退会済のユーザー さんの感想・評価
4.5
物語 : 4.5
作画 : 4.5
声優 : 4.0
音楽 : 5.0
キャラ : 4.5
状態:観終わった
【更新】言葉…それは人の営みを彩る現代の魔法
2016年10月~。原作 三浦しをん(直木賞受賞作家) 制作 ZEXCS。全11話。全話視聴済。原作未読。編集社による辞書制作に携わる人々を描いた異色の秀作。
【まえがき】
言葉・言語・表現に興味のある方、社会人、仕事の経験者、書物好きなど、やや指向性が別れる作品。
描写の色合いは淡く作画はシンプルなのに美しく、心にすうっと入り込むような優しい描写に惹かれます。
本作は、人の志し・営みを描いた秀作です。各話ED曲の後に次話に繋がるショート動画が有るのでお忘れなく。
【本編・みどころなど】
物語の舞台は、出版社 玄武書房 辞書編集部。デジタル化で紙の刊行物の販売低迷に歯止めが掛からない時節。辞書「大渡海」の出版を目指し奮闘中。
玄武書房の営業に属する馬締(まじめ)は知的だがメッチャコミュ力が低い。営業時に辞書編集部 西岡と出会い、営業としての在り方を指摘された際「空気を読めって事」と言われ無意識に反応を示す…。それを辞書編集部のベテラン荒木は、西岡から変な営業 馬締との会話を聞き閃く…。
長年辞書作りを共に歩んできた松本(国語学者)の言葉を思い返し、導かれるように馬締をみつける。人の出会い・縁の絶妙な描写。右の説明を求められた馬締は「身体を北に向けた時、東にあたる方角」と答える。馬締が「大渡海」に踏み出す瞬間だ。
帰宅後、自信が無いと語る馬締にタケ婆が「頼ったり頼られたりすればよい。一生懸命伝えれば皆も応えてくれる。」と諭すシーンは印象的。就寝後、トラ(猫)の鳴き声で目を覚ました馬締はベランダに出る...そして出逢う...。
「へぇ…嬉しい…迎えにに来てくれたんだ…」満月を背にトラを抱く月姫 林 香具矢と。前編の最も美しい描写。素晴らしい。
{netabare}
翌朝目覚めた馬締は、玄関を開けると香具矢が目の前に!挨拶する香具矢に返答も出来ず逃げ去ってしまう馬締に思わず「おぉ~いっ!!」とたくなる!。
辞書編集部の日常を通じ、馬締は一見チャラ男っぽい西岡とタッグを組む事で、徐々に夫々の能力を開花させてゆく。そのきっかけが馬締の恋バナかよ!!
香具矢が勤める料理屋を訪れた一行は、彼女の凛とした美しさ、熱意を称え、馬締は本気で西岡に恋の指南を頼む。「変な奴だけど面白くなるかもな」相棒となる瞬間だ。
しかし…新辞書出版の企画がボツりそうだと耳にする西岡…。
西岡の行動力、コミュ力、人脈が発揮するが彼は気付いていた。組織の壁が立ちはだかる事を。
久々の休日を得た馬締は偶然休みだった香具矢と共に初デート…。初冬の柔らかな陽射しの中、観覧車に乗る。
香具矢は「観覧車は料理に似てる。美味しい料理を作っても終わりじゃ無くて、そこが始まり。本当の完成って無い」と。馬締は共感し「僕、遊園地の乗りで、観覧車が1番好きです...」と下手な告白かよ!好きですとは大人でも言い難いけどね...。
予想通り、西岡は局長に呼び出され、半年後に宣伝部への移動と難題を押し付けられ、辞書編集部も仕方なく応じるが、移動については言い出せずにいた…。
外出した彼は、麗美(西岡の恋人)からの電話の気遣いを察し、宣伝部への移動を打ち明ける。例の恋文が15枚に及び、漢詩混じりの長文に呆れつつ「アドバイスするって約束しちまったしなぁ」と。情感溢れる西岡の描写に涙腺が緩みます...。
西岡に背中を押され、思い切って恋文を香具矢に渡す馬締だが…。内容を読んだ香具矢はラブレターだと確信が持てず...。
翌日、恋文を携えた香具矢と顔を合わせるが、緊張感に耐えきれず逃げ出す馬締。馬締ぇ~!と叫びたくなります!全くもうっ...タケ婆にメッチャ同意!
馬締を激励する西岡だが...打ち合わせの席で、春に移動になる事を打ち明ける。悔しさと申し訳なさ、馬締の不安な心理が伝わる描写が上手い。
帰宅し、業の意味を思い起こし前進する覚悟を決める馬締。同時に香具矢への想いにケジメをと、帰宅した香具矢に「恋文の話です!」と言えるが、2階に駆け上がってしまう香具矢...。
月明かりが射し込む部屋...「来たよ...」と声を掛ける香具矢...。「ラブレターだと確信が持てなくて...一晩悩んで...聞きに行こうとしたら逃げちゃうし...」でも...お互いの気持ちを言葉にして...。恋が実る素敵なシーン。おめでとう...。
大渡海の編集を依頼した大学教授に、手直しの内容が悪いとなじられ土下座を求められるが「大渡海はそんな安い辞書じゃねぇ...」。それでも最後は礼を尽くす。かっこいいぜっ西岡!!
西岡が移動した4月。新たな変人?岸辺 みどり(入社3年目。元女性ファッション誌編集部)がチームに加わる。彼女の登場で、自分の能力が何処で発揮できるかなど、やってみなければ解らない描写が上手く伝えられている。製紙会社 営業の宮本 慎一郎も仕事に真摯に向き合い、挑み続ける事の大切さを教えてくれる。
みどりは歓迎会の席で、自分が辞書編集に向いていないと飛び出してしまう。香具矢は「難しいね言葉って。一緒に辞書作れるといいね...」と馬締を励ます。包み込まれるような描写に緩める。
ベンチで考え込むみどりに、送迎から戻った西岡は右を説明してみろと促すと、「身体を北に向けた時、東にあたる方角」と答え、西岡を驚かせる…変人チーム加入決定!!
翌日、みどりは西岡が残した丸秘ファイルを発見し、馬締が書いた香具矢への恋文をみつけ読んだ末、言葉を大切にする意味を考える。時を経ても変わらず必要とされるものがあり、それは時代と共に変化が求められる事の表現描写が良い。
しかし、四校編集済みの中に「血潮」が抜けていることが発見される!
24万語の総ざらいを決めた馬締は、バイトと共に奮闘する中、松本が入院したとの報が…。混乱、不安、蓄積する疲労...。
皆で力を合わせて何かを成し得る描写は、全ての作品を通じて素晴らしいものです。{/netabare}
最終話。
馬締、荒木は報告の為、鎌倉の自宅で療養中の松本を訪ねる。松本は語る「言葉を紡ぐ人の心は自由であるべき」と。そして癌を患っていると告げる。松本の穏やかな表情描写に胸が熱くなる。
帰りの駅のホームで馬締は「誰もが自分の思いを伝えようと喜んだり傷ついたり。僕達に出来るのは道を照らし立ち止まらず、次の誰かにバトンを渡すこと」。覚悟の表現が素晴らしい。
最後の刷り出しが終わり、湧き上がる辞書編集部だが...。
松本が他界したとの電話が...。
西岡が想いを語る「大渡海は未来を担う人々にとって道標となる様にとの願いと情熱から生まれた。この辞書を1人でも多くの読者に届けられる事を心から誇りに思う」と...。グッとくる。「間に合わなかった」と涙ぐむ馬締...そっと寄り添う香具矢...。感無量の描写...。泣ける...。(キッチンから顔を覗かせた嫁が、あらあら...歳?涙腺弱くなったわねw)
完成した大渡海を前にお互いの労を労う中、心の整理をする馬締に西岡が語る。「俺達だけじゃない。人は支え合ったり補い合ったりしないと海を渡れない」と。2人が部屋を出た後、月明かりが差す部屋の描写...。拍手の音と出版記念パーティーの描写にクロスオーバーする「I&I」...ゆっくりと、じわっと染みるエンディング...荒木に宛てた松本の手紙を読む馬締...そして桜並木の中を香具矢と歩む...人生という旅を共に...。そして時も人も巡るのです…。
【あとがき】
EDのLeolaさんの「I&I」は柔らかく包み込まれるような歌唱でとても好みです。宜しければ聴いてみてね♪
https://youtu.be/KdA_pxK83T0
(JASRAC利用許諾済映像)
11話と長くない話数の中で、13年以上の歳月を描く制作サイドの力量に感服しました。辞書の特色を辞書タンズ(擬人化辞書キャラ)が解説するなどの工夫も良いです。本作の様に人が努力と研鑽を重ねて何かを成す物語はとても素晴らしく、もっともぉ~っと増えたら良いなぁと期待します。