識改革と技術鍛錬に成功し、
奇跡の全国大会出場を果たした。全国大会の結果は残念ながら銅賞。
卒業した小笠原晴香部長、田中あすか副部長などの先輩から全国金の夢を託された、
新しい部長の吉川優子や副部長の中川夏紀らを筆頭とする新生北宇治高校吹奏楽部は、
新年度を迎えた。
二年前・滝昇就任以前のやる気がある後輩の足を引っ張る、
当時の三年生に反発しての集団退部騒動が尾を引き、
それから二年後の現・三年生の層の薄さという不安要素を抱えている現状。
全国大会出場とそれを可能にした滝先生の名前で、大量の新入生が入部したことで、
新入生を鍛えながら全国金に向けて始動した吹奏楽部だった。
主人公でユーフォニアム奏者の黄前久美子は二年生になり、
幼馴染でトロンボーン担当の塚本秀一と隠れて付き合ったりしている。
先輩の加部友恵とともに新入生指導係として後輩の面倒を見る立場になったのだが、
なかなかに面倒くさい性格の後輩が多く、ため息が多くなる久美子なのだった。
【感想】
ユーフォニアムのアニメのキャラデザが変わったのは正確にはここから。
池田晶子さんによるリファインで心持ち大人っぽくなっていますね。
いつもながら表情豊かで表現力に優れた京アニの作画と演出でありますが、
作品への高い評価を得たところで、ひとつのところにとどまらずに、
マイナーチェンジで向上を目指すのが京アニの美点ではあります。
二年生編は、リズと青い鳥と誓いのフィナーレでニコイチで合計3時間ちょっと。
それぞれの話をしっかりやりたいとのことで、リズと青い鳥は山田尚子さんに任せて、
こっちは従来どおりの石原立也監督で2本の映画になってしまったのですね。
部活動の経験を経て個々の演奏技術の向上だけでなくて、人間の本質は変わってないですが、
責任ある部長として背負ったもので後天的に成長した優子先輩が印象的であったり、
一見は礼儀正しい後輩なのが心に陰があり言葉の端々に不穏さがある久石奏であるとか、
新入生もまた誰ひとりとして同じ人間がいない群像劇として人間模様が魅力的であります。
3期で久美子の物語を全て観終わったあとで、こちらを振り返り視聴してみますと、
後に扱いが昇格した釜屋つばめ、若干他の部員より目立つ井上順菜や小日向夢などの、
出番が増えることになるメンバーだけでなく、この映画では語られて無くても、
部員のひとりひとりにも感情と物語があると思ったりします。
そこは映画では描ききれないので原作を読んでくださいとのことかも知れませんが。
誓いのフィナーレは、久美子が中心の構成と言いますか、
ほぼ黄前相談所エピソード→終盤に関西大会となっていますね。
とある新入生が、ヘタクソな奴が世渡り上手なのがムカつくであるとか、
自ら心に壁を作って疎外感を感じてイライラしてしまう。だからとノケモノにせずに、
そんな嫌なことばかり言っている子の言葉の裏にある寂しい気持ちに気づいて、
その子が本当に掛けて欲しい言葉を選んで、人間関係の改善に成功するなど、
これは作中で言及されていることですが、人畜無害な顔をして、
どことなく冷めた目で俯瞰して問題点に気がついてしまう観察眼。
相手の懐に飛び込んで固く閉ざされた心の窓を開けてしまう行動力。
自分のこととなるとうっかりものであるのに、人のことはよく分かる。
これは、久美子の三年生編の展開に向けての伏線であり、
演奏技術者とは別の久美子の資質に触れている重要な部分を選抜したエピソード構成ですね。
加部ちゃん先輩の話だってそう。のちの久美子部長を形成するにあたって、
久美子に影響を与えた出来事を優先したら、他のことを語る尺が無くなった感じ。
ここは、100分間の劇場アニメ映画でなくてTVシリーズならば、
小日向夢と加部ちゃん先輩のエピソードであるとか、
色々出来たのに!と惜しまれるところではありますね。
だからといってストーリーが悪いわけではなくて、
個々のエピソードを観ると、むしろこれまでのシリーズに負けないものであります。
『努力は報われる、ただしそれは本人が望む形とは限らない。
というのがユーフォシリーズを書く上で一貫して決めているルールです。
北宇治高校以外の学校にもドラマがあり、全ての部員たちが努力している。
その結果がどんな形であれ、
きっと一生大切にできる何かを得られるんじゃないかなと思います。』
これは、原作者の武田綾乃さんの言葉ではありますが、
人格形成において、例え望む結果を得られなかったとしても、
努力の価値・青春の価値を経験から真っ当に理解することが出来た人間は、
それを糧にして、魂を腐らせることなく生きてゆける話。
今回の映画も、後輩の久石奏が彼女の中学時代の過去の経験から、
事なかれ主義の処世術に染まっていて、今の北宇治高校吹奏楽部の空気に否定気味だったのを、
久美子や夏紀先輩らの熱い心で本気の青春の世界に引き戻されて過去の呪縛から掬い上げられる話。
久石奏の変化のきっかけになる出来事もまた、彼女には大切な出会いが始まりであります。
自らの高校時代に何かしら古傷があって、アニメを見てそこを抉られる人もいれば、
高校時代に自発的に何もせずに終わってしまった人には、後悔の念を噛み締めさせる。
アニメを見て何を思うかは人それぞれではありますが、
ある意味では見たその人の心の鏡になり得るのが、ユーフォシリーズであると思いました。
私がユーフォで好きな登場人物は、吉川優子部長。
三年生編での久美子を見ていると、優子部長にも部をまとめる過程でいろいろな経験があって、
それが彼女を大きくしていったと思うと感慨があります。問題が起きないよう、
不満の芽を先回りして暴発前に摘み取るやり方で競争力が削がれてしまい、
あと一歩のところで全国大会出場を逃してしまいましたが。
精一杯頑張ったのに夢が叶わずに夏紀先輩の横で崩れ落ちる遠目での姿を見たあとで、
後輩たちに全国大会出場と全国金を託して鼓舞する気丈な優子部長の姿。
そこに気高き吉川優子部長の思いを感じ取れる視聴者であるならば、
このアニメの素晴らしさが良くわかっていると思います。
小笠原晴香から吉川優子に、そして黄前久美子に代々の部長に引き継がれる思いは、
決して軽いものではありません。それは本気で全国を目指す部ではどこにでもあること。
経験なり想像なりで共感する力がこのアニメの視聴には必要ではありますね。
このアニメ映画で特に圧巻だったのは8分間を超える関西大会での演奏シーンですね。
本物のアニメーションには本物の感動がある。
当時の京都アニメーションのフルメンバーがいかに卓越していたかの証明。
これを超える演奏シーンは今後現れるかと言うと疑問ですね。いい物はいい!
己を偽ることなく感じたことを今後も発信しようと、このアニメ映画を観て思いました。
これにて感想を終わります。
読んで下さいまして、ありがとうございました。
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