てけ さんの感想・評価

4.1
物語 : 3.5 作画 : 4.0 声優 : 5.0 音楽 : 4.0 キャラ : 4.0 状態：観終わった

主張の強さが話に色を

原作はちょっとだけ既読。

ある日突然異世界に飛ばされたナツキ・スバル。
そこで銀髪の少女と知り合うのだが、理不尽な事件に巻き込まれ、命を落としてしまう。
しかし、気がつくとそこは彼女と出会う前の世界だった。

死ぬことで今までの出来事がなかったことになるけれど、それまでの情報を活かし、流れを変えていくお話です。


ストーリー開始時にいきなり異世界に召喚されます。
それでも不自然さを感じないのは、異世界ものが多い時代のおかげでしょう。
もちろん召喚理由はあるのでしょうが、感触の話。


基本的に脈絡なく事件が起こります。
流れを追っているだけでは、書きたいように話を重ねているように見えます。
一貫した主題も見えず、衝撃的なシーンや象徴的なシーンなどで印象付けを行っている感じがします。


しかし、設定はガンガン利用していますし、主人公の行動原理には過去のエピソードが生きています。
物語を作る上での要点は押さえているのだと思います。

そしてこの作品、キャラクターへのフォローを忘れていません。
ストーリーのためにキャラクターを使い捨てにしていないのがいいですね。
一度出したら何度も何度も活躍の場があります。
むしろ、キャラクターのためにストーリーがあるのではないかと。

「繰り返し」という性質上、同じキャラクターが違った形で出てきます。
そのため、紹介→発展→活躍→仲間という流れが、複数のエピソードをまたぐことなく、一つの舞台の中で自然に行えています。

一回目のループは知り合って悪印象。
二回目のループは知り合ってその人の内面を知る。
三回目のループは知り合ってその人の願いを叶える。
四回目に会ったときにはスバルを助けてくれる。

ってな感じです。

ただし、キャラクターのエピソード自体は陳腐です。

* 不幸な境遇から出世するシンデレラ
* 才能のある双子にすべてを譲ろうとした片割れ
* 戦いで愛する人を失った男の復讐の話

etc.


そんなありふれた話を盛り上げているのが主張の強さ。
キャラクターのアピールがものすごいです。

ラノベ等ではセリフがくどいことがありますが、この作品ではくどさを遠慮なく押し出しています。
「くどいは正義！」と言わんばかりのくどいセリフ回しにくどい演出(くどいくどい)。
他のアニメでは10分で終わりそうな内容でも1～2話平気で使ってきますね。
それに声優の熱演が乗るものだからさあ大変。
{netabare}
ペテルギウスの怪演、そして乗っ取られたスバルの演技はお見事。
スバルやレムの泣き演技も輝いていました。
{/netabare}

ただ、それが吉と出るか凶と出るかは見る人次第。
冷静にストーリーを追うと、「何こんな内容に時間をかけまくっちゃってんの」ってなります。
理想の主人公像を期待すると、「ちょっとこのウザさと情けなさに耐えられない」ってなっちゃいます(これは計画通りなのかもしれませんが)。
スバルが内面を吐露する回と、会話劇だけで終わる回でどう感じるかが物差しになるでしょうか。


でも、私はこの主張の強さがは結構好きです。
伝えたいことが見えにくく、ストーリーとキャラクターの成長をメインに見せる作品で、他作品との差別化が行われているからです。

……あ、もしかして「主張」がテーマだったりするの？

思い返してみると、わがままなキャラが多い気がします。
{netabare}スバルのエミリアに対する愛情だって、自覚していたようですが自分勝手なもの。{/netabare}
もしそうなのなら、13話は物語の転換点というだけではなく、主題を描いた大切な回ということになります。
なんとなくすごい気がしてきたゾ。


絵は特別凝っているわけではありませんが、柔らかくて見やすかったです。
キャラクターの描き分けもはっきりしていて、誰が誰かひと目でわかります。
キャラクターが可愛いと思えるのもデザインに裏打ちされています。

演出・構成では、OPテーマで始まり、EDテーマで終わるというスタイルを切り崩しているのが良かったですね。
タイトルを出すタイミング、引きの良さも輝いていました。

前期EDの雪の描写も良かったです。
時間は雪。
1つ1つは降ってもすぐ消えてしまうけれど、たくさん重ねれば積もって地形を成す。
こういう比喩は他作品でもどんどん取り入れて欲しいです。

声優や演出による主張の上乗せも含め、アニメとの親和性が高かったと思います。


長くなりましたのでまとめます。

* 設定や伏線はしっかり役立てている
* ありがちなキャラクターやエピソードを力技で光らせている
* 主張が強いため好き嫌いが別れやすそう
* 核があるのかどうかはよくわからない
* アニメならではの要素との相乗効果が高い


なんだかんだ言いましたが、ちゃんともらい泣きしそうになりましたし、楽しませていただきました。