ナルユキ さんの感想・評価
3.8
物語 : 3.5
作画 : 3.0
声優 : 4.0
音楽 : 4.0
キャラ : 4.5
状態:観終わった
語源通りの意味での『B級』アニメ
続編制作費をクラウドファンディングやふるさと納税で補填したり、タイトル内の「ドロップキック」にちなんで女子プロレス団体とのタイアップを図ったりなど、内容よりもプロデュース方法に凝って悪目立ちを続けるB級コメディ。
しぶとく、見苦しく生き残っている。そんな印象をも抱かせるシリーズだが、アニメが毎クール50~60本も放映される時代だからこそ、先ずタイトル名を覚えてもらう(Attentionを重視する)ために他とは違ったことをするというのはアニメもビジネスである以上、理に敵った手法と言える。
しかしレビューにおいて、やはり大事なのは内容だ。今や3期『邪神ちゃんドロップキックX』も放送を終え、4期の制作も決定させた本シリーズが彼方此方で「B級」と称される所以は何か、それを私のレビューでも語っていきたい。
【ココがひどいw:その風格は2期か3期か】
この作品、アニメだけで語るならやっていることが滅茶苦茶だ。
物語というのは先ず物事の始まりを描写し、主人公やその周辺の者たちの人物像を紹介、そして彼らに「目的」を与えた上で話を展開していく。視聴者にどんな作品か知ってもらうため、例え笑いを取れればオールオッケーなギャグ作品でもそうせざるを得ない筈である。あの『ボボボーボ・ボーボボ』でも第1話は敵の王国がその権威を知らしめるために民衆の髪を刈る“毛狩り”を開始したという導入から始まるなど、そこは真面目にやっている。
ところが邪神ちゃんシリーズの1期目である本作の第1話に飾ったエピソードは、なんと原作の第59話。メインキャラが勢揃いで「すき焼き」を行うところから始めるのだからビュティさんがツッコミを入れるのも時間の問題だろう。
そんなカットされるくらい序盤がつまらないのか?と訊かれれば、そんなことはない。{netabare}邪神ちゃんを召喚したはいいものの、帰し方がわからず自身の住まいに置くことにした女子大生・ゆりねと召喚者を殺せば魔界に帰れるので、ことある毎に彼女の命を狙っては手酷い返り討ちに逢う邪神ちゃんの関係はカチンコ鳴らして80年の『トムとジェリー』のようであり、彼の作品と同じく2人のドタバタとした争いから作品の幕を開けた。
他のキャラクターも魔界から来た悪魔だったり天界から来た天使だったり。メデューサは直接顔を視た人間を無差別に石化させてしまい、ミノタウロス娘のミノスも初期は種族特有の怪力と観光客気分のぶっ飛んだ行動で珍騒動を起こしてきた元問題児だ。そんな悪魔たちを粛清する立場だった天界の天使・ぺこらはなんと自身の力の源である「天使の輪」を失くしてしまい、逆に邪神ちゃんに虐められる転落人生真っ只中────といったいかにもギャグ作品らしい展開を描き続けてきた作品である。Webコミックでな{/netabare}
序盤に詰められた必要最低限の説明や初々しい筈のキャラクターの登場シーン、キャラ同士が同じ食卓を囲めるまでに至ったコミュニティ構築をアニメで描くことは全くなく、まるで1期や2期を踏まえて3期目の放映を開始したかのような妙な貫禄で邪神ちゃんシリーズのアニメ化は始まったのである。
コミックメテオは1話と最新話が無料で読めるWebコミックなので視聴前にマンガの『邪神ちゃんドロップキック』を読んでおこう!(ダイマ)
【ココもひどい?:スプラッタ描写とメタ発言】
上記の型破りな導入も含めて、笑いを取るなら何でもするのが邪神ちゃんのスタイルだ。
お約束として邪神ちゃんが命を狙ったり他の悪事を働くことでゆりねが制裁を加えるのだが、その方法がマチェットで身体を捌いて肉(ヘビの部分)を食したり、バールのフルスイングで背骨を折った後にチェーンソーでミンチにするなど過激な描写が目立つ。方法に応じて血もドバドバ噴き出し六畳一間のアパート一室を赤色に染め上げる様は非常にバイオレンス、正に深夜版『トムとジェリー』である。ジェリーは逃げが主だから、ゆりねのポジションは従兄弟のマッスルかも?
メタ発言も豊富にあり『お前を殺して残りの尺は総集編』や『音声さん!?今のモノローグです!リテイクリテイク!』なんて台詞が出るのはアニメならでは。ギャグ作品だからこそ自分の世界観をぶち壊すことに何の未練も無いようだ。
【でもココが可愛い:必要最低限の萌え】
そんなドタバタ喜劇をひたすら繰り返す作品であるが、意外と深夜アニメらしく「萌え」が備わっているのもポイント。女子(♀)キャラを中心とすることでメインターゲットをオタクの多い男性に絞っている。
作画はヘタることが大半。しかし基本はギャグなので『この素晴らしい世界に祝福を!』のように赦せる部分が多くあり、原作者デザインをきっちり守ることで各キャラの一定の可愛さが保たれている。
萌えシチュエーションも良い。普段は「クズ」としか言えず、過剰な折檻を受けていても何ら可哀想なんて思えない邪神ちゃんでも間違えて照れたり、折檻の後に優しくされて拗ねてみる表情が可愛かったりする。彼女は不死身の再生力で肉体的苦痛は耐えきれても根は優しくさびしがり屋。ゆりねが患った時には(見殺しにできれば魔界に帰れるのに)精一杯看病したり、普段はATM扱いのメデューサにも絶交を切り出されると滅法弱かったりする。
そんな2人とは各々CP(カップリング)要素もあり、ゆりねとはやはり同じ屋根の下で暮らしドタバタとしたトムジェリのような信頼関係が、メデューサとは互いに人間に擬態して街を散策するデート回などがある。この作品の触れ込みだけでは考えられなかった「百合」「尊み」といったものも備わっていて、意外ではあるが楽しめる。素行の悪過ぎる邪神ちゃんの時たま魅せる「ツンデレ」的な一面にしっかり萌えることができ、憎みきれないキャラクターとなっている。
【でもココがつまらない:邪神ちゃん以外】
贅沢な注文をつけるなら、ギャグアニメとしてはもっと全キャラクターがハジけていて欲しかったところだ。物語の中心を主人公・邪神ちゃんに据えているので彼女だけが面白いことは決して間違ってはいないものの、それ故に彼女からフォーカスを外した話は必ずと言っていいほどつまらない話が多い。
{netabare}牛娘・ミノス回を観ると上記の主張に共感していただけるだろう。彼女の生活サイクルは只の日常コメディであれば全然アリだが、若干、フィジカルをもて余している以外は普通に気の良い「お姉ちゃん」をやっているだけなので笑い所は一切、見つけられないのである。
『ミノスに比べて邪神ちゃんは……(呆)』と当て擦りのようなヲチで〆るわけだが、ここでやっぱり邪神ちゃんを登場させるため、話のヲチすらも彼女に依存していると言えてしまう。
そんな披依存的な邪神ちゃんも毎度、抱腹絶倒なギャグを見せてくれるというわけではなく、後半からは『ドラゴンボール』からオラ繋がりで『クレヨンしんちゃん』、「移籍」と称して『名探偵コナン』、『食戟のソーマ』、『進撃の巨人』の格好をして版権会社に突入するなど安易なパロディーに頼るようになる。{/netabare}
{netabare}邪神ちゃんから自立して独特なネタを見せるのが天使の輪を失くして以来、運も要領も悪く極貧生活を送る(兎じゃない方の)ぺこらだが、換算すれば邪神ちゃん以上に不憫な目に遭っているやもしれない彼女、真面目であればあるほど損をする我が国・日本の社会を憂う彼女を笑うのは何だか気が引けてしまう。{/netabare}
【総評】
全体的に見て好き嫌いははっきりと分かれてしまう作品だろう。ギャグアニメの中で行われる過激なグロ描写は人によっては嫌悪感を抱きやすく、幾度もミンチにされてしまう邪神ちゃんを笑えるかどうかで、この作品を楽しめるかどうかが決まる。上記でも書いたが深夜版『トムとジェリー』みたいな作風となっており、少年時代に彼の作品を顎が外れるくらいに爆笑しながら観ていた私だからこそ、本作は苦笑いしながら完走できた次第だ────スケールダウンしてないかって?まあ、もう大人だし……(泣)
第1話から時系列シャッフルをかまして原作未読者お断りな内容になっているものの、中盤になるとキャラクターの印象はすっかり定着しているので、そこから再視聴すると中々味わい深い。初見でも、
①邪神ちゃんはゆりねに召喚されて帰れなくなっている
②メデューサとミノスも悪魔だが、ゆりねに含むところはないらしい
③ぺこらは天使だが輪っかを失くして帰れなくなっている
④邪神ちゃんはことあるごとにゆりねにちょっかいをかけるが、尽く返り討ちに遭う
この4点を押さえれば十分、理解できる内容である。
ギャグやヲチが1キャラに集中していたり、かと思えば拍子抜けするような萌え回・日常回を描いたり、でもやっぱり作画があまり良くなかったり────方向性がいまいち定まっていない「中途半端さ」がこの作品を「B級」と評価たらしめている。だが語源となる『B級グルメ』と同じく、米国アニメであるトムジェリのノリを取り入れながら日常系、過激なスプラッタ、ブラックジョークなどを描写することでA級には無い独特な魅力を醸し出しており、庶民の代わりに邪教徒──この作品のファン──を中心に親しまれているようだ。
毎期こういうアニメが1つくらいないと寂しい。
そんな気分にさせるオーラがクラウドファンティングを成功に導き、息が止まらず続いている。今後はどんなプロモーションを引っ提げて続編を作るのか。なんだかんだで気にはなってしまう秀作である。
10