nyaro さんの感想・評価
3.6
物語 : 4.0
作画 : 3.0
声優 : 4.0
音楽 : 3.0
キャラ : 4.0
状態:観終わった
ひょっとしたら反私小説という純文学なのかもしれません。
私小説というのはいろいろ定義はありますが、自分の内面や体験を嘘偽りなく主人公に仮託し、物語性を排除して、淡々と記述することで人間の本質に迫る純文学です。
本作についてはどうでしょう。ある日現実とはまったく違う世界で、ほぼNo1の力を手に入れ、金髪ロリ美少女と心を通わせ、エロい亜人なんかと一緒に旅することになります。
クラスメイトと一緒で、自分だけが力を手にいれ、彼らに対し圧倒的優位に立ちます。しかも、クラスのマドンナ的女の子の理解を得、自分の味方にします。
物語はあるようで無いと思います。なろう小説のテンプレ異世界で、テンプレの物語。これはストーリーのようで実は型でしかありません。つまり物語性は排除しているわけです。重要なのはどういう主人公なのか、そしてハーレム化するエピソードをこれでもかというくらいに描写しています。
これは本作に限らず、ほぼ全ての異世界転生ものに言えることですが、純粋に「どういう自分に憧れるか」というのを一生懸命語っているだけに見えます。
つまり、願望のカミングアウトとしてはこれほどの赤裸々なものははないと思います。ほとんど裸の自分を見てくれ、と言っているに等しいのではないでしょうか。異世界転生もの…特に俺TUEEEものは、露悪的とも言っていいくらいのグロテスクな自分自身の欲望の表現な気がします。
自分自身ではなく正反対の自分、妄想の中の理想の自分を描く=反私小説ということです。
例外はあるでしょうが1作家1作品が多いのは、これが原因なのではないでしょうか。つまり、究極の私小説としてすべて自分の欲望を乗せてしまっているので他に書きようがないのでしょう。2作目以降がちゃんと内容があって面白いとなると私小説では無くなってゆくのでしょう。
なろう小説に投稿したいという心理は、こういう欲望の自己表現をしたいということなのでしょう。異世界が多いのは現代日本ではない現実ではないどこかの世界である必要があるのでしょう。ハーレム、俺TUEEEは言うまでもありあません。
冒険したい、スローライフを送りたい、街づくりしてトップに立ちたい、復讐したい、攻略マニュアルが欲しい…なんとなくなろう型の異世界転生小説の構造が分かる気がします。
逆にいえば我々は自分がはまる異世界ものの中身を分析すると、自分の内面に肉薄できるのかもしれません。つまり、純文学なわけです。
本作については、原作と違うとかいろいろ言われていますが、結構面白かったです。なんでだろう、と考えた時、アレ?ひょっとして自分の願望?とちょっと思ったわけです。
似たような異世界ものが数多くあります。自分の内面を探ってみるのに丁度良いのではないでしょうか。