ナルユキ さんの感想・評価
2.5
物語 : 2.5
作画 : 2.5
声優 : 2.5
音楽 : 2.5
キャラ : 2.5
状態:途中で断念した
一般人が深夜アニメと聞いてイメージする通りの作品
とくに今日「なろう系」が跳梁跋扈{ちょうりょうばっこ}するアニメ界隈では尚更、といった作品だ。普段こそ色んな作品の「個性」や「特徴」をピックアップしてレビューを書いている私だが、この作品に限ってはその個性的な部分がわざとらしい位に主張が強い(笑)
この作品の主人公はいわゆる「異世界召喚」された状態だ。スマホを片手に────『異世界をスマートフォンとともに。』生き抜いている主人公はスマホで得た知識で戦国の異世界『ユグドラシル』をのし上がっていく。
ちなみに見た感じものすごくなろうっぽいのだが、本作は『小説家になろう』で連載されたことはなく、HJ文庫(ホビージャパン)より2013年8月から2023年3月まで刊行されたライトノベルを原作としている。
【ココがためになる?:色んな兵法が学べるぞ!】
主人公である周防勇斗{すおう ゆうと}は別に強くはない。なにか特別な能力があるわけでもなく、現代のスマホを使えるというくらいしかない。そのスマホも元の世界への「検索」と幼馴染みとの「通話」くらいしかできず、某作品のようにスマホで魔法が発動できるというわけでもない。
そんな主人公が部族の長になっている。彼がユグドラシルに召喚されてから2年────その間にその世界には存在しなかった道具や武器、陣形や作戦などの「兵法」をスマホで調べ、自分が世話になった『狼の部族』に教え貢献することで成り上がり、狼は周辺の他の部族との戦争に勝利して大きく勢力を拡げた所からアニメの物語は始まる。
兵法は全て現実世界の某百科事典系サイトから流用しており、故に私たちの世界に実在していたものばかりだ。盾と槍の重装兵を密集させてシンプルに正面から進軍する「ファランクス」、そのファランクスで敵軍を惹き付けてから別動隊を側面へ送り挟撃する「鉄床{かなどこ}戦術」、せき止めた川に敵軍を誘い込み、川を渡るタイミングで一気に水を流し疑似洪水で殲滅する「嚢沙之計{のうしゃのけい}」などネットで検索するだけあってどれも有名な計略である。それ自体が陳腐に感じる人も非常に多いようだが、(恐らくは)只の男子高校生が何のチートも持たされずに異世界で軍師をやるにはこれしかなかったのだろうな、と個人的には納得。スマホ検索がダメなら後は主人公が重度の歴史オタクとか、そういう設定を付けるしかないね(笑)
問題はスマホで調べただけという付け焼き刃の知識がどこまで本物の戦争に通用するのか。勇斗らが使う戦術は日本の戦国時代や中国の後漢で使われたものを模倣しているに過ぎない。これでは戦争に圧勝することは出来ず、主人公軍も毎度、手痛い犠牲を払い続けることになるのではないだろうか。
この懸念は実に「なろう」らしい理由で綺麗さっぱり取り除かれることになる。
【ココがひどい:戦争のレベルが低すぎる】
第1話、敵は主人公軍が持つ武器を見て驚く。
『お、おい!あの槍……鉄なんじゃ!?』
『馬鹿な!?』
驚きすぎだろじゃあお前らは何の武器使ってんだよ(笑)と思って観てみると、敵軍は「石」を矢じりにした弓や槍、酷いと「木製」の剣や盾、鎧などを装備しているのである。木剣って最早おもちゃだよな……?『キングダムハーツ』のソラが最初に使うような……
どうやらこの作品でのユグドラシルは「鉄」が希少金属であり、只の一兵卒の標準装備で鉄製の武具が与えられることは無いらしい。しかし主人公束ねる狼の部族は何故かその鉄を安定供給しており、他の国と同盟を結んで連合軍を結成する際も、友軍に鉄武器を与えて装備を統一する余裕さえある。
ユグドラシルでは鐙{あぶみ。鞍のようなもの}の概念も無かったので、馬は足が速いが背中には乗りづらく戦車{チャリオット}にしか使えないことが通説だ。よって「騎馬隊」というのもほぼ狼の部族の専売特許になっている。
{netabare}流石に敵の武将や宗主などは鉄武器を使ってくるのだが、それに圧倒するは我が国が誇る「ニホントウ」──只の日本刀──である。別に刃が高周波や熱を纏って何でも斬れるとか、持ち主に相応しくない者を幾人も死に追いやった妖刀とか、ひょっとこお面の人が一心不乱に磨き続けて全盛期の斬れ味を取り戻した業物とか、そういうギミックやエピソードは無い。単に玉鋼で打ったのだろう何も変哲もない日本刀が戦争を勝利へ導くキーアイテムとなっている。そうにしか見えない武将同士のやり取りもあって、この作品は本気で「日本刀という武器はすごいんだぞ」という今さらなメッセージを視聴者に伝えてくるのである(笑){/netabare}
ハッキリ書いて、この作品の「異世界」は文明レベルが低すぎる。このテの作品において異世界は中世ヨーロッパ程度の文明に魔法学が足されることが多いのだが、本作はそれよりさらに前────いや、本当にこれまで真っ当な人類史を歩んできたのかが疑わしいくらいに人々は物を知らず、装備もお粗末で、特殊能力が使える(本作では『エインへリアル』と呼ばれる)者も少ない。なので主人公のド定番で付け焼き刃な作戦でも敵将は『奇天烈な戦術を使いおって!』と叫び、主人公軍に全く損害を与えることなくやられてしまうのである。
主人公以外のキャラを弱く無知にすることで、主人公の大したことはない強さや知識を引き立てる。なろう系ではお馴染みの手法になろう原産ではない作品が躊躇なく手に染めてしまっている……。
【そしてココがためにならない:「匹夫の勇──」の誤用】
周りのレベルを引き下げてまで主人公・勇斗の軍師的活躍をピックアップしておきながら、やはり聞きかじりの知識のせいか彼が引用する故事成語の解説が間違っていることがある。中でもよく槍玉に上がるのは“匹夫の勇”であろう。
{netabare}「中国にはね、『匹夫{ひっぷ}の勇{ゆう}、一人に敵するものなり』っていうことわざがあるの。 無闇に戦いを求める愚か者の勇気は、一人の敵を相手にするのが精いっぱいって意味よ。スネークはたった一人で敵の中に潜入してるんだから、やたらと戦闘を仕掛けたりしないで、慎重に行動してね」(METAL GEAR SOLID, キャラ:メイ・リン, 1998)
──というわけで、少なくとも戦争でいの一番に戦線に躍り出て多くの敵をなぎ倒し、味方の士気を爆上げして勝利に貢献する敵将に向けて使う言葉ではないのだが、勇斗はそんな相手に対して『バカ』とか『匹夫』などと呼ぶようになる。まあ、確かにステインソールは猪突猛進で頭の悪い人物として描かれてはいたけど……全然「1人の敵を相手するのが精一杯」って感じではなかったよなぁ……
挙げ句の果てには仲間の女子までもが『その匹夫が突っ込んできます!』なんてネタにならない方がおかしい台詞回しをしてくるのでもういい加減、この作品はギャグアニメか何かか?と勘ぐってしまう。大体「ひっぷ、ひっぷ」と連呼しているけども“匹夫”って口に出したら“お尻”の英読みにしか聞こえんからね!?{/netabare}
勇斗が度々口にする「君主論」や「ことわざ・故事成語」が毎度、覚えたての言葉を使いたがる中学生の様に鬱陶しく聞こえるのも問題だ。彼自身は飽くまでも借り物の言葉や知識だという戒めを込めてボソッと『まあチートだけど』と呟くものの、そういう後ろめたさがあるのならあまり仲間や国民に向けて得意気にひれらかすなよと、視聴者ならツッコんでしまう。
【総評】
8話で断念。もっと早く切ってもよかったのだけど6話の“HIPの湯”やアルベルティーナの土下座が見たくてつい頑張ってしまった(笑) それらも別に必見レベルではなく、普通のアニメ好きなら1~2話辺りで切る程度の代物であろう。
一見すると「チートで異世界無双なんてくだらない!等身大の男の子が一所懸命に考えて、努力して異世界を生き抜く方がカッコいいじゃんか!」と伝えてきそうな────『灰と幻想のグリムガル』の様なテーマを携えているようにも見えるが、結局は異世界の住民の知識や文化レベルを下げて、主人公はスマホで調べた戦術や武器の作り方を自軍に教えることで無双し、そんな姿を見て女性キャラはホの字という、まあ「いつものやつ」であった。自分では殆ど何もしない分、チートで異世界無双より質が悪いと思う人も多いのではないだろうか。
作画は崩壊こそしていないもののギリギリだ。戦争を扱うためアクションシーンは多いものの、制作の「なるべく動かしたくない」という気持ちが前面に出ている手抜きアニメーションは非常にツッコミどころが多い。OP映像からして大槌(ハンマー)と日本刀がモッサリとチャンバラしているのが可笑しいし、武将同士の対決だと互いの馬を隣り合わせで駐車してからその場を全く動かず上半身と得物のみで戦うというシュールな戦闘シーンもある。描いてて変だと誰も思わなかったのか、思っても指摘せずに通しちゃうような制作環境だったのか……。
著名な声優は殆ど起用されておらず、何気ない掛け合いも歯の浮くような台詞と演技であまり聴き心地がよろしくない。メインキャラ役よりもチョイ役で登場する飛田さんの方が圧倒的に上手かったな。後ティーナ姉妹役の碧ちゃんと竹達ちゃん
主題歌はいかにもギャルゲーっぽく、BGMも安っぽい。「テテテテテテテー、テテテテテテテー」なんてのもあったが、あれフリー素材じゃなかったかな?
アニオタから見ればどうしようもないくらい酷い作品であるのだが、月並みな要素も多分に秘めたこの作品は正に「ジャンキー」アニメ────一般人が深夜アニメと聞いて想像したものそのものなのではないかと危惧してしまう。だからアニメ鑑賞という趣味は未だに見下げられ、大っぴらにはしづらい趣味なんじゃないかと思う。
アニメーションというのはもっと凄くて、綺麗で、圧倒されて、感動できるものだ。
こういう認識が世間にもっと広まるよう、本作レベルの作品を低予算にしてでもアニメ化するという企画には、いい加減ストップがかかってほしいと願うばかりである。
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