「銀河英雄伝説(TVアニメ動画)」

総合得点
89.1
感想・評価
945
棚に入れた
4043
ランキング
90
★★★★★ 4.3 (945)
物語
4.6
作画
3.8
声優
4.5
音楽
4.2
キャラ
4.5

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ウェスタンガール さんの感想・評価

★★★★★ 4.5
物語 : 4.5 作画 : 4.5 声優 : 4.5 音楽 : 4.5 キャラ : 4.5 状態:観終わった

ブラジルから来た少年

“あにこれ”レビュアーさんのお薦めと“密林”サーチのお陰もあって、我が家にも『本伝』(全110話)がやって来た。
カイザーラインハルト陛下に拝顔の栄を賜るは望外の喜びにて…云云かんぬん。
カエサル風に言うなら、「来た、観た、面白“かった”」ということで…。

そこに繰り広げられるは、たった今我々が生きる歴史そのものであり、陳腐さの極みにして気宇壮大、余りにも見事な三文芝居という意味では、スペースオペラの名に恥じぬ大作である。
そして、気分の悪くなる程に符号する“21世紀のリアル”を前にして、その試聴タイミングの良さに半ば戸惑いつつ、これ即ち地球教徒の陰謀?、あるいはルビンスキーが手を廻している?等と、つまりは、作為を巡らす存在の術中にはめられたのではなかろうかと…、あっという間に妄想の沼に引きずり込まれた自分の浅はかさに呆れつつ、2ヶ月に渡る大遠征を楽しんだわけだ。

そんなとち狂った世界にあって、真っ先に触れるべきは、世代的にはと断ったうえで、特別な郷愁と尊崇の念を禁じ得ぬ早世のレジェンド、富山敬氏の想いが乗り移ったかのようなミラクル・ヤンと、その穏やかな語り口で山の如き存在感を示してくれた納谷悟朗氏のメルカッツ提督を筆頭に、数多くの個性豊かな声優陣の名演であろう。
激情に駆られず、何処までも伊達と酔狂を貫く生き様に乾杯である。
それにしても、皆良く飲む。
そういえば、製作委員会にサ○トリーが入っていたな。

加えて、この作品の度し難さは、ヤン・ウェンリィが独白の形をとりながら、「生きた歴史認識」を伝えようとする熱量の半端なさにあるだろう。
金髪碧眼へのコンプレック丸出しのキャラデザはご愛敬として、これでもかと人類、それも近世ヨーロッパ文明史を再び辿るが如き銀河の歴史が綴られてゆく。永遠に創造し破壊する生の肯定、それを阻もうとする宗教の腐敗と都市の爛熟である。
オズワルド・シュペングラーである。
『西洋の没落』である。
原作者によって、この大著が設定のモチーフに選ばれただろうことは想像に難くない。
神聖ローマ帝国、プロイセンに始まるドイツ帝国の興亡、第一次世界大戦の惨禍を目の当たりとして生まれた「未来へ向かう」歴史認識の書である。
それゆえに、まさに当時生まれ落ちた鬼子、アーリア民族の現代的未来的神話の捏造によって第三帝国を予言的に実現しようとしたナチズムの理論強化に利用され、戦後日本においても、GHQによる発禁処分を受けたといういわく因縁を持つ訳だが。

まあ、詳しくはウェブでと言いたいところではあるが、松岡正剛氏の千夜千冊から若干の抜き書きを。

曰く、「あらゆる文化は予定された歴史的運命によって発展し、変貌し、ついに円環をなす」
それは、ゲーテ=ニーチェ的意志による歴史認識の試みであり、植物形態学者でもあったゲーテが言うところの、死んだ自然と生きた自然とが対立共存しているという視点に、ニーチェの、ギリシア神話の酒神ディオニソスのうちに示される陶酔的・創造的衝動と、太陽神アポロンのうちに示される形式・秩序への衝動との対立が円環を成す永劫回帰の視点を代入することで導かれる、生きながら発展してゆく歴史。

何だかよう分からん…。

しかし、これだけは分かる。
死者との対話、相続されてゆく文化という遺伝子。
それは歴史も同じ。
『ブラジルから来た少年』が、再び彼の独裁者と同じ道を歩むとは限らない。
「氏より育ち」ということだ。
劣等感の裏返したる国粋主義の跳梁跋扈を防ぐ道を探す旅は続くのである。
ただ一点、もし今の日本が見習うとするならば、それはきっとトリューニヒト的狡猾さなのかもしれない。

いやいや、それは無いぞ、無いと信じる。

投稿 : 2022/05/18
閲覧 : 318
サンキュー:

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