「アキバ冥途戦争(TVアニメ動画)」

総合得点
74.8
感想・評価
329
棚に入れた
940
ランキング
852
★★★★☆ 3.7 (329)
物語
3.5
作画
3.8
声優
3.8
音楽
3.6
キャラ
3.7

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ネタバレ

ナルユキ さんの感想・評価

★★★★☆ 4.0
物語 : 3.5 作画 : 4.0 声優 : 4.5 音楽 : 4.0 キャラ : 4.0 状態:観終わった

萌えが如く

P.A.WORKSといえば「お仕事もの」と想像する人は多いのではないだろうか。『SHIROBAKO』や『花咲くいろは』、『白い砂のアクアトープ』とPA.WORKSはオリジナルアニメで数々の「働く女性」を描いてきた。この作品もそんなお仕事モノといえる。
キービジュアルの時点ではメイドものをやるのかな?と想像させる、しかし、タイトルをよくご覧になってほしい。メイドはメイドでも「冥途」である。1985年秋葉原、黒塗りの車から妙齢の女性が降り立ち、雨が降りしきる中で自らの店に向かう最中、これまたひとりのメイドが現れる。彼女が手に持っているのは「拳銃」だ(笑)
メイドアニメが観れるかと思ったらヤクザアニメが始まる、とんでもないファーストインパクトには思わず笑ってしまった。
親分という名の店長の「命{タマ}」を取られた舎弟は復讐を誓う。とんでもないアニメが始まったことを1話冒頭から感じさせてくれる作品だ。

【ココが面白い:メイドと極道の意外な好相性(1)】
本作の主人公である和平なごみ{わひら - }はメイドに憧れ、わざわざ上京してまで秋葉原のメイドカフェに住み込みで働いている。しかし、彼女はこの世界における「現在」のメイドカフェの事情を知らない。
おひねりという名の「上納金」をせっつかれるのは日常茶飯事。やらかしたメイドは指ではなく「ツインテール」を詰め、他店にお使いにいけば「抗争」が始まり、メイド同士が殺し合う。この作品はそんな昭和の任侠ドラマの様なノリでずっと進んでいく。
「メイド」と「極道・ヤクザ」────観てみるとこの2つの要素が意外な好相性なことがわかる筈だ。本来のヤクザも非合法活動ばかりしている組織なんてことはなく、貸金業に風俗店・飲食店などの経営、屋台の出店といった「表の顔」も当然ある。この作品ではそれが「メイド喫茶」だけに特化しており、メイドたちは怖いお兄さんたちにケツを持ってもらうのではなく「自分たちで」大事な店を守っているのだ。
とは言え、荒唐無稽な世界観であることには違いない。秋葉原の町中で銃弾をぶっぱなしまくって、毎話のようにメイドから大量の被害者が出てくる。こんなぶっ飛んだメイドの世界を視聴者と同じくなごみも知らない。この作品のストーリーがどこへいくのか、なごみはいったいどうなってしまうのか。先の展開が全く読めない1話の期待感は素晴らしい。

【ココも面白い:メイドの街・秋葉原に根付く裏社会と任侠道】
メイドを通して基本的にはコミカルに描きつつも、この作品は日本の闇────「裏社会」を描いている。メイドカフェという名のヤクザ同士の抗争だったり、メイドカフェが運営する「裏カジノ」があったりと、メイドに置き換えてはいるものの8割方はヤクザものである。
偽造ブランドバッグという名の偽造萌えフィギュアだったり、地下闘技場的なのがあったりと、序盤はそういった「メイド」の世界という名の「ヤクザ」の世界を描きつつ各キャラクターを掘り下げているような印象だ。
そんな各キャラたちがなぜこんなメイドというのは名ばかりの任侠の世界で働いているのか。ヤクザとほぼ変わらない世界、いつ死ぬかもわからない。それでも彼女たちはこの世界から逃げない。
そこにあるのは義理か、人情か、自分らしさを表現するためか。各々のメイド道という名の「任侠道」が綴られる。特に万年嵐子{まんねん らんこ}は35歳、前科有りのメイドだ(笑) 年齢も過去も色々とメイドとしてアウトな彼女のメイド道が主人公へ徐々に影響を与えていく。
{netabare}みんなと出会えてよかった。メイドカフェ『とんとことん』で働けてよかった。しかし、そう思いながらもなごみは皆と同じ様に暴力を振るうことはできない。そんな中で「友達」が抗争によって死んでしまう。固めのラーメンの盃を交わし、姉妹の絆を結んだメイドが(笑)
話自体はかなりシリアスな展開になってくるのにもかかわらず、こういう笑いどころがあるため、シリアスにはなりきらない。この絶妙なバランスが狂った世界観を構築しているものの、観る人によってはどういうスタンスで観ればいいのかよくわからない感じにもなっている。{/netabare}
メイドや秋葉原といった要素がなければ途端にガチでシリアスな任侠ものになってしまうところを、この作品は絶妙なバランスでカオスに仕立て上げている。

【そしてココが熱い!:なごみの覚悟】
{netabare}盃を交わした姉妹が亡くなったからこそ、彼女は覚悟する。メイドとはなんなのか、メイドを続ける意味はあるのか。迷った彼女は一時は「忍者」になりつつもメイドであることを辞めない。ちょっと意味がわからない展開ではあるものの、忍者やメイドを堅気やヤクザという言葉に置き換えれば納得はできる。
置き換えているからこそカオスだ(笑) 秋葉原でメイドと忍者が戦う姿はシュールな絵面を生んでいる。だが、主人公であるなごみは確かに成長している。血で血を洗うメイドカフェ同士の抗争、それは憎しみの連鎖だ。殺し殺され、殺し合う。その果てに何があるのだろうか。
彼女は義姉の意思を受け継ぎ、そして自らの「メイド道」を見定める。

『生きろよ!殺すなよ!アンタもメイドなら萌え萌えキュンキュンしろよ!!』

復讐の相手を許しはしない、だが、殺しもしない。それがなごみが貫く「メイド道」だ。私たちの知らない血みどろなメイドの世界を彼女は変えようとする。血ではなくケチャップでオムライスを彩れるメイドになれるように、そのために嫌いだった暴力も振るう。殺すためではなく守るために、「変わらない」ために彼女は変わるのだ。
できれば戦わずにいざこざを解決したい。そんな思いがなごみを本作の主人公にする。彼女の影響を受けて嵐子やゆめち、しぃぽんも変わろうとする(店長は知らん笑)。彼女らが目指すのは萌えとメイドの世界から「銃」と「暴力」を廃することだ。
一度血に染まったメイドの世界はそう簡単には変わらない。なごみの理想、そして我々のよく知るメイドの姿は19年後──最終話のエピローグ──まで取り戻されることはない。{/netabare}

【総評】
一言で表すなら「快作」と言って差し支えないであろう。
現代主流のアキバ系メイドを描くと見せかけてメイドカフェ同士の抗争から内乱、殺し殺されシノギを奪い合う姿という「ヤクザ映画」を描いていく。メイドと聞いて思い描く各人の固定観念をぶち壊しかねない作品だ。
序盤はそのぶっ飛んだ世界観と価値観を持つキャラクターたちに主人公諸とも振り回されながら、この作品をどういうスタンスで観ればいいか手探りながら追うことになるだろう。あっさりと死にゆくメイドたち、血で染まるメイド服。だが、そんな死の連続とは裏腹な狂気じみたギャグで彩られている。
そんな勢い任せに進みながらも中盤ではなごみが主人公として覚醒し、仲間たちを牽引する立場へ変わる。自らの名字にも込められた「平和」と御主人様やお嬢様に尽くす「奉仕」の心。ヤクザなメイド世界に揉まれて何度もそれらを忘れて捨てそうにはなってしまうものの、その同じ分だけ拾い集め直してヤクザなメイド世界へ突き立てていく。歪んでしまったこの世界のメイドを正しい物にしようとする「メイド」の勇姿をとても熱く映し出していた。
惜しむらくは〆のためか、終盤が急展開となったことであろう。{netabare}ケダモノランドグループ総帥・凪によるとんとことん追放、嵐子と他キャラの軋轢、からの結束、そして嵐子の急死etc.{/netabare}これを第11話だけに詰め込むと中身が(というかこちらの脳内処理が)パンクしそうだ(笑)
{netabare}最終話も嵐子の仇を討とうと荒れたかと思えば収まったりするなごみ、とんとことんの追放を取り消したのに再び潰そうとする凪など登場人物の感情の揺れ幅が忙しない。しかし大切な人を喪った女の激情というのはこのくらい不安定なものなのかも知れない。
ラストは暴力を絶ち切り「メイド」を貫くなごみの勇姿で〆る。が結局は凪という邪魔者が報復で始末されることでようやくメイドが我々の知る形になったというのは何とも皮肉?な話である。{/netabare}
やや終盤は強引に話をまとめた感はあるものの、やりたかったことは伝わる作品だ。ただ、この荒唐無稽さやラストの詰め込み感は賛否が分かれるところであり、色々な意味で人を選ぶ「快作」といえる作品だったのかもしれない。

投稿 : 2024/05/17
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サンキュー:

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