saitama さんの感想・評価
3.7
物語 : 4.0
作画 : 3.5
声優 : 3.5
音楽 : 3.0
キャラ : 4.5
状態:観終わった
良い映画。しかし、その一方で人の業を全面に表している。
江戸時代に切り捨てられた河童の父を持つ、河童クゥが数百年間石の中で眠り、現代の社会で蘇った。クゥを見つけた子供との、ひと夏の成長物語。
クゥとクゥを見つけた家族との関係性が素晴らしい。あと、主人公と女の子との関係の成長性も素晴らしい。
とくに女の子が、離婚して離れる父親の靴を捨てるのが印象的だった。人の成長部分としては、そこがいちばん強かったかも…。ひとつの壁を乗り越えた瞬間だったと思う。
ただ、その一方で、人間の業がさまざまな形で出ていたのが…。人間の欲深さ、残忍さ、そして身勝手な行動と都合良い解釈の数々。そうしたものがすべて凝縮されていた。いじめとか、そんな単純かつ表面的なことではない。人の悪い面がすべて出ていた。あと、子供の無邪気さ、素直さ、意地悪さ、そうしたものも全面に出ていた。
こうした負の部分をあますことなく表現するのが良しとするのかどうか、わからない。ただ、童話だと思えば、人は決して良い面だけではないという、真理を伝えるには良いのかもしれない。…ただその一方で、グリム童話と同じで、本当にこれを子供に見せてよいものか…。本当にわからない。
大人になればなるほど、この表現がなにを伝えたいのかを何度も考えさせられる。
ある意味、LGBTなどの権利を主張するボーダレス社会へのアンチテーゼかな。何事にも何人にも、違いがあるからこそ、お互いに不可侵すべきものがある。一緒にいること、価値観の極端に違うものが同じ空間にいることが間違いだともわかる。過度な主張は新たな軋轢と問題を呼ぶ。差別ではなく、お互いのテリトリーにあえて入り込まないことの重要性。地球市民思想のドラえもんとは真逆かな。理解やリスペクトはあっても違う世界のものは違うと区別し、根本が違うことを割り切り、お互いにあえて主張しない大切さ。そのへんは、クレヨンしんちゃんの世界観にも通じてる。
物語の構成や脚本としては、人の業を全部見せることで、良い部分が引き立つのだけど、テクニックとしては少し狡いな。とくに、クゥが終盤にいう「死ななくてよかったよ」というのは狡いな…。
いい映画だ。人がこれを観て、自分のなかに何を見つけるのかはわからない。単純に「良かったね」では終わらない…。多分、受ける印象や思い描く答えは人それぞれだと思う。でも、それがいい。